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弓矢の敵襲


 一行は山道を抜け、ふもとの深い森へ入って行った。朝から雲行きが怪しく、空はずっと灰色の厚い雲に覆われている。ときおり湿っぽい突風が吹き抜けていき、今にも降り出しそうな塩梅あんばいである。


 薄暗い森の中を進んでいると、やがて斜め前方に、緑に囲まれた岩山と、天気が良ければもっと綺麗に見られるだろう青く澄んだ池が現れた。そこは森の中でも開けた場所で、その岩山の麓から彼らの右手側へは、木々よりも累々《るいるい》と積み重なる岩場が続いている。


 一行は、そこでにわかに足を止めた。何か・・・また嫌な予感と共に、気配がする。


 隊員たちは自ら武器に手を忍ばせ、息を殺して耳をすました・・・。


「ぐっ⁉」


 いきなり、レイアスの体をグサリと突いたものがあった。

 やじりが長くて太い矢だ。


 弓矢の敵襲てきしゅう・・・!


 レイアスは、まともに突き刺さった矢と、防具の下から血が流れる自分の胸をつかんで、地面に倒れた。


「レイアスッ!」

 近くにいるモイラが悲鳴を上げた。


「くそ、まともに胸をやられた。」

 一瞬目を向けてそれを見たデュランが、苦くつぶやいた。


 あわてて振り返るレッド。

 しまった、王女が!


 すると、ミシカに座ったままの王女に、ザイルが抱きついていた。そのザイルの右の肩甲骨けんこうこつのあたりには矢が突き刺さっている。これも防具がある程度食い止めてはくれても、どんな攻撃でも完全に防ぎきれるというものではないので、やはりその下は血まみれだろう。


 ヒュッ!

 ヒュンッ!


 風をきる恐ろしいうなりが耳をかすめ過ぎる。


「うあ!」

「うっ!」


 続いてジョーイ、ブルグ、次々と悲鳴を上げる。


「木立へ!」

 レッドは急いで指示を飛ばした。


 ザイルが傷ついた肩でも素早く王女を抱き上げると、ミシカは本能で木立へと走り出した。


 背を低くしながら、隊員たちも一斉に左手に見えていたその木立にまぎれた。


 レッドが隠れた大木の近くには、無事な方の肩から幹に凭れかかり、痛みに顔をしかめているザイルがいた。その背後には、申し訳なさそうな顔で、おどおどとザイルを見上げているユリアーナ王女もいる。


 ジョーイやブルグも矢を受けたのは腕や肩で、命は無事だ。それに幸い、どちらもき腕とは逆で、まだじゅうぶんに戦える。


「ザイル・・・感謝する。」

 心底からレッドは言った。


「左利きで助かった。」


「あの岩場からだ。」

 鋭い声でそう囁いたジュリアスは、忌々《いまいま》し気にそこをにらみつける。


 こちらにも射手しゃしゅはいる。それも名人が二人。


「ライアン、スパイク。」


「分かってら、リーダー。」

 ライアンはすでに、背中にくくり付けていた弓を外していた。


「ここから狙えるか。」


「できなきゃ、ただのマヌケだよ。こんな時の戦力だろ?」と、スパイクも同様、腰のつつから引き抜いた矢をもうつがえている。


「お返ししてやれ。」

 スエヴィが言った。


「だが無理はしなくていい。少しのあいだ引き付けておいてくれ。」


 隊員たちはみな上手く大木の陰に隠れている・・・が、ここでじっとしていても何にもならない。恐らく敵の部隊はいくつにも分かれていて、そのうち包囲されるがオチだ。


「スエヴィ、ジュリアス、ルーサー。」

 レッドは、中でもずば抜けて身ごなしが素早く、反射神経と早業はやわざに優れた男を指名した。


 戦闘中は、レッドはおのずと手短てみじかに指示を飛ばす。いちいち確認したり、呑みこめずにきき返す者などいない。


 スエヴィは不敵な笑みを浮かべ、「不意打ち狙いだな。」


「ああ、奇襲に向かうぞ。」


「何人敵がいるか知れないのに、四人。オーケー、一瞬で中へ切り込んで、弓を打てなくしてやる。」

 ルーサーも恐れ知らずな声で応じた。


「なるほど、味方に当たるから攻撃をためらうってわけか。」

 ルーサーの近くから、そうジェイクの声がした。


「ためらってくれればな。どちらにせよ、上手くすればその攻撃だって利用できる。」


「共食いだな。」と、スエヴィ。


「振り向かれる前に、叩き斬れ。剣に持ち込めば、こっちのもんだ。俺たちはヤツらなんかより遥かに強い・・・だろ?」


 ジュリアスとルーサーは、顔を見合った。それから胸を張って同時に答える。

「当然!」


「岩山の方から迂回うかいして、奴らの背後に回りこむぞ。」


 作戦をたてているその間も、ライアンとスパイクは、木陰から見え隠れして次々と矢を放ち応戦している。敵側も悲鳴を上げ始めた。









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