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武蔵猫★三代目にして会社を倒産させたダメ社長の俺は死んだらカルトに嵌った独裁ハイシティ女王の王宮に住む黒猫になっていました  作者: 黒澤カール


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第二十五話【空の巻・哀傷】カルトが植え付けた「依存」マインドコントロール

司教の狂気が渦巻く空中庭園。

王宮の最上階を包む風は冷たく、魔力の残滓が火花のように散っていた。


カイルは聖剣を構え、その切っ先を、玉座に力なく横たわる女王ハイシティへと向けていた

いや、彼女を盾にするように背後に隠れている司教へと。


『……待て、カイル。司教を討つ前に、あの女の「器」をよく見ろ。

 五輪書「空の巻」は、目に見える現象の奥にある「実体」を見通すことだ。

 あの女王から感じられるのは、支配の野心ではない。底なしの「喪失感」だ』


 俺武蔵猫は、カイルの肩で低く唸りながら、女王の虚ろな瞳を凝視した。


「お母様……。どうしてこんなことをしたんだ!

 お父様を裏切り、民を苦しめ、僕まで殺そうとした……。

 あなたが欲しかったのは、この冷たい玉座だったの!?」


 カイルの叫びに、女王ハイシティの指先がピクリと動いた。

 彼女を操っていた魔術の糸が、中和剤と聖剣の光によって解け始めていた。


「……ストーン……? ……カイル……?」


 その声は、かつての威厳ある女王のものではなく、迷子になった子供のように震えていた。


 剥がれ落ちる狂気の仮面


 「ひっ、ひぃ……! 陛下! 何をしておられる! この反逆者たちを焼き払いなさい!」


 司教が女王の背中を突き、魔力を無理やり引き出そうとする。

 しかし、聖剣の輝きが届く範囲では、司教の呪詛はもはや形を成さなかった。


 女王ハイシティは、這いずるようにして玉座から降りた。

 彼女の豪華なドレスは汚れ、冠は無残に歪んでいる。


「暗かったの。ずっと、ずっと暗かった。

 ストーンが死んでから、私の世界には、誰もいなくなってしまった……」


 彼女が語り始めたのは、誰も知らなかった「空白の数年間」の真実だった。


『経営者が孤独に陥った時、最も危険なのが「甘い顔をした詐欺師」だ。

 カイル、見ろ。司教は彼女の心の「穴」に、教義という名の毒を流し込んだんだ』


「お母様……、お父様が死んだ後、何があったの?」


「あの日、ストーンが倒れてから、私は怖くてたまらなかった。

 王妃として国を支えなければならないのに、私には何もできない……。

 そんな時、あの人が現れたの」


 彼女は、血走った目で怯える司教を指差した。


「彼は言ったわ。『ストーン王が死んだのは、この国の民に救いの信仰が足りなかったせいだ』と。

 『あなたがもっとお金を寄付して、強く、神のごとき女王になれば、ストーン王は魂となってあなたを守り続ける』と……そしてミサイルも飛ばせると」


悲しき過去 カルトが植え付けた「依存」


 司教は、夫を失い、精神的にボロボロになっていたハイシティを、徹底的にマインドコントロールしていた。


 「ストーン王の死は女王の責任である」という罪悪感を植え付け、そこからの救済として「教団への全面的な依存」を強いたのだ。国名を自分の名に変えたのも、女王の傲慢からではない。司教が「古い自分を捨て、神の器になれ」と命じた結果だった。


「毎日、あの香(魔香)を焚かれ……。吸うたびに、ストーンの幻が見えたわ。彼が私を褒めてくれる。私を愛してくれる……。そのためなら、私は何でもした。民が泣いていても、カイル、あなたが遠ざかっていっても……幻の中のストーンだけが、私の真実になってしまったのよ……」


 女王は地面に伏し、子供のように泣きじゃくった。


「お母様。あなたは、お父様に会いたかっただけなんだね」


 カイルの木剣を持つ手が震えた。憎んでいた敵が、実は誰よりも深く傷つき、食い物にされていた「被害者」であったという事実。


『……経営の失敗における「情状酌量」だ。だが、カイル。彼女が犯した罪は消えない。

 それでも、お前は彼女を「一人の母親」として、そして「一人の人間」として受け入れる覚悟があるか?』


 カイルは聖剣を鞘に収め、ゆっくりと女王に歩み寄った。


「僕も、暗かったよ。お母様が僕を見てくれなくなって、ずっと独りぼっちだと思ってた。

 でも、武蔵が教えてくれたんだ。過去を悔やむより、今できることを探せって」


 カイルは女王の手を優しく握った。


「お母様。もう、お父様の幻を追わなくていい。本物の僕が、ここにいるから。

 司教、あなたの嘘は、もう誰の心も縛れない!」


 その言葉に呼応するように、女王の背後にいた司教が絶叫を上げた。


「おのれ……! この女、使い物にならぬわ! 貴様ら親子まとめて、地獄へ連れて行ってやる!」


 司教は懐から、禍々しい紫の輝きを放つ「究極の自爆魔石」を取り出した。


『カイル! 話は終わりだ! クライマックスの「強制終了」が来るぞ!

  黒鉄、ハナ! 司教の逃げ道を塞げ!』


 猫たちの鋭い鳴き声が、空中庭園に響き渡る。


 悲しき過去を乗り越えた王子と一匹の猫。

 彼らの前で、ついに司教がその醜悪な本性を剥き出しにし、最後の暴走を始めた。


 TBC


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