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武蔵猫★三代目にして会社を倒産させたダメ社長の俺は死んだらカルトに嵌った独裁ハイシティ女王の王宮に住む黒猫になっていました  作者: 黒澤カール


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第九話【水の巻・浸透】静寂を切り裂く、肉球の隠密行

「水の巻」の本質は、器の形に従い、わずかな隙間さえあればどこへでも入り込む柔軟さにある。

女王ハイシティを傀儡かいらいとして操るカルト宗教「深淵の目」。


その権力の源泉であり、洗脳の拠点となっているのが、王宮の地下深くに建造された「深淵の祭壇」だった。


『いいか、カイル。経営再建における「現地調査」だ。敵が何を信じさせ、どうやって人を縛っているのか。その「からくり」を見抜かねば、いくら正論を吐いても民はついてこん』


 俺武蔵猫は、カイルの耳元で低く囁いた。  


今夜、俺たちは「千のサウザンド・アイズ」の精鋭を率い、教団が定期的に行う秘儀への潜入を試みていた。


「武蔵、地下の空気が冷たいよ。それに、この独特な甘い匂い……女王様の部屋と同じだ」


カイルは、猫たちの先導でたどり着いた下水路の隠し通路に身を潜めていた。  


目の前には、巨大な石造りの扉。その隙間から、紫色の禍々しい光が漏れ出している。


『黒鉄、状況を報告しろ』


暗闇から、黒鉄が音もなく現れた。

その毛並みは地下の湿気で重くなっているが、眼光は鋭い。

「ニャ。大将、中には司教と、教団の幹部連中が勢揃いだ。

今まさに、新しい『魔香』の調合と、民衆を操るための儀式が始まるところだぜ」


 俺たちは換気用の細いダクトを通り、祭壇を見下ろす天井のはりの上へと這い上がった。


 眼下で繰り広げられていたのは、神聖とは程遠い、欲望と狂気の宴だった。


「おお、偉大なる深淵の神よ。我らにさらなる服従を、さらなる財を捧げたまえ」


司教が祭壇の中央で、巨大な香炉に怪しげな液体を注ぎ込む。


すると、部屋中に濃厚な紫の煙が立ち込めた。

その煙の中に、苦しむ民衆の幻影や、黄金の山が浮かび上がる。


「カイル、見ろ。あれが『洗脳の拍子』だ。視覚、嗅覚、そして恐怖心を同時に揺さぶり、思考能力を奪う。前世の悪徳セミナーと同じ手口だ」


「ひどい。あんなの、神様じゃない。ただの毒だよ……!」


カイルが怒りに震え、思わず身を乗り出した。


その拍子に、古い梁が『ミシリ』と小さな音を立てた。


「誰だ!」


司教の鋭い目が、天井を射抜く。  

同時に、影の中からあの痩せこけた白猫、シャドウ・キャットが飛び出してきた。


「ニャアアアン!(侵入者だ! 鼠め、逃がさんぞ!)」


『カイル、動くな! ここは俺と黒鉄で食い止める! お前はその間に、あそこにある「帳簿」を盗み出せ!』


俺は梁から飛び降り、空中でシャドウ・キャットと交差した。鋭い爪と爪が火花を散らす。


猫たちの空中戦が始まった。  


シャドウ・キャットは教団の魔力によって強化されており、その動きは速く、重い。

だが、俺には「五輪書」で培った、無駄のない最小限の動きがある。


『黒鉄、右から追い込め! 奴の「拍子」は直線的だ!』


「おうよ、大将!」


 黒鉄が壁を蹴り、白猫の視界を塞ぐように飛びかかる。


 白猫がそれに応じようと体勢を変えた瞬間、俺は「水の巻」の極意、

「秋水の構え」から流れるように、奴の喉元へ一撃を見舞った。


「グニャアッ!?」


 白猫が吹き飛び、祭壇の香炉に激突した。  

 香炉が倒れ、未完成の魔香が床にぶちまけられる。


「何事だ! 猫同士が喧嘩しているのか!? 早く捕らえろ!」  


 祭壇がパニックに陥る。


 司教たちが右往左往する中、カイルは「千の目」の仲間の誘導で、祭壇の脇に置かれていた教団の「寄付金リスト」と「隣国への報告書」を素早く懐に収めた。


『引き上げるぞ、カイル! 深追いするな!』


数分後。


俺たちは命からがら、月明かりの届く裏庭へと脱出した。  


カイルの肩に乗り、俺は大きく息を吐いた。


「はぁ、はぁ。武蔵、大丈夫? 怪我はない?」


『かすり傷だ。それより、獲物インテリジェンスを見せてみろ』


 カイルが盗み出した書類。


そこには、王宮内の誰が教団から賄賂を受け取っているか、そして教団がどのようにして女王を完全に廃人にする計画を立てているか、その生々しい証拠が記されていた。


「武蔵、これがあれば、兄さんたちや、まだ正気な騎士たちを説得できるかもしれないね」


『ああ。だが、これで敵も本気になる。水の巻の最終段階だ。敵の「流れ」を逆手に取り、奴ら自身の重みで自沈させてやる。この情報を使って、圧政に苦しむ「商会」を味方につけるぞ』


「商会を? でも、彼らは僕のことなんて信じてくれないんじゃ……」


『信頼は買うものじゃない、作るものだ。三代目社長の俺が、倒産間際に学んだ「交渉の極意」を教えてやるよ』


俺は、地下の煙で汚れた毛並みを整えながら、不敵に笑った。  


猫の隠密行は大成功だ。


教団という巨大なダムに、俺たちは決定的な「ひび」を入れたのだ。


TBC


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