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激流越え


 その中で、間もなく最初に反応したのは、弓矢の敵襲でレッドに助けられたルーサーだった。


「・・・リーダーは、お前だ。」


 そのあとすぐ、同じく共に奇襲を仕掛けたジュリアス、お守りを無くしたと騒いでいたロイ、シャナイアの足を治療したデュラン、そしてスパイク、ジョーイ、タイラー、ジェイク・・・ほかにも次々と首を縦に振ってみせたのである。


 レッドには、これは意外な反応だった。実のところは反論の一つや二つどころか、十も二十も覚悟していたのだ。


「よし、じゃあ、サーフィス、イーサン、ブルグ、そしてグリード。最初に四人で向こう岸まで王女を無事に渡して差し上げてくれ。何が何でも。」

 レッドは、身長二メートル近くか、それ以上ある大男を選んで言った。


「了解。」と、彼らは頼もしい声で答えた。


 何かと問題を起こし、未だにレッドのことを全く好きになれないでいるブルグでさえ、この時は素直にうなずいていた。


「シャナイアは、俺がまた戻ってくるから待ってろ。」


「リーダー、俺が彼女を連れて行こうか? 俺の方が体格がいい。」

 ホークが申し出た。


「いや、あんたには彼女たちを頼みたい。」と、レッドは二人の女戦士に目を向けた。「ほかのみんなも一人ずつ間に置くようにして、一緒に渡ってやってくれ。」


 レッドは淡々とした口調できびきびと指示を出していたが、迷惑をかけている・・・そう思うとシャナイアは悲しくてならず、そっと下唇を噛み締めて、言われたことにうなずくしかなかった。


「あと二日の予定だ。捨てられるものは川に流すか、足取りが分からないように上手く隠しておけ。時間がない。合図をしたら、俺が戻ってくるのを待たずにロープの反対側から渡ってきてくれ。」


 ミシカが見つかってしまうと無理に川を渡ったことを悟られるかもしれなかったが、少なくとも引き離すことはできる。


 みなはあわただしく荷物を降ろし、言われた通りに中身をかき回し始めた。


 そうして隊員たちが急いで準備をする中、ユリアーナは静かに動いて、ミシカに最後のえさを与えた。そしてたてがみを撫でながら、ずっと名残なごり惜しげにほおをすり寄せていた。


 ルーサーが、二つの縄を念には念を入れて、固く、きつく結びつけた。それから、一方のはしを近くの頑丈そうな大木にくくりつけた。その間に、レッドはもう一方を自分の腰にしっかりと結んでいる。


 レッドは土手を下りて行き、川の中へ入って行った。何にもつかみかかれない状態では、勢いを増す濁流に逆らい横切っていくのは、意図いとした以上に困難だった。荒々しく押し倒そうとする流れに、危うく足を取られそうになる。水は一番深いところで、レッドの膝より十センチほど上まであった。女戦士たちはみな比較的長身だったが、一人で行かせれば耐え切れないだろう。レッド自身、水かさが腰のあたりまできてしまえば、とうてい抵抗はできなくなると感じるほどである。


 一歩進むのもままならない中、それでも確かな歩調でゆっくりと向こう岸へ渡っていく若い隊長の姿を、その部下たちは固唾かたずを呑んで見守った。


 どうにか無事に渡りきることができたレッドは、腰から外した縄をすぐに大木にくくりりつけ、手を上げた。 


 まずは四人の大男が、隊長が張ってくれたロープを頼りに、上手く王女をかばいながら激流を横切って行った。


 ユリアーナはミシカが気になり、何度も振り返りたかったが、そんなことをすればたちまちバランスを崩して足を取られてしまうので、何も考えずに進むしかなかった。


 やがて王女が無事に渡りきったのを見届けると、レッドはロープが下流に向いている方を戻って行った。その反対側からは、あとの者たちが、同じように縄につかまりながら渡り始めていた。男たちは荷物を肩にかつぎ、中でも軽い荷物を担当した者が、モイラとイリスを支えてやりながら渡っていた。


 レッドが戻ると、シャナイアとスエヴィが待っていた。


 スエヴィは、レッドの背中にシャナイアをしっかりと縛りつけてやり、大木にくくった縄の締まり具合を確かめてから、レッドに言われて先に行った。レッドも少しあとに続いたが、スエヴィに手助けを頼まず先に行かせたのは、縄が切れたり、外れてしまわないかと恐れたからだ。


 スエヴィも無事にたどり着き、隊員はみな冷や汗が流れる思いで、残る二人を何事もなく迎えられるのを待った。


 内心誰もが、こうしている間、レッドに驚異を感じずにはいられなかった。もともと疲れきった体で、強い流れに悲惨に揉まれながら必死できたため、今、いつまでも荒い息をついている彼らの疲労は、もう限界に達していた。それなのに隊長は、レドリー・カーフェイという男は、もう二度と行きたくないと思う場所を、ほかの三倍通ろうとしているのである。しかも彼は、これまでずっと一人でシャナイアを背負ってきたので、それは荷物を担ぐよりも足腰に応えているはずだった。


 水かさはとうとう、レッドの腰の位置にまで上がってきていた。流れもいよいよ荒々しくなり、レッドは、縄がなければとても進むことなどできない窮地きゅうちにいた。それでもひるまず強引に川を突き進む一方で、レッドは、自分の背中でどうもしょげかえっているようなシャナイアのことが気になっていた。


「祈ってくれているか。」 


「え・・・。」


「お前には悪いが、縄が切れちまったら二人仲良くあの世逝きだ。」

「私はさっき死ぬつもりだったから、いいのよ。」

「そうだったな。」

「それより・・・ごめん。私のせいで。」

「道連れがこんな美女だったら・・・悪くない。」


 レッドは、雨とこの困難のせいで顔をしかめながらも、ふっと笑った。

 シャナイアも、苦笑混じりにほほ笑み返した。


「私も・・・悪くないわ。」








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