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【新装版】アルタクティス ZERO ~ 神の大陸 自覚なき英雄たちの総称 ~  作者: 月河未羽
外伝2  ミナルシア神殿の修道女 【R15】
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森の吊り橋で ― 2


 イヴが持ち出してきたランタンの明かりが夜道を照らしていたが、今夜は明るい月夜だった。


 森のり橋の手前で、二人はまた立ち止まった。そこで向かい合ったまま、互いに言葉もなく見つめ合った。その時、イヴは名残惜なごりおしげに彼の顔を見上げていたが、レッド自身はそのことに気付かず、この明るい月光のもとでは明かりがかえって邪魔だ・・・と思いながら、そんな彼女を見つめ返していた。


 うるんでいるようにも見えるイヴの茶色い瞳が、それを真っ直ぐに見つめ返しているレッドを、妙な気持ちにさせた。静寂せいじゃくな夜に、よく聞こえるすずしげな川の水音みずおとが、そんなおさえがたい悶々《もんもん》とした気持ちを余計にあおり立てた。


「ほんとに・・・ありがとう。それじゃあ・・・。」と、イヴはほほ笑んだ。


 レッドも少しほおを崩した。

「ああ・・・じゃあな。」


 少しうつむいたイヴは、ゆっくりと背中を向けた。

 だが、レッドが知らずとさびしそうな表情を浮かべた、その時。


 イヴが振り返った。


「これ、持って行って。」


 向き直ったイヴが、手にしているランタンを押し付けるようにして、差し出してきたのである。


「いや、明るい川沿いをたどって帰るから。」


 ついそう答えたレッドだったが、そこで気付いた。


 それを借りれば、また彼女に会えるな・・・。


「私は、もうそこまで真っ直ぐ帰るだけだから。」

 イヴは、自分でもどうしたのか分からないほど、声に力を込めて言った。


 いくらかまだ躊躇ちゅうちょしながら、レッドはぎこちなくうなずいた。


「じゃあ・・・近いうちに返しに来るから。」


 イヴは嬉しそうに微笑した。それから顔を上げて背中を向けると、神殿から漏れている部屋の明かりや、門灯もんとうたよりに歩き始めた。


 レッドは、イヴから借りたランタンを持って、またその姿を見守った。


 すると、しばらくしてイヴが立ち止まった。かと思うと、小走りで駆け戻ってくる。


 レッドはどうしたのかと思い、ただその場でたたずんだまま待った。


 そしてレッドは、いきなり胸に飛び込んできたイヴを、しっかりと抱き締めた。


 ただ実際には、「きゃあっ。」と悲鳴を上げたイヴを、とっさに支えただけのこと。すぐ目の前で、彼女は単に蹴つまずいただけだ。


 レッドは、驚いたせいで息をきらせているイヴの顔をのぞきこむ。


「どうした?」


 イヴはこくりと息を飲み込むと、レッドを見上げた。


「あの・・・これからも会ってもらえるかしら。」


 レッドは思わずドキッとして、顔が熱くなった。


「あ、違うの、あの・・・子供たちがね、また剣を教えてもらいたいってせがむの。お願い、会ってあげて。」と、イヴはあわてて言葉を続けた。


 レッドは密かに苦笑して、それからきいた。

「あの基地へ行けばいいのか?」


「ええ。普段は、夕食の時間になるまではずっといるから、あの子たち。」


「孤児院って、ずいぶん自由なんだな・・・。」

 レッドは呆れ混じりにふっと笑った。

「分かった。それじゃあ、夕方の一時間くらいしか相手してやれないと思うけど。」


「よかった。ありがとう。」


 イヴは、ほっと吐息といきをついた。そして、寄りかかっていた彼の腕から、今気づいたというように離れた。


 レッドは顔をらして、満天の星を見上げた。次のことを言うのに、なぜか気恥ずかしさがあったから。


「あんたも・・・時々来るって言ってたな。」


 そんな彼に、イヴは見惚みとれた。するどくて、でも優しい瞳にかれた。戦うことで生きている彼・・・アイアスって? 彼のことをもっとよく知りたい・・・と素直に思った。でも強い戸惑いがあった。今はまだ・・・。


「ええ・・・時々。管理人ですもの。」


 イヴも視線をあげた。そして彼と同じように、夜空をいろどる無数の星を眺めた。








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