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守るための戦い


 真昼には強烈に輝いていた太陽もやっと弱り始めた午後、山の斜面が緩やかになり、幅も広くて歩きやすい道を一行いっこうは進んでいた。だが道沿いの木々ややぶは減り、代わりに身を潜められる大きな岩などが散在している、襲撃ポイントといえる場所でもある。


 レッドは増して感覚をぎ澄まし、周囲の様子をうかがいながら歩いた。


 レッドは急に立ち止まると、手を上げた。隊員たちに注意をうながしたのである。


 こんな山中に大勢が殺気立って隠れているとすれば、何かしら、不自然に音がたつものや動くものがある。どんなかすかなそれでも逃すまいとする集中力で、その異様な気配を感じたからだ。


 歩き疲れた顔に一瞬にして緊張が走り、隊員たちはすぐさま臨戦態勢に入った。場所をとるが威嚇いかくもできる少数の大剣使いは前線につき、レッドを始めとする身軽で早業はやわざにたけた男たちがその穴を埋め、女戦士は王女の周りに集められた。


 出発の日までに、レッドの要望によって、チームのメンバー同士による軽い試合が行われていた。戦闘における隊員全員の長所と短所を、彼は知っておきたかったからである。それによって築かれた壁を突破しなければ、王女を殺害することはおろか、彼女たちのもとへもたどり着けない。


 しかし山道であるため、守るべきものを中心におく完璧な円陣を組むことはできなかった。


 相手に気付かれたと分かると、敵側の指揮官が声を張り上げ、レッドの声と重なった。


「かかれ!」

「くるぞ!」


 士気を上げる雄叫びと共に、敵の多くが岩陰からわっと現れた ——!


 白刃はくじんが激しくぶつかり合い、たちまち甲高かんだか剣戟音けんげきおんが鳴り響く。


 敵の方が明らかに多勢で、攻撃はあらゆる角度から絶え間なく繰り出される。最初の襲撃とあってじゅうぶんな戦力がそろっているだけに、傭兵ようへい部隊は苦戦をいられた。それでも、選び抜かれた一流戦士たちが築く難攻不落の鉄壁は、そうやすやすと切り崩せるものではない。


「くそっ!」


 隊員の男たちはイライラと悪態をつき、舌打ちながらも、見事な剣捌けんさばきでびゅんびゅんと武器を振るっている。


「中へ入れるな!」

 レッドは、敵をも威圧するほどの厳しい声を飛ばした。


 それに応えようとするかのように、隊員たちは気を引き締め、闘志を奮い起こした。そこで気付いたのである。自分に課せられた使命は敵を倒すことにあるのではなく、あくまで守ることなのだと。その声には、それを再確認させられるほどの威厳があった。


 そんな傭兵部隊の真の実力に気付いた敵の勢いに、徐々におとろえが見え始める。


 敵が劣勢となって退却するまで、このまま一人も倒れず持ちこたえてくれ・・・レッドが胸中で祈った、その時。


 願いもむなしく、ついに味方の中から悲鳴が上がった・・・!


 ちくしょう・・・防御ぼうぎょが破られたと分かると、レッドはただちに叫んだ。


「スエヴィ!」


 同じように気付いていたスエヴィも、そのひと言でどうしろと言われるかを悟っている。


「俺のとこが空くぞ!」

「俺がやる!」


 スエヴィが隣から離れると、レッドは、スエヴィと自分が守っていた二人分の範囲の中間に立った。


 ここぞとばかりにその間をつかれたが、誰一人として抜けることなどできない。なぜなら、二本の剣を振るうレッドは、効率的な身ごなしと桁外けたはずれた瞬発力で、向かい来る敵を斬り伏せるのに手間取らないからだ。


 その隊長の戦いぶりに、敵だけでなく味方まで目をみはった。


 そんな中、王女のそばで剣を構えているリーシャが、突然、金切り声を上げた。


「先輩!」


 先輩・・・つまりシャナイアのことだ。


 防御が弱くなったところへ、シャナイアは知らず知らずのうちにひとり出過ぎていたのである。


 その声が届いてシャナイアが目を向けると、リーシャがサッと現れ、そして地面に崩れ落ちた。


 リーシャは考えるより先に、敵がナイフを向けた方へ身を投げ出していたのだ。


 シャナイアは愕然がくぜんとしたが、幸い気が動転する前に反応してくれた体が、倒れたリーシャのその先に見えた敵をめがけて飛びかかっていた。


 相手は応戦に間に合わず、あまりに素早い細身剣で腹部を刺し貫かれ、息絶えた。


「引け、引けいっ!」


 まだ激闘のさなか、唐突とうとつに退却を命じる大声が駆け抜けた。


 すみやかに攻撃を中止した敵は、引き波のように雑木林ぞうきばやしへと消えて行く。


 この行動は、隊を編成し直すために、いったん引きさがっただけに過ぎない。居場所を突き止められたとなると、今後の行路の予想もつけられる。とにかく、すぐにこの場を離れる必要があった。









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