我ら生まれた場所は違えども、同じ性癖(要審議)を持つ者として盟約を交わさん
「リザリオお嬢様……表情が明後日の方向を向いています」
後ろに控えた婆やが小言を囁く。そうは言ってもやる気は起きない。鏡がなくても分かる。キリッとした凜々しい顔立ちが自慢の私だが、きっと三日に一度しか開かない門番の様な顔をしているだろう。
はああと欠伸を一つ、そしてブーツの先でげしげしと整地された地面を蹴る。基本私はズボンスタイル——男装だ。趣味人な父の代わりにこの領地、ハーウェン辺境伯領の領主代理をしているのでスカートやドレスとはとんと無縁だ。
今、私は側近たちを引き連れて館の前に立ち、とある人物の馬車を待っている。
「そうはいうけど婆や。クーデターで追い出された国王なんて、どんな表情で出迎えればいいのよ。——笑えばいい?」
「笑顔でようございますが、相手を労りつつ、かつ再起の目は無いことをお伝えできれば最善かと」
「難しいこというなあ、ずばっと言ってやれば良いんだよ。お前、みんなに嫌われてるよって」
「ほほほ。明言しないことが貴族令嬢の嗜みですよ」
婆やが笑った。目で怒られた。
——王都でカルマンド公爵によるクーデターが起きたのは一週間前だと聞く。追い出された国王は辺境へと逃げつつ再起の為の味方を募っているが、その結果は……まあこの辺境に到達する時点でお察しである。
まあ正直、ウチも公爵とは話がついている。さてどうするか。国王の首を物理的に切ると後々王族殺しの汚名になりそうだし、当分幽閉かなあ……。
そうぼんやりと空を眺めている間に、馬車が到着した。白木と金で細工の施された豪華や馬車。多少汚れてはいるが間違い無い、国王陛下の馬車だ。
馬車のドアが開く。私と側近たちはその場に跪いて頭を下げる。足音が地面に降り立って、ゆっくりと私の前に近づいてくる。下を向いた私の視界にその足先が入る。……ん? やけに小さい足だな?
「出迎え、大義である」
「……は?」
私は間抜けな声を上げて、思わず顔を上げた。国王は確か齢五十歳のじじい。だが眼前にいるのは、着衣は豪華ではあるものの、どうみても六歳程度の男児であった。
男児。そうね。この歳頃であれば、中性的な顔立ちだと男女の区別はつきにくい。喉もすらっとしているしね。だが! この私の! 魔眼に! 狂いはない!
こいつは、男児である。古代エルフ語で「ショタ」。しかも特上のショタである。間違いない、幾人ものショタを愛で、そして見送ってきた私の選定魔眼に狂いはない。あえて今ランキングするのであれば、最上級の5A!
ああ、なんということだろう……先月、今まで従卒として連れていたショタが「卒業」してしまって以来、ショタ成分に飢えていた私にはちょっと刺激が強すぎた様だ。婆やが何やら苦言を囁いてくる。私ははっと我に返って、口元を拭った。
「し、失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「うむ。ぼ……いや、我は第二十代国王ローディ・エル・グローディアである。我が父であるキンバレイは先日崩御された。よって我が、王権の継承者である」
ローディと名乗った男児が、その薄い胸を精一杯反らして宣言する。いいね、そのボーイソプラノ。ショタの過剰摂取にフラフラしながらも、私は思考を巡らせる。
どうやら国王が死去し、その息子だけがやってきた様だ。精一杯国王を名乗っているが、即位式などはしていないだろうから正統性は疑わしい。このまま追い出すのは簡単だが……。
「ローディ殿下、長旅お疲れでしょう。粗末ではありますが、まずは我が館でお休みになられませ」
「うむ、世話を掛けるな」
私はさりげなくローディの手を取って、館へと案内する。うむ、いいな……この骨と肉のバランス、まさに神の造りたもうた芸術………おっといけない、また涎が……。
ローディを応接室に案内した後、婆やが近づいてきて囁く。
「……よろしいのですか? このまま放逐するのが、最善かと思われますが」
「よいではないか、よいではないか。年端も行かぬ子供を追い出したとあっては、我が家名が泣くというもの」
「本心が隠し切れておりませんよ……」
「おっと」
呆れる婆やに、私キリッとした表情で応えた。
——私、リザリオはショタコンであった。
—— ※ —— ※ ——
——夜。
私はローディ殿下に呼ばれて、彼に割り当てた寝室へと向かった。一応、邸内では一番日当たりが良く、豪華な内装をした部屋だ。入室して跪くと「礼は良い」と許可が出たので、顔を上げて立ち上がった。
「……む?」
私は唸った。ローディはベッドの端に腰掛け、足を組んでいる。寝間着は半ズボンを用意した。白い肌の棒の様な足が上下に絡んでいる。
(……あざといな……?)
幾人ものショタを愛でてきた私には分かる。あのポーズ……誘っているな? 確かにそのポーズは破壊力が高めだが、諸刃の剣でもある。
なぜなら、足を組むポーズは通常自然には出てこない。自然にちょっと力を抜いているのなら、少し両脚が開く体勢になるはず……つまり、アレは自分の可愛さを知っていてアピールしているのだ。
(……減点だな……)
心の中で暫定ショタランキングを4Aに格下げする。私は自然派なのだ。
どうやらローディも効果が無いと分かった様だ。表情が真剣なものに切り替わる。
「リザリオ嬢、我と取引をしないか?」
「王都奪還の件でしょうか?」
「話が早くて助かる。我が王都を奪還し、正式に王位につく手助けをして欲しい。報酬は——」
ローディが自信満々の表情で勿体つける。領土かな? 財宝かな? でもなあ、どっちもいらないんだよね。私は内心ため息をつく。辺境伯って意外と領土もお金も持っているんだよねー。まあだからカルマンド公爵とも戦えるって思われたんだろうけど。
「報酬は——我でどうだ?」
「……はい?」
私は目を丸くした。
「お前、我を愛でたいのであろう? 知っているぞ、ショタコンというヤツだ」
「なななな、なにを証拠に」
「分かるさ——「同類」だからな?」
ローディの口元が歪む。まて……何か、何かがおかしい。同類? どういう意味だ? 私は困惑しつつも、今まで愛でてきたショタの数を数え、動揺を抑える。
ごくりと唾を飲み込む。
「……殿下、あなた見た目通りの年齢ではないわね?」
「ほう? 気づいたか。まあそれだと五十点だがな」
——やっぱり! ショタにしては精神が狡猾過ぎる。もっとショタは心が澄んで純真な存在なのだ。しまった、やられた。こいつはショタの皮を被った何かだ。
「聞いたことがあるか? 我は「転生者」よ」
「転生者……ッ! 聞いたことがあるわ。ここではない、別の世界からやってくるという……」
「そうよ。我は前の世界では二十歳で死んだ。だから身体は子供、頭脳は大人という訳さ」
「そんなことが……でも、それと「同類」というのがどう繋がるわけ?」
「ふっふふ、我も前世では少数性癖者だったからな。お前のような手合いのことは見れば分かる」
ローディはぶらぶらと足を揺らす。くっ……あざとい。だが、良い! 私の情緒が混乱する。
「少数性癖者……お前も?」
「そうだ、我は「ロリコン」よ。ショタを愛する者よ」
ロリコン!? 知っているのかリザリオ! 古代エルフ語で「年下の幼女を愛でる者」だ。そうか、お前もこちら側の人間だったのか……だがショタとロリコンを同類とするには要審議だ。
「だが……お前の歳でロリだと、さすがにこう……不味い気がするが」
「馬鹿め、精神は大人だといっただろう。この肉体より年下が好きな訳ではない。法令は遵守している」
「そうか」
それは良かった。さすがにそれ以上は危ないと思っていた。
「どうだ? 我と一緒に、少数性癖者が報われる国を造らないか?」
「少数性癖者が報われる国……?」
「そうだ。我は国を取り戻したら、ショタとロリを集めて愛でる空中庭園を造る。そこで永遠に彼ら彼女らを愛でようではないか!」
ローディが私に向かって手を差し伸べる。私は手を伸ばしかけ——だが力なく頭を横に振った。怪訝そうな表情をするローディ。
「ローディ……それは無理だ。私もそれは一度考えた。でもローディ、それは不可能なんだよ」
「どうしてだ、リザリオ?」
「時は皆に対して平等に流れるからよ。ショタもロリも、たった数年で大人になって消えていってしまう……」
私は目を伏せた。一筋の涙が頬を伝う。
「ショタは永遠には生きられないの。それが私たちの運命……」
「ふっ……ふはははははっ」
突然ローディが笑い出す。思わず見上げる私。ローディの表情はなぜか自信に満ち満ちている。
「——ある! この異世界にはあるのだよ! 永遠のロリが! ショタが!」
「そんな……夢物語なことを」
「——エルフだ!」
ローディが口角を上げて嗤う。はっと気がついた私は愕然とする。……そうか、そうなのね。なんてことを思いつくの、この子はッ!
「そうか……その手があったわ」
「そうだよリザリオ。エルフは不老不死……だが、生き物である以上、赤ん坊として生まれてくるはずだ。なら大人になるまで何年かかる? 五年か? いや十年か? ——いや、もっとかかるんじゃないのか?!」
「つまり……エルフのショタロリ期は、人間からしてみれば永遠かもしれないと……」
「そうだよリザリオ。だから我はこの王国を平らげたのち、エルフ探索の大号令を発するつもりだ。伝説のエルフ郷を求める旅だ! どうだ、リザリオ! 我の考えは間違っているか?!」
「……いいえ! 素晴らしい発想だわ」
私は立ち上がった。儚くも消えていくショタ。それを何人も見送り、その度に涙を流してきた。それが、永遠に愛でられるかもしれない。なんていう悪魔的発想……恐るべし転生者!
「分かったわ、ローディ殿下。協力しましょう」
「おお、分かってくれたか」
「でもその前に、一つだけ確認しておくことがあるわ」
私は真剣な眼差し、場合によっては相手を斬る覚悟で問いかける。
「……私たちは愛でるだけ。けして触れない。——そうね?」
「勿論だとも。我が造る空中庭園に、そんな不届き者は不要だ。害悪ですらある」
「わかったわ。その言葉——信じましょう」
そうして私はローディと固い握手を交わした。
——ここから、彼らの真実の愛を求める物語は始まった。それはやがて大陸のみならず異世界まで巻き込んだ大戦乱へと発展するのだが、彼らは未だその運命を知らない……。
【完】
おはようございます、沙崎あやしです。
今回の短編小説は「ショタロリ+異世界」で攻めてみました。お楽しみいただけましたでしょうか?
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