表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武蔵猫★三代目にして会社を倒産させたダメ社長の俺は死んだらカルトに嵌った独裁ハイシティ女王の王宮に住む黒猫になっていました  作者: 黒澤カール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/30

第八話【水の巻・闇】国名を貪る狂気と女王の悲しき肖像

「地の巻」の鍛錬を終え、心身ともに成長したカイルは、しかし新たな壁に直面していた。  

 それは、この国の象徴であり、最大の敵である彼の母 女王ハイシティそのものの狂気だ。

『カイル、シャドウ・キャットとの初戦はよく凌いだ。だが、奴らは単なる猫だ。

 問題は、奴らを操り、お前の母上を洗脳している「深淵の目」の連中だ』


 俺武蔵猫は、カイルの肩の上から、豪華絢爛だがどこか不気味な女王の執務室を覗いていた。  

 

 部屋の奥では、女王ハイシティが虚ろな目で玉座に座り、侍従たちが次々と高価な貢ぎ物を運び込んでいる。そのすべてが、隣国のカルト教団へと流れる「献金」だ。

カルト教団はその金でミサイルを作っているのだ。


「武蔵、お母様がどうしてあんな風に変わってしまったのか、もっと深く知りたいんだ。

 お父様を裏切り、国名を自分の名前に変えるなんて。

 あの人に、本当に心があったのか、最近はわからなくなる時がある」

 カイル王子はうつむきながら言った。


『五輪書「水の巻」には「相手の心をよく見て、その心を知る」とある。

 敵を憎むだけでは勝てない。敵がなぜ、そのようになったのか。

 その「流れ」を知るんだ』


 俺は「千のサウザンド・アイズ」の猫たちに指示を出し、

 女王の過去に関する情報を集めさせた。

 そして、数日後、黒鉄くろがねが古びた絵画をくわえてカイルの部屋に現れた。


「ニャ(大将、これを見てくれ。王宮の最深部、誰も入らない地下の物置から見つけてきたんだ)」


 その絵は、かつての『ストーン王国』の王妃ハイシティを描いたものだった。  

 絵の中の彼女は、今の傲慢な女王とはまるで違う、知性と慈愛に満ちた美しい女性だった。

 ストーン王と寄り添い、幼いカイルを優しく抱きしめている。


「お母様だ。僕が小さかった頃の、本当のお母様だ……」


 カイルの目から、涙がこぼれ落ちた。  

 絵の裏には、ストーン王の筆跡で、こう書かれていた。


『愛するハイシティへ。君のその清らかな心は、この国の何よりも尊い宝だ。

 どうか、その光を失わないでくれ。 ストーンより』


『カイル、ストーン王は、お前の母上の「美しさ」と「清らかさ」を愛していた。

 だが、その「清らかさ」が、カルト教団につけ込まれた弱点だったのかもしれない』


「弱点……?」


『そうだ。五輪書「水の巻」には、水が「柔軟に形を変える」とある。清らかな水ほど、毒を混ぜればたちまち汚染される。教団は、お前の母上の「純粋さ」を逆手に取ったんだ。民を救いたい、国を豊かにしたいという願いを、自分たちの教義にすり替えた。そして、ストーン王を「聖なる計画の邪魔者」と仕立て上げた』


 俺は絵の隅に描かれた、女王の指先が触れている王冠を指差した。


『そして、国名を『ハイシティ王国』に変えたのは、女王の「強欲」からではない。

 教団が彼女に「お前こそが神に選ばれし者、この国を救う真の光だ」と囁き続けた結果だろう。

 自己肯定感が低い人間ほど、他者からの承認欲求に飢え、それが歪んだ形で表れる』


 その頃、女王ハイシティの狂気は、さらに加速していた。  


 彼女は毎夜、隣国の司教から直接届けられる「魔香」を吸い、

 自らを「女神」と称する幻覚に囚われていた。


「我こそは、この大陸を統べる真の光お母様! このハイシティの名こそ、永遠に輝く王国の証!」


 彼女の脳裏には、ストーン王が自分を蔑んだ幻影が焼きつき、カルト教団の甘言だけが真実として響いていた。


 だが、その魔香の影響で、彼女の肉体は日に日に衰弱していた。  

 執務室の片隅で、医者が司教に密かに耳打ちする。


「司教様……女王陛下の生命力が、限界に達しています。

 このまま魔香を与え続ければ、あと数ヶ月と……」


「構わぬ。女王は我らの「聖なる依り代」だ。用が済めば、次の依り代を用意するまで。

 それよりも、最近王宮の猫たちの動きが活発だ。

 特に、あの黒猫……無能王子の周りを嗅ぎ回る、あの獣を警戒せよ」


 司教は、俺の存在に明確な疑念を抱き始めていた。  


 「水の巻」は、柔軟な思考で敵の心を読むことが重要だが、同時に「透明な水」のように自らの存在を隠すこともまた肝要なのだ。


 俺はカイルに、女王の絵の真実を伝え、彼女が単なる悪人ではなく「被害者」である可能性を説いた。


「お母様も、苦しんでいたんだね……。僕が、僕が助けなきゃいけないんだ!」


『その通りだ、カイル。敵の心がわかれば、攻撃の仕方も変わる。

 憎むべきは女王ではなく、女王を操る「深淵の目」の連中だ。

 水の巻の極意、「器に従って形を変え、淀まずに流れる」兵法を学ぶぞ』


「どうすればいいの、武蔵?」


『司教の魔香の正体はわかった。

 次は、その魔香がどこで作られ、どうやって王宮に運び込まれているのか。

 その「水の流れ」を断つ。

 そして、教団が民衆を洗脳するために使う「深淵の目」の儀式に潜入する。

 お前の「千の目」が、真価を発揮する時だ』


 カイルは絵の中の優しい母の顔を見つめ、静かに頷いた。  

 憎しみではなく、悲しみを知ったカイルの瞳は、より深く、力強い輝きを放っていた。


「僕が、母様を救う。そして、この国をストーン王国だった頃よりも、もっと素晴らしい国にする。武蔵、力を貸して!」


『任せとけ。ただし、猫の手も借りたいほど危険な潜入になるぞ。

 お前の「水の巻」の真価、見せてもらうぞ』


 女王ハイシティの狂気は、彼女自身の悲劇が生み出したものだった。  

 その真実を知った王子と猫は、国を蝕むカルトの根源へと、深く深く潜入していく決意を固めた。


 TBC


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ