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もう・・・戦えない


 彼らが戻った時には、レイアスはもう息絶いきたえていた。そのことを気にしながらも、みな今は別の一箇所に集まっていた。


 どうしたのか、モイラ以外は・・・。


 モイラは項垂うなだれて、命を落としたレイアスのそばに座り込んでいるのである。 


 戻ってきた隊長を見るなり、タイラーは駆け寄って行った。


 そこでタイラーは、強張こわばった顔でこう報告した。

「リーダー、シャナイアが足をやられた。こっちの茂みにも敵がいたんだ。それで、倒れた敵がむやみに振るった剣がシャナイアの・・・。」


 レッドはタイラーの腕をつかみ、彼の傷に目をやった。

「お前の肩は大丈夫か。」


「ケガのうちに入らんさ。今、デュランがてやっているが・・・。」


「ほかに深手を負った者は。」


「なんとかセーフだ。王女をかばったザイルも。」


 レッドは渋面を浮かべ、シャナイアのそばへ行った。


 デュランが腰を落として、彼女の痛めた足に適切な処置をほどこしていた。右膝から下のズボンの生地は切り取られ、そこから大きな傷口が見えていた。顔面蒼白で痛々しく眉間みけんに皺を寄せている彼女のその表情が、傷の具合がどうであるかを静かに訴えていた。


 レッドは、多少医学の心得のあるデュランに目を向けた。デュランは、これまでも中心になって、負傷者の治療に当たってくれていたのである。


 レッドの胸に、嫌な予感が差し込んだ。デュランは明らかに浮かない顔で、厳しい眼差まなざしをしている。


 血をぬぐうと大きな傷口が現れたが、それよりも、彼女の傷口のあたりの骨を押さえてみて、デュランは眉をひそめていた。彼女がつらそうに歯を食いしばったその瞬間、彼は最悪の事態を確信して、これ以上の治療をためらった。


 デュランは、かたわらで見守っているレッドを見上げた。

「リーダー・・・ちょっと。」


 デュランはそう促して、シャナイアから離れた。


 二人は、周りにいるほかの隊員やユリアーナ王女からも少し距離をおいたところで、面と向かい合った。


 レッドは、恐れながらデュランの言葉を待った。


「派手に見える傷口は、実際、浅いもので大したことはない。だが、倒れた敵がむやみに振るった剣で、最初すねのあたりを殴打おうだしたらしい。防具のおかげで骨折まではしてなさそうだが・・・。」


 剣は鈍器どんきとしても利用できる。金槌かなづちで足の骨を殴られたようなものだろう。


「つまり、骨を傷つけてるってことか。」


「ああ。これから痛みが増してれてくるはずだ。まともに歩けなくなるだろう。正直、包帯も余裕があるとは言えない。彼女の足を手当てするには、止血だけでなく、痛めた部位に負荷ふかをかけないよう固定する必要がある。彼女をどうする。手当てしてやりたいが・・・治療道具は戦えるようにするための貴重なものだ。彼女はもう・・・戦えない。」


 この二人の様子から、もう、誰もが事態を悟っていた。


 すると、シャナイアがいさぎよい声できっぱりと言った。

「レッド、私をここへ置いて行って。早く行かないと次が来ちゃうわ。足手纏いになるくらいなら、死んだ方がマシよ。」


 レッドは隊員たちの不安そうな顔を見た。みな、どう答えるのかと判断をうかがっているのである。中でも、ユリアーナ王女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。


 ここに置き去りにすれば敵に見つかり、正確な行路を吐かすために拷問にかけられるかもしれない。そうなれば、彼女はその前に自害するだろう。


 レッドは、デュランに向き直った。

「剣を振るうことはできる。その場の戦いなら、今まで通り姫のそばを守らせればいい。」


「それができたとしても、この先の旅路はどうするんだ。足を動かせば悪化する一方だぞ。すぐにもたなくなる。」


「あと二日。歩かなければ、どうだ。」


「リーダー、何言って・・・。」


「とりあえず止血だけ頼む。」


 どういうことなのか気になりつつも、デュランは言われた通りにシャナイアのそばへ戻り、また止血にとりかかると、一度離れたレッドを見て、今度は薬と包帯を使った。


「ちょっとデュラン、何やってるのっ⁉」


「シャナイア、お前、覚悟決めろよ。」

 デュランは、手当てを続ける自分の手元から目を放さずに言った。


「決めたわよ、だから余計なことしないでっ。」


「そうじゃなくて、根性みせろよって意味だ。きっと、なかなか見捨ててくれないぜ、うちのリーダーは。」


「はっ⁉」


「これがアイアス・・・。いや、レドリー・カーフェイ・・・か。」


 デュランがそうつぶやいた時、治療に使えそうなものを探していたレッドが、手に何かを持って戻ってきた。


「これ使えないか。予備の防具だ。」

 レッドはそう言うと、まり具合を微調整できるスネ当てを差し出した。


「ナイス、リーダー。ちょうどいいよ。」

 デュランはシャナイアの患部にそれを当てて、できるだけきつく締めた。


「やっぱり包帯もいる。もっとしっかり締め付けておかないとダメだ。」


「女の足なら、包帯でなくても縛れる。」


 レッドは言いながら、後頭部に両手を回して座り込んだ。ひたいの布を外し、それを黙って彼女の足に巻き付け始めたのである。


「だから何してるの⁉ 私はいいから、放っておいてっ。」

「立てるか。」

「え・・・ええ。」

「まだ動かせるな。」

「あのね、だから何言ってるの⁉ あなた隊長でしょっ! 私は一人で何とかするから、先に行って!」

「使い物にならなきゃ、そうするさ。だがお前はまだ動けるし、必要だ。足手纏いになると思っているなら、一晩で治すんだな。言っておくが、俺はまだお前を捨てる気はない。」

 レッドは曇りのない声と真剣な表情で、淡々と断言した。







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