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武蔵猫★三代目にして会社を倒産させたダメ社長の俺は死んだらカルトに嵌った独裁ハイシティ女王の王宮に住む黒猫になっていました  作者: 黒澤カール


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第二十一話【水の巻・拍子】スパイ防止法という名の「闇」から目覚めよ

司教が崩壊する魔力の渦に消え、玉座の間には重苦しい沈黙が降りていた。

女王ハイシティは意識を取り戻したものの、長年の魔香による蝕みで自力で立つことすらままならない。

だが、真の危機は去っていなかった。

司教が放った断末魔の呪いが、王宮の地下に眠る「旧時代の負の遺産」を呼び覚まそうとしていた。


『カイル……喜ぶのはまだ早い。司教が最後に自爆営業で放った魔力が、この城の奥底にある「禁忌の封印」をこじ開けた。五輪書「水の巻」の奥義を覚えているか?』


 俺武蔵猫は、カイルの肩の上で荒い息を吐きながら、玉座の真下から響く不気味な地鳴りを睨みつけた。


「五輪書『水の巻』。あらゆるものには『拍子』がある。栄える拍子、衰える拍子。そして敵の拍子を掴み、己の拍子を合わせること」


『そうだ。今、この王宮は崩壊の拍子を刻んでいる。これを止めるには、お前の父、ストーン王が残した「真実の楔」伝説の聖剣を継承するしかない』


王宮の最深部へ:拍子の試練


 カイルは弱り切った女王をバートランド卿に託すと、俺と共に玉座の裏に隠された秘密の階段を下りた。そこは、ストーン王族の歴代の魂が眠る「真実の聖堂」だった。


 最下層に辿り着くと、そこには岩に突き刺さった一本の古びた剣があった。

 かつてストーン王がこの国を建国する際に振るったとされる伝説の聖剣。

 だが、その周囲には司教が残した「不信と呪い」のどす黒い霧が渦巻き、近寄る者を拒絶している。


「あれが、お父様の剣」


 カイルが一歩踏み出そうとすると、霧が意志を持ったかのように巨大な触手となって襲いかかってきた。


『カイル、慌てるな! 剣術も経営も同じだ。がむしゃらに突っ込めば、敵の拍子に飲み込まれる。まずは、この霧が刻んでいる「絶望の拍子」を感じろ。そして、その拍子の「裏」を突くんだ』


 カイルは足を止め、目を閉じた。


 かつての彼なら、ここで恐怖に震えて逃げ出していた。

 だが、今は違う。俺との特訓、商会との交渉、民衆との触れ合い、そして実の兄たちとの頭脳戦。それらすべてが、彼の「心」という器を鍛え上げていた。


「聞こえるよ、武蔵。この霧は、みんなの『疑い』の声だ。スパイ防止法が作り出した、お互いを信じられない悲鳴だ」


 霧の拍子は、不規則で荒々しい。

 だが、カイルはその乱れの中に、一定の周期を見出した。


「今だ!」


 カイルは霧が膨らみ、弾ける直前の「無の瞬間」に飛び込んだ。それはまさに、猫が獲物を捕らえる時に見せる、一分の狂いもない「拍子」の合致だった。


聖剣継承:経営理念のアップデート


 カイルの手が、聖剣の柄に触れた。

 その瞬間、王宮全体を揺るがすほどの眩い光が放たれた。


「我が息子よ。よくぞ、ここまで辿り着いた」


 カイルの脳内に、亡き父・ストーン王の厳かな声が響く。

  それは記憶の残滓か、あるいは剣に宿る意志か。


『カイル! 剣の声を聞け!


 経営における継承とは、ただ形を継ぐことじゃない。

 先代の理念を理解し、それを現代いまに合わせて再定義アップデートすることだ!』


 聖剣はカイルの「覚悟」を試すように、激しい魔力の奔流を流し込んできた。

 凡庸な者ならその圧力に押し潰され、狂ってしまうだろう。


「お父様……僕は、あなたの『誠実さ』を継ぎます。でも、それだけじゃない。

 僕は、武蔵から学んだ『知略』と、猫たちから教わった『しなやかさ』で、この国を新しく作り直す。誰もが疑い合う『ハイシティ王国』ではなく、誰もが陽の光の下で笑える『サンライズ王国』を!」


 カイルの魂が、聖剣と共鳴した。

 スパイ防止法という名の「闇」が、聖剣から放たれる「真実の光」によって次々と浄化されていく。


 ガキィィィィィン!!


 岩から引き抜かれた聖剣は、錆び付いた古剣から、眩い黄金の輝きを放つ「継承の剣」へと姿を変えた。カイルの右腕には、王の証たる紋章が刻まれる。


 聖剣を掲げたカイルが地上に戻ると、王宮を包んでいた不気味な呪霧は完全に消え去っていた。


 玉座の前で待っていた兵士たち、民衆、そして正気を取り戻した女王は、その光り輝く剣を手に戻ってきた王子を、畏怖と歓喜の眼差しで見つめた。


「カイル。あなたが、本当に……あのストーンの……」


 女王が涙ながらに跪く。


『ふぅ。これでようやく、事業承継(代替わり)が完了したな。カイル』


 俺はカイルの肩で、誇らしく胸を張った。


 伝説の聖剣を継承したカイルは、もはや「無能王子」ではない。

 一匹の猫を師とし、五輪書の真理を体現した「サンライズ王国の始祖」として、その第一歩を踏み出したのだ。


「武蔵。僕たちの国造りは、これからだね」


『ああ。だが安心しろ。経営の『拍子』は、今完全にお前たちの側にある。さあ、新しい法律を公布するぞ! 第一条は「猫への煮干し配給の義務化」でどうだ?』


「それは……あとで検討するよ」


 王子の苦笑いと共に、新しい王国の夜明けを告げる陽光が、王宮を黄金色に染め上げた。


TBC




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