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シャナイアの後輩たち


 そのあとシャナイアに向き直ったレッドは、急にムッとした顔つきになると、低い声で言った。


「で、シャナイア・・・一つきいていいか。」

「何よ。」

「経験豊かな屈強くっきょうの戦士ばかりを集めるって・・・お前言ったよな。」

「ええ、そうね。」

「じゃあ・・・。」


 レッドは、離れた場所でおしゃべりに花を咲かせている女性たちに手を向けると、少し声を荒げた。


「お前も含めて、あの三人のやたらと若い女戦士は何なんだ。」


 シャナイアは、一瞬そちらを見ただけで涼しげにこう答えた。

「彼女たちは、この町の女戦士養成所リアラステールに在籍する一流戦士よ。私が引き抜いてきたの。私の後輩。」


 そう答えると、シャナイアは、ノースリーブのドレスからあらわになっている自分の三角筋を指さした。そこには、バラの花をデザインした刺青いれずみがあった。リアラステールの紋章である。


「そうじゃなくて・・・在籍するってことは訓練中か?どこが一流戦士だ。」


「戦の経験なら何度もあるわよ。私も含めてね。そういう養成所なの。この帝国の各所から要請ようせいがあれば、ある程度腕を上げて戦場に立てる許可がおりた希望者は派遣されるのよ。立派に生きて戻った、卒業間近の経験豊かな子たちよ。」


「俺たちの比べものにはならんだろ。」


「じゃあ、あなたたちに姫様のお世話ができるの? 気をかせることができる? 戦うことしか知らないいくさバカばっかりでしょう。私一人じゃ不安だし、世話係がいなくなったら、あなたも困るんじゃないかしら? められこそすれ、どうして文句言われなきゃいけないのよ。」


「う・・・キツい。」と、スエヴィは一歩引き、レッドも押し黙った。


「あなたと同じか、少し若い子ばかりだけど、みんな腕は確かよ。だいたい、あなただってその若さじゃあ、たいして経験ないんじゃないの? いったい、いくつの時から戦場に立ったのよ。」


「試験を受けたのは十七の時。十八で資格を取るまでにも、俺も戦場に出ていた。」


「年齢から考えれば、せいぜいそんなものよね。まあ、その年で隊長に選ばれるくらいだから、それなりに腕はいいんでしょうけど。」と、シャナイアは心なしか皮肉を言った。


 レッドは、彼女のことをどうも苦手なタイプだ・・・と思い黙っていたが、それからジョッキのビールを飲み干して、おかわりをしにその場を一旦離れた。


「ねえスエヴィ、彼、ほんとに何者なの?」

 そんなレッドの背中に目をやりながら、シャナイアはきいた。


「シャナイア、あいつは最も死に近い場所で戦ってきてたぜ。この三年間みっちりとな。」


 スエヴィは、レッドと知り合ったのは一年くらい前だったが・・・と思いながら、ほとんど推測でそう言った。その腕を知れば、これくらい適当なことを言っても嘘にはならないと思ったからだ。


「先輩!」

 リーシャの可愛らしい声がした。


 シャナイアが目を向けると、いつも行動を共にしている後輩たちがそろってやってくる。


 彼女たちにとって、シャナイアは美人で強くて最高にクールな憧れの先輩。この任務に誘われた時も、二つ返事で即決だった。常に刺激を求めてしまう性格からか、何か時代に対する自分なりの強い使命感からか、男の世界と一般的には認識されているこの職業を選んだ彼女たちは、さらに鍛えた鉄の精神で、もはや死を恐れない。


 ただやはり、力や体力的に不利ではある。それでも、今回のように、王女の世話ができて戦力にもなる女戦士が数名いれば、足手纏いになりかねない侍女などを連れなくて済むため、考えよう、使いようによっては、非常にありがたい存在だ。


 何の話で盛り上がっていたのか、リーシャは気分が浮かれていると分かる表情をしている。


 そして、男まさりなイリスが、シャナイアの腕を引っ張った。

「先輩、ねえ、こっちへ来て。一人でカッコつけてないでさ。」


「もう、カッコつけてなんてないわよ。からかわないで。」


「先輩、ききたいことがあるの、ね、来て。」と、リーシャ。


 すると、シャナイアは困ったようにうろたえだした。

「あ、ごめんなさい。私そろそろ・・・荷物が片付かないのよ。まとめなくちゃ。」


「ええー、そんなことで?」

 イリスがわめいた。


「時間がないのよ、忙しくて。」


「そっか・・・うん、分かった。」


 後輩たちがおとなしく言うことをきいてくれると、シャナイアはそっと席を立って微笑した。

「ごめんなさい。それじゃあ、失礼するわね。」


 シャナイアが立ち上がった時、ちょうど戻ってきていたレッドは、一瞬顔をしかめた。そして、会場から抜け出すように帰っていくその後ろ姿を、しばらく黙って見送った。


 シャナイアが抜けたあとも、彼らは楽しそうに話を続けた。彼女目当てだったブルグも女戦士たちが寄って来たので移動することもなく、同じく彼女たちに鼻の下を伸ばしているスエヴィに付き合って、レッドもその場にとどまった。


 だがある時、レッドが不意にジョッキを置いて、背中を返したのである。


「スエヴィ、すぐ戻る。」と、言い残して。


「え、あ、ああ。」

 いきなり行ってしまったレッドに、スエヴィはどうしたのかと問う間もなかった。


 女戦士たちも、不思議そうにレッドの背中を目で追った。


 ブルグは渋面じゅうめんを浮かべている。

「抜けがけじゃあないだろうな。」


「ええーっ!」という悲鳴が上がった。

 女戦士たちが一斉いっせいなげいたのである。


「ありえないよ。シャナイアは、あいつの好みじゃないようだったし、ヤツはそんなズル・・・って、なんで?」


「興味あるのよ、私たち。ねっ。」

 素直な声でリーシャが答えた。


「俺には?」


「うーん、あなたも素敵なんだけど・・・ね。」

 実年齢よりずいぶん年上のような落ち着きのあるモイラが、苦笑混じりにスエヴィを見てそう返してあげた。


「ちぇっ。」と、スエヴィは舌打ちして、肩を落とした。








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