第二十二話【火の巻・響応】偽りの法スパイ防止法の鎖を断ち切れ!
カイルが伝説の聖剣を継承し、王としての「拍子」を掴んだその瞬間、王宮の闇は晴れた。
しかし、街にはまだ教団の残党が潜み、洗脳された衛兵たちが民衆を抑え込もうと血眼になっていた。
この戦いを終わらせるのは、王宮の勝利ではない。
民衆一人ひとりが「自分たちの国」を取り戻すために立ち上がること。
そのための決定的な「引き金」が必要だった。
『カイル、最後の仕上げだ。経営も国政も、トップが変わっただけでは組織は動かん。
末端まで「夜明け」を知らせ、熱狂の渦に巻き込むんだ。
黒鉄、ハナ、そして「千の目」の全猫に告ぐ。
作戦名「八百万の鈴」を発動しろ!』
俺武蔵猫は、聖剣を掲げるカイルの肩で、王都全土に向けて咆哮した。
「ニャアアアアアオーーーーン!!」
第一の波:屋根の上の伝令使
俺の号令とともに、王宮の屋根から、民家の軒先から、そして下水路の隙間から、何千、何万という猫たちが一斉に飛び出した。
彼らが向かったのは、王都に点在する大小さまざまな「鐘楼」だ。
教会の大きな鐘、火の見櫓の警鐘、そして商店の入り口に吊るされた小さな呼び鈴まで。
『いいか、カイル。五輪書「火の巻」には「敵を驚かす」という教えがある。だが、味方を「奮い立たせる」のもまた、音の役目だ。情報の伝達速度が、この蜂起の成否を決める!』
まず動いたのは、黒鉄率いる精鋭部隊だ。
彼らは王都の中央広場にある「解放の鐘」に忍び込んだ。
そこには教団の衛兵が陣取っていたが、黒鉄たちは「猫の集団戦法」で奴らを翻弄し、鐘を突くための太い綱を、猫たちの体重を合わせて一気に引き下げた。
ゴォォォォォン!!
重厚な鐘の音が響き渡る。それを皮切りに、街中の猫たちがそれぞれの持ち場で「合図」を送った。
第二の波:連鎖する音の洪水
カン、カン、カン!
チリン、チリン!
ガラガラガラ!
ありとあらゆる鐘の音が、王都全土で共鳴し始めた。
それは不協和音ではなく、不思議と一つの巨大な「拍子」を刻んでいた。
家々に閉じこもり、スパイ防止法の影に怯えていた民衆たちが、一人、また一人と窓を開け、外を覗き込んだ。
「何だ? 何が起きているんだ?」
「あの鐘の音は教団の礼拝の音じゃない。もっと力強くて、懐かしい音だ!」
屋根の上では、猫たちが一斉に「ニャア!」と高く鳴き、王宮の方角を指し示している。
そこには、黄金の光を放つ聖剣を掲げたカイル王子の姿が、朝日を背に受けて神々しく浮かび上がっていた。
「見ろ! カイル様だ! ストーン様が愛した、あの王子様が聖剣を抜いたんだ!」
「猫たちが教えてくれている。今こそ、俺たちが自由を掴む時だって!」
第三の波:民衆の蜂起
『(カイル、今だ! 音に合わせて声を上げろ!
民衆のエネルギーを、一つの方向に集中させるんだ!)』
カイルは聖剣を高く突き上げ、腹の底から叫んだ。
その声は、魔法の鐘の反響に乗って、王都の隅々まで染み渡った。
「ストーン王国の民よ! 偽りの法(スパイ防止法)の鎖を断ち切れ!
僕と一緒に、この国の新しい夜明けを、サンライズ王国を創り上げよう!」
鐘の音が激しさを増す。
その音は、人々の心の中に溜まっていた「恐怖」を「勇気」へと書き換えていった。
「おおおおおおお!!」
一人のパン屋が、教団に没収されかけていた麺棒を手に取って叫んだ。
一人の鍛冶屋が、隠し持っていた槌を振り上げた。
一人の母親が、子供の手を握りしめて立ち上がった。
王都の至る所で、民衆が蜂起した。
教団の残党たちは、この圧倒的な「音の奔流」と「民衆の熱気」に飲み込まれ、戦わずして次々と武器を捨てて逃げ出した。
『見ろ、カイル。これが「火の巻」の真髄だ。
一度燃え広がった民の意志は、誰にも消すことはできん。
俺たちが蒔いた情報の種が、猫たちの鈴の音によって、一気に大輪の花を咲かせたんだ』
王都は今、歓喜の渦の中にあった。
猫たちは街中の鐘を鳴らし続け、人々はそれに応えるように歌い、踊り、互いの無事を確かめ合っていた。
スパイ防止法という名の「疑いの霧」は、この音の洪水によって完全に洗い流されたのだ。
「武蔵。猫たちの声が、こんなに大きく響くなんて。僕、一生忘れないよ」
『フン、当然だ。猫を味方につけるということは、世界の「裏道」と「本音」を味方につけるということだからな。おい、カイル。見てみろ』
黒鉄やハナが、鐘楼から降りてきて、誇らしげに俺たちの元へ集まってきた。
「ニャ(大将、王子。街中の鐘、全部鳴らし切ってやったぜ。これでもう、誰もこの国をハイシティなんて呼ばねえ)」
カイルは猫たち一人ひとりを優しく撫で、そして俺を抱き上げた。
王宮を彩る朝日は、もはや女王の名前を冠した暗い色ではなく、新しく生まれる「サンライズ王国」を祝福する、温かな黄金色だった。
『よし。これで「火の巻」は完結だ。
次は新しい国の「憲法」を創るぞ、カイル王!』
猫の軍師と王子の逆転劇は、王都に響き渡る八百万の鈴の音と共に、伝説へと昇華していった。
TBC




