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武蔵猫★三代目にして会社を倒産させたダメ社長の俺は死んだらカルトに嵌った独裁ハイシティ女王の王宮に住む黒猫になっていました  作者: 黒澤カール


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第五話【地の巻・組織編】見えざる「毛玉」の包囲網

「地の巻」における最終段階は、己の武器を整えることにある。


カイル王子が情報の読み解き方を学び始めた一方で、俺武蔵猫には、手足となる実行部隊が必要だった。


前世の経営再建でもそうだったが、社長一人が空回りしても組織は動かん。

現場で泥をすすり、風を感じ、密談を拾い上げる「末端のエージェント」が不可欠なのだ。


『カイル、今日からこの部屋は我が社の「秘密本社ヘッドクォーター」だ。

余計な掃除人は入れるなよ。……おい、黒鉄くろがね! 入ってこい!』


俺の呼びかけに応じ、開いた窓から一匹の大柄な野良猫が音もなく飛び込んできた。


右耳の先が欠け、鋭い眼光を放つその黒猫は、王宮の厨房裏を仕切る「野良猫の首領ドン」だった。


「ニャ。……大将、こいつが例の『無能王子』か? 随分とひょろっとしてるじゃねえか」


カイルは飛び上がって椅子から転げ落ちた。


「ひ、一匹じゃない……! 屋根の上にも、塀の影にも……!」


『紹介しよう。俺の右腕になる黒鉄だ。そして外にいるのは、王宮内に潜伏する五十匹の精鋭たちだ。……カイル、お前にはこれから、彼らの「雇用主」になってもらう』


「雇用主!? 僕にお金なんてないよ、武蔵!」


『金はいらん。必要なのは「場所」と「残飯」だ。厨房から出る余り物、あるいは狩った獲物を安全に食える避難所。そして何より、将来この国を「猫が不当に追い出されない国」にすること。それが彼らへの報酬だ』


俺は床に地図を広げ、黒鉄とカイルを呼び寄せた。


『黒鉄、お前の部下たちに役割ポジションを振る。


 第一班「厨房組」:司教の食事に何が混ざっているか、あるいは毒を盛る隙があるかを探れ。


 第二班「回廊組」:女王と兄王子たちの部屋のはりに陣取り、密談をすべて拾い上げろ。


 第三班「外郭組」:王都への出入り、特に隣国からの『香』の運搬ルートを特定しろ。


 いいか、俺たちは戦わない。ただ「視る」だけだ』


「合点だ、大将。……だがよ、王子。あんた、俺たちの言葉がわかる大将に感謝しな。猫のネットワークを敵に回して、生き残った王族はいねえんだからな」


黒鉄が不敵に喉を鳴らすと、カイルは恐る恐るその頭に手を伸ばし、優しく撫でた。


「……よろしくね、黒鉄。僕も、君たちの力を借りたい。

この国を、猫もお腹いっぱい食べられる国にしてみせるから」


 黒鉄は一瞬驚いたように目を丸くしたが、ふいと顔を背けた。


「……フン。おめでてー奴だ。だが、その甘さは嫌いじゃねえぜ」


 組織化の効果は、劇的だった。


 翌日から、カイルのノートには、人間には決して辿り着けない「一次情報」が次々と書き込まれていった。


「武蔵、見て! 三毛のミケからの報告だ。

第一王子ゼクスが、隣国の武器商人と密談してたって。

内容は『母様の体調が悪化すれば、すぐに王位を継承する手はずを整える』だって。

ひどい、兄さん、母様が死ぬのを待ってるんだ」


『冷徹な経営判断だな。だが、その情報は「武器」になる。次は?』


「黒鉄の班から。司教の部屋から運び出されたゴミの中に隣国の特殊な薬草の殻があった。

これを煎じた煙が、お母様を眠らせ、意識を混濁させている。

薬の名前は『忘却の残り香』。

中和剤があれば、お母様を助けられるかもしれない!」


カイルの瞳に、使命感が宿る。


かつては絶望して震えるだけだった少年が、情報の力によって「攻略法」を見出し始めていた。


『よし。地の巻の仕上げだ。カイル、このネットワークの名前を決めろ。俺たちの会社の名前だ』


「名前? うーん、猫たちの黄金の瞳が闇を照らすから『千のサウザンド・アイズ』はどうかな?」


『悪くない。……いや、経営的にはもう少し親しみやすく、かつ油断させる名前がいいな。

よし、表向きは「カイル王子のお遊び猫同好会」。

裏の名を「サンライズ・インテリジェンス」とする!』


だが、俺たちの急速な動きを、闇の中から見つめる者がいた。


司教の側に侍る、一匹の異様なまでに痩せこけた白猫。

その瞳には感情がなく、どす黒い魔力の輝きが宿っていた。


「司教様。最近、王宮の猫たちの動きが不自然です。何者かが、彼らを束ねている気配がいたします」


 司教は椅子に深く腰掛け、魔香の煙を吐き出した。


「ほう……。無能王子の周りで、ゴミ拾いどもが騒いでいるというのか。

スパイシャドウ・キャットよ。不穏な芽は、早めに摘み取っておけ」


「御心のままに」


白猫は音もなく、影の中に消えた。


『地の巻』において、組織を作ることは、同時に「標的」になることを意味する。


俺とカイル、そして猫たちの「隠密戦争」は、ついに最初の衝突へと向かおうとしていた。


『カイル、気を抜くなよ。情報の流れが速くなった時こそ、足元をすくわれる。

 奴らの「法(スパイ防止法)」という理不尽な武器を、逆に利用してやるぞ!』


 俺は窓の外で光る、仲間の猫たちの瞳を見つめながら、鋭い牙を覗かせた。


TBC


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