第十九話【火の巻・捨身】疾風の如く駆け抜け主を守る一刀
王宮の中枢は、教団幹部と第一、第二王子が互いを「スパイ」と罵り、斬り合う地獄絵図と化していた。
俺たち「サンライズ・インテリジェンス」の情報攻めが、彼らの築き上げた虚構の城を内側から崩壊させたのだ。
『カイル、急げ! 司教が女王の命を狙っている!
どんなに腐った組織でも、最後の最後にリーダーを道連れにする「自爆営業」を仕掛けてくるものだ!』
俺武蔵猫はカイルの肩の上で、玉座の間へ続く廊下を指し示した。
その奥からは、禍々しい魔力の気配が立ち上っていた。
「武蔵、わかってる! お母様を、お母様を救わなきゃ!」
カイルは木剣を強く握りしめ、混乱する廊下を駆け抜けた。
背後では、バートランド卿率いるストーン王国の残党たちが、教団の私兵と激しく交戦している。
最後の抵抗:待ち伏せる影
だが、司教もただ逃げるだけではない。
玉座の間へと続く、最後の長い廊下。
そこには、俺たちを待ち伏せる「最後の抵抗」が仕掛けられていた。
『カイル、気をつけろ! この廊下の空気……変だ! 猫の第六感が、危険を察知している!』
俺がそう叫んだ瞬間、廊下の天井の梁から、三体の影が音もなく舞い降りてきた。
彼らは黒い装束に身を包み、全身に不気味な呪紋を刻んだ「教団最強の暗殺者」だった。
彼らの手には、闇の魔力を宿した鎌が握られている。
「愚かな王子よ。ここまでだ。司教様の聖なる計画の邪魔はさせん」
三体の暗殺者は、カイルの進路を塞ぐように、完璧な三角形の陣形を組んだ。
その速さは、これまでの教団兵とは比較にならない。
まるで、影そのものが鎌を振るっているかのようだ。
「くっ……! 速い! 武蔵、どうすれば!」
カイルは木剣を構えるが、三方向からの同時攻撃にどこから防げばいいのか判断できない。
火の巻・捨身:肉球の一閃
『カイル、迷うな! 五輪書「火の巻」には「攻守に兼ねる」とあるが、時には「捨身」も必要だ!』
俺はカイルの肩から、宙へと身を躍らせた。
「ニャアアアアア!!」
俺の狙いは、中央の暗殺者だ。
暗殺者は、まさか一匹の猫が自分に飛びかかってくるとは思わず、一瞬の隙を見せた。
「なんだ、この獣は!」
その隙を突いて、俺は奴の顔面目掛けて、渾身の力で爪を突き立てた。
ガリガリッ!
暗殺者のマスクが砕け、素顔が露わになる。
だが、奴らは痛みを感じないのか、怯むことなく鎌を振り上げた。
その鎌の切っ先は、宙にいる俺の体を両断しようと、無慈悲に迫る。
「武蔵! 危ない!」
カイルの叫びが響く。
その瞬間、俺は「火の巻」の極意、「火事場泥棒の一撃」
つまり、敵の意識が俺に集中した隙を突き、死角からもう一撃を入れる。
俺は鎌の切っ先を紙一重でかわし、そのまま奴の腕を駆け上がり、もう一つの爪を暗殺者の「首筋」へと叩き込んだ。
「グアアアアッ!?」
首筋に埋め込まれた魔力の核。
そこを破壊された暗殺者は、一瞬で力が抜け、地面に崩れ落ちた。
覚醒:王子の剣技
俺が身を挺して一体を倒した隙に、カイルは残る二体の暗殺者に向かって走り出した。
俺の捨身の戦いを見たカイルの瞳には、迷いが消え去っていた。
『カイル、残りの二体は「連携」が命だ! 一体は相手の動きを封じ、もう一体がとどめを刺す!
その連携を、水の如く「流して」しまえ!』
カイルは、俺が教えていた「猫流・五輪法」の応用で、地面を這うように滑り込んだ。
一体目の暗殺者がカイルの足元を狙って鎌を振り下ろすが、
カイルはそれを紙一重でかわし、二体目の暗殺者の背後に回り込んだ。
「なっ……!?」
連携を断たれた二体の暗殺者は、一瞬の混乱を見せる。
その「拍子」をカイルは見逃さなかった。
彼は木剣を逆手に持ち、背後に回った暗殺者の首筋目掛けて、渾身の一撃を叩き込んだ。
ゴツン!
鈍い音と共に、二体目の暗殺者も地面に倒れ伏した。
残る一体は、仲間の倒れた姿を見て動揺し、動きが鈍くなる。
「これで、終わりだ!」
カイルの木剣が、最後の一体をも打ち据えた。
廊下に、静寂が戻った。
瀕死の軍師と、決意の王子
俺は地面に横たわり、ぜいぜいと息を吐いていた。
全身の毛が逆立ち、左足からは血が滲んでいる。暗殺者の鎌が、あと数ミリずれていたら……。
「武蔵! 武蔵、大丈夫!?」
カイルが駆け寄り、俺を優しく抱き上げた。
彼の瞳には、涙が浮かんでいる。
『大丈夫だ、カイル。かすり傷だ。だが……お前も、強くなったな。
俺の「捨身」を無駄にしなかった』
「武蔵ありがとう。君が僕を助けてくれたんだ。今度こそ、僕が君を守る番だ」
カイルは俺をフードの中に隠し、決意の表情で玉座の間へと続く扉を見つめた。
その扉の奥からは、司教の禍々しい詠唱が響き、女王ハイシティの苦悶の声が聞こえていた。
『急げ、カイル。奴は女王の命を捧げようとしている。火の巻の最終局面だ。
残るは「物理的な遮断」と「決着」だ』
俺の捨身の一撃は、確かに敵の道を塞いだ。
だが、その代償は大きかった。
俺の意識は朦朧とし、カイルにすべてを託すしかなかった。
一匹の猫と、一人の王子。
彼らの戦いは、いよいよ最後の「火」を灯そうとしていた。
TBC




