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精鋭部隊の必要性


 二十九歳になるその大男は、亜麻色の髪の美女シャナイアを口説くどき落とすことに尽力じんりょくしていた。男は背が非常に高く、腕っぷしも強そうな彫りの深い二枚目だが、シャナイアは一向にかれる様子もなく、適当に相手をしている。


「なあ、今から二人で抜け出さないか。」


 れ馴れしく肩に回されようとしていた大きな手を、シャナイアはお上品に振り払った。


「あら、どうして。」

「当分野営が続くんだぜ。最後にさ・・・な?」

「最後? 縁起でもないわねえ。」

「そういう意味じゃねえよ。」


 そんな二人の様子を、ひたすら凝視ぎょうししている男がいる。スエヴィだ。


「おいレッド、見ろよ。彼女に言い寄ってきた今度のあいつ、かれこれ十分は軽く超えてるぞ。」

 スエヴィは足を踏み鳴らした。


「今度の? お前、さっきからそんなもん観察してたのか、妙だと思ったら。」


「五人目だぜ。くそ、俺の出る幕ねえじゃねえか。」


 その二人がいる円卓には、空いたグラスやまだ料理が残っている皿がそのままあるだけで、ほかには誰も席についていなかった。ナンパ男の目に余る態度に参って、それとなく離れていったのだろうと思われた。


「今、なんか困ってるみたいだから、助けてやれば?」

「おお、そうだな。ようし、行ってくるわ。」


 そう意気込んで歩き出したスエヴィだったが、すぐにきびすを返してレッドの腕を引っつかむ。


「お前も来いよ。」

「なんで。」

「お前はもう顔見知りだろ。俺一人じゃすぐにフラれそうだからよ。」

「何の役にも立たんぞ。」

「いいから、早く。」


 スエヴィは強引ごういんにレッドを引っ張り、シャナイアの方へ連れて行った。 


 一方、実際には二十分間、その大男はまだしつこく彼女にからんでいる。

「なあシャナイア、いいだろ、ちょっとだけ。」


 そこへわざと邪魔するかのように、陽気な声が入ってきた。


 シャナイアは隣の男を無視して、その声の主に目を向ける。近付いてくるのは二人で、その一人は知っているが、もう一人とはまだ話をしたことがなかった。


「えっと、あなたは?」


「レッドの連れでスエヴィってんだ、よろしく。俺たち、二人でこの町に来たんだ。」


 そう明るく自己紹介しながら、スエヴィはもう片側の空席に腰掛けた。つまり、彼女の隣にはもう一人、しつこいナンパ男が座っている。


「そうなの、よろしくね。ところでレッド、この連中ちゃんと纏められる自信あるの? あなた、どうもなめられてるみたいよ。」


「そうらしいな。」

 レッドは憮然ぶぜんと答えた。


「無理もねえよな、その若さでリーダーされるんじゃあ。ここで聞いた話、ホークとグリードは隊長の経験だってあるらしいぜ。」


 そこにいる大男が発した。酔っているのかと思うほど、あからさまに棘のある言い方である。


 これにムッとしたのは、スエヴィの方だった。

「喧嘩売ってんなら、買うけど。」


「なんでお前が出てくんだ。」


「レッドは俺の相棒なんだよ。」


 天板に身を乗りだしたスエヴィの肩に、レッドはあわてて手をかけた。チーム内の亀裂きれつは絶対にあってはならないことだ。


「よせ、スエヴィ。味方だろ。えっと・・・あんたは?」


「ブルグ。」と、その大男はうとましそうに答える。


 彼は敵意を剥き出しにしてしまう性格で、レッドはこの男にとって、困ったことになぜか無性にいけ好かない存在となっていた。


 それに気づきながらも、レッドは爽やかな声で握手を求めた。

「ブルグ、よろしく。」と。


 調子を狂わされたような顔で、ブルグはつかの間レッドを見つめた。それから、ぎこちなく手を動かして、「・・・よろしく。」と、こたえた。


 スエヴィも、ブルグという男のことは今後相手にしないことにし、感じの悪いその男がなるべく視界に入らないようにして、シャナイアに目を向け直した。


「ところで君なら知ってるかな、王女の帰国に精鋭部隊が必要ってどういうことなのか。」


「ええ知ってるわよ。姫様の用心棒であるからには、事情を説明してくださいって上に言ったもの。」


 簡単にそう答えて、シャナイアは話を続けた。


「そしたら、つまりこうよ。八年前の戦争でレトラビアがスフィニアを支配した時、王族の命を取らない代わりに、ユリアーナ王女が差し出されたのは想像に難くないでしょう。要するに服従の証として王女は人質になったんだけど、近年、レトラビア帝国は強力な国家でありながら、東にならって防衛体制を続けている。つまり、同じく平和志向が強くなってきたこの国で、王女を奪ったままにしておくのは良くないってことになったんですって。だけど王女を解放することによって、スフィニアは従属国から同盟国になるらしいんだけど、スフィニア王国の周りには勢力に大差ない国家がいくつか存在するのね。それらにとって、レトラビアの帝政下にあったスフィニア王国は意識する存在では無かったんだけど、不完全とはいえ政権を取り戻したとなれば近隣国の情勢が乱れる可能性も否定できない。例えば政略結婚。ユリアーナ王女が戻ることによって彼女の利用価値を悪いように憶測した、中でも実質的に今、武力で優位な国家が不利になることを恐れて邪魔してくるんじゃないかって、まあ、簡単に説明すると、そういうわけ。どこが妨害してくるかも見当はついてるみたいよ。」


「国から狙われてるのかよっ。ロバさんで大丈夫か⁉」

 冗談でなくスエヴィは言いながら、またレッドの目を見た。


「そういうことか。」

 レッドは悲しいため息をついた。


 大陸の東側では、強国エルファラム帝国と、今ではそれに匹敵するアルバドル帝国がぶつかったヘルクトロイの戦い以後、大合戦は起こっていない。東の国々のほとんどが、今ではこの二大大国のどちらかの従属国や同盟国であるからだ。多くの家門を支配下に置いているエルファラム帝国について言えば、その土地の人々の自由をかなり制限していた昔に比べ、今ではそれもずいぶん緩和かんわされて、敗戦国民であっても平穏へいおんに暮らすことができている。それは、エルファラム帝国の慈悲じひ深い先代皇后のおかげだという一説もある。


 つまり、今は休戦協定を結んで静かにしているこの二大大国が、このまま荒立ちさえしなければ、東の国々は穏やかでいられる。むしろ、その脅威に、東の平和は守られているようなものだった。


 それに比べて、大陸の中央北部から南部の、未だ激戦の地エドリース(大陸の西側)に近い国々は、表向きは東にならい、平和に向けて動きだしながらも他国を信用しきれず、裏では警戒して内心どこも過敏になっている。大きな戦争が無くなっただけで、こういった小競こぜり合いなら、様々な理由でまだ各地で起こっているという現状を、大陸中を渡り歩き、戦い続けているレッドは知っていた。








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