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敏感な男


 夜も更けこみ、路上に人の姿はほとんど無かった。わずかに設置されている街灯の明かりと、ちらほらとまだ灯っている店の照明が、辛うじて道を照らしてくれていた。


 レッドは、ふらつきながら歩いているシャナイアのあとを、じゅうぶんな距離をおいてついて行った。思ったとおりだ・・・。それは、人に見られるとしたらかなりバツの悪い姿と分かってはいたが、もし道端みちばたで眠り込んでしまったり、ましてや、普段はどれほど腕が立とうが、今は抵抗できないほど悪酔いしているところに、もし強姦に襲われるようなことにでもなれば・・・と思うと、放っておけなかったのである。


 彼女は、広場の方へ向かっていた。このまま、どうにか無事に帰り着いてくれればいいが・・・。


 ところが、レッドがそう祈った次の瞬間、突然、彼女が暗い路地裏へ入って行った。それも不自然な動きと共に。


 レッドは、ハッとして駆け寄った。その曲り角からのぞいてみると、裏口の横に置かれてある居酒屋のゴミ箱のふたを開け、その上にかがみこんでいる彼女の後ろ姿が見えた。


 そっと忍び寄るレッド。そして、極めて慎重に声をかけた。

「大丈夫か。」


 シャナイアは、慌ててゴミ箱の蓋を閉めた。それから恐る恐る振り向いて、徐々に視線を上げてみる。そこにいたのは、やはり、さっき喧嘩腰けんかごしで話していた相手だ。


「レッド?どうして。」

「ちょっと気になってな。」

「ふーん・・・。」


 自分では上手くしたつもりのシャナイアは、彼はかんがいいのか敏感なのか・・・と考えながら、その相手をまじまじと見つめた。


「無理してたろ。」

「・・・いつから気づいてたの。」

「さっき話をしてる間に、ちょっと顔色が気になってな。立ち上がった時に確信した。」


 シャナイアは店舗の外壁に力無くもたれかかった。


「カッコ悪いとこ・・・見られちゃったな。」

「歩けるか。」

「ちょっと・・・無理みたい。もう少し・・・。」


 レッドは腕を伸ばして、有無を言わせず彼女をすくい上げた。どちらにせよ、彼女はもう強がりを言うことはおろか、照れ隠しでこばむことさえできないほど弱っていた。


 一方、意外と素直に身をゆだねる彼女を軽々と抱き上げたレッド。だが、そこで思わぬダメージを食らい、ドキリとした。もちろん急に元気になって殴られたのではなく、精神的に。さすがにきたえられてはいても、その体は驚くほど柔らかかった。彼女たちは力ではなく技で勝負するからだろうか・・・とレッドが考えていると、困ったことに、これまで何度も悩まされてきた感情がまた頭をもたげた。シャナイアの豊満ながら引き締まった肢体は、イヴの華奢きゃしゃなそれとは似通にかようものではなかったが、腕に伝わる肌の感触と温もりが、あの日・・・直接彼女を抱きしめた夜のことを、残酷なまでにありありと思い出させた。


 切なさと愛しさに参りながら、レッドはそのまま広場に出て、シャナイアを泉の前で下ろしてやった。大きな岩の真ん中から、常に湧き水が流れ出してくる泉である。


「口、気持ち悪いだろ。」


 シャナイアは、弱々しくうなずいた。そして、泉のへりをつかみながら立ち上がり、手を伸ばして口をゆすいだ。それからまたへなへなと座りこむと、ぐったりして目を閉じた。


 そばで様子を見ているレッドは、深々とため息をつく。


「しょうがねえな。家、どこだよ。」

「家じゃないの。とりあえず借りてる部屋。」

「何でもいいから、ちゃんと休める所を教えろ。送ってやるから。」








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