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武蔵猫★三代目にして会社を倒産させたダメ社長の俺は死んだらカルトに嵌った独裁ハイシティ女王の王宮に住む黒猫になっていました  作者: 黒澤カール


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第十六話【火の巻・烽火】不自然な笑顔で狂乱の進軍

五輪書「火の巻」とは、戦いの「拍子」を掴み、敵の先手を打つ巻である。

これまでの俺たちは、いわば倒産寸前の会社の「内部監査」と「地盤固め」に奔走してきた。だが、敵はついに最後にして最悪の経営判断を下した。

「他社への不当な敵対的買収」、すなわち侵略戦争である。


『カイル、のんびり経営会議をしている時間は終わったぞ。火がつけば、あっという間にすべてを焼き尽くす。先手を打たなければ、俺たちの再建計画ごと灰にされるぞ』


 俺武蔵猫は、王宮の尖塔の影で、眼下に広がる異様な光景を見下ろしていた。


 深夜だというのに、王宮前広場は松明の炎で赤々と照らされていた。

 集められた兵士たちは、教団の司教が振りまく「魔香」によって一種のトランス状態に陥り、虚ろな目で「ハイシティ万歳!」と連呼している。


「武蔵、見て。お母様が……あんなに高いところに」


 バルコニーに現れた女王ハイシティは、かつての美しさは影を潜め、頬はこけ、瞳には狂気が宿っていたが脈絡なく突然不自然な笑顔を振りまいていた。彼女は震える手で隣国「ルミナス領」を指差し、枯れた声で叫んだ。


「隣国は我が国の富を盗むスパイの巣窟です! 聖なる浄化を! ストーン王の呪いを解くために、全軍進撃せよ!」(ニコリ)


 地響きのような歓声が上がった。支持率は9割を超えた。

 だが、それは愛国心ではなく、薬物と洗脳によって強制的に引き出された「狂乱」の音だった。

 歓声を上げない民はスパイと認定されて拷問を受けさせられるからだった。


 時間との戦い:デッドラインの発生


 カイルの部屋に戻った俺たちは、暗い表情のバートランド卿と落ち合った。


「カイル様、事態は最悪です。ゼクス王子率いる第一、第二騎士団が、明朝の夜明けとともに国境を越えます。これに従わぬ将兵は、その場で『スパイ』として処刑される布告が出ました」


「僕たちが味方につけた第三連隊はどうなるの?」


「彼らも最前線に配置されました。いわば『弾除け』です。彼らが隣国の兵と戦えば、もう後戻りはできません。両国に消えない憎しみの連鎖が生まれてしまう……」


 カイルは拳を握りしめ、机を叩いた。

「お母様を止めなきゃ……。でも、今すぐ王宮に突入しても、洗脳された衛兵たちに返り討ちにされるだけだ。武蔵、どうすればいい!?」


『落ち着け。パニックは経営者の最大の敵だ。いいか、五輪書「火の巻」には「先を駆ける」という教えがある。敵が動く前に、敵の「動機」と「手段」を叩き潰すんだ』


 俺は「千のサウザンド・アイズ」の猫たちから集まった緊急報告を整理した。


『この戦争の真の目的は、領土拡大じゃない。教団の「在庫処分」と「資金洗浄」だ。


 隣国への侵攻という名目で教団は大量の粗悪な古くなった武器をハイシティ王国に高値で売りつけ、その代金をすべて隣国の教団本部へ送金しようとしている。つまり、国が滅びようが彼らには関係ない。』


「この国を、火事場泥棒の道具にしているっていうのか!?」


『そうだ。そして侵略が始まれば、国内の「スパイ防止法」による監視はさらに強まり、俺たちのネットワークも物理的に分断される。デッドラインは明朝。カイル、ここからは「情報攻め」に切り替えるぞ』


火の巻・第一の策:情報攻め(インフォメーション・ストライク)


『バートランド、お前は地下の残党を率いて、軍の「兵糧庫」ではなく「伝令所」を制圧しろ。物理的な破壊ではなく、情報の撹乱だ。カイル、お前は俺と一緒に、教団が全軍に配布しようとしている「聖なる加護の御札」に細工をする』


「御札に細工? そんなことで戦争が止まるの?」


『ただの紙切れじゃない。あれには兵士たちの戦意を昂揚させる「微弱な魔香」が染み込ませてある。その香を、俺たちが用意した「正気に戻す薬」にすり替えるんだ。黒鉄、猫たちに合図を送れ。王宮の製薬室へ潜入するぞ!』


「ニャア!(了解だ、大将! 猫の手、いや、猫の爪をフル回転させてやるぜ!)」


夜明け前の暗闘


 俺たちは深夜の王宮内を影のように移動した。猫たちは通気口を通り、カイルはバートランドが作った隙を突いて製薬室の裏口へ。


 そこには、明日配るための数万枚の「御札」が積まれていた。

 俺とカイルは、オーウェン商会が秘密裏に調合した「真実の雫(中和剤)」をスプレー状にして、御札の一枚一枚に吹き付けていった。


『これを吸えば、魔香の霧が晴れ、兵士たちは「自分が何をさせられているか」に気づく。洗脳が解ければ、ゼクス王子の命令はただの狂人の叫びになる』


「武蔵、外が白んできた」


 カイルが窓の外を見上げた。東の空が薄紫に染まり始めている。

 

『時間切れだ。だが、種は蒔いた。あとはこの「火」をどう燃え上がらせるかだ』


 その時、製薬室の扉が激しく蹴開けられた。


 立っていたのは、返り血のような赤い法衣を纏った司教と、あの白猫シャドウ・キャットだった。


「やはり、ネズミが紛れ込んでいたか。無能王子、貴様の『お遊び』もここまでだ。

 夜明けとともに、貴様は『隣国と通じた大罪人』として、自軍の兵士たちの手で処刑されることになるのだからな!」


 司教の冷酷な笑い声が響く。

 

「いいえ、司教。処刑されるのは、この国を闇に突き落としたあなたたちの方だ!」


 カイルは中和剤の瓶を握りしめ、真っ向から司教を睨みつけた。

 

 ついに始まった「火の巻」の直接対決。


 戦争開始まで、あと一時間。

 サンライズ王国の命運を懸けた、最長の一日が幕を開けた。


 TBC


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