表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/123

執念


 部隊長はあの惨劇について、皇妃には、「遺体は人目につきますので、滝壺たきつぼに葬りました。」と、死を覚悟でいつわった。


 ウィルの我が身を犠牲にした一か八かの賭けは、そうして見事に受け入れられた。が、それは一時的なものでしかなかった。


 どこから情報が漏れたのか・・・。暗殺を命じられた者たちのあいだでは、当然、極秘にしていた。それは誰もが自らの意志で守り抜いてきたはず。だが内部の人間からでなくとも、様々な可能性がある。また何か、ちょっとしたきっかけ・・・そう、例えば、子供たち。あの場には、何も知らない無邪気な ―― 心にひどい傷を負ったはずの ―― 子供たちもいた。もし、ふと不審に思ったシャロン皇妃が少し手を回すだけで、そうと取れる事実を知ることもできるだろう。つまり、報告の真偽の確認。


 とにかく、結局はまたも、エミリオ皇子の生存が知られてしまったのである。


 そして、今度はわざと嘘をついた暗殺部隊の隊長は、異常なまでに躍起やっきになっている彼女から強くしかられることは無かった代わりに、実質的な国外追放ともいえる、果てしない地獄の指令を言い渡されたところだった。 


 国を逃れたエミリオ皇子を見つけ出し、確実に殺すまで、戻ってきてはならないと言うのである。


「どう証明すればよろしいのでしょうか。まさか、遺体を・・・と。」

 隊長は愕然がくぜんとしながらも、さすがにあきれて、せめてもの少し反抗的な態度をとった。


 これによって、シャロンも一瞬押し黙った。怒り任せに無茶を言っていることが分かっていた。だが、無性にこみあげるこの苛立ちのおさえはきかなかった。


「無理なら、それに値するものでも構いません。」

「例えば・・・どのような・・・。」

「自分でお考えなさい。」


 その感情的な態度に困惑し、隊長は重いため息をついた。

 皇妃は遺体を見ることを望んでいる・・・本気で首を持ち帰れ、とでもいうのか。


「お言葉ですが・・・この広い大陸で、あてもなく彷徨さまよっておられるはずの皇子の足跡そくせきを、どうたどればよいのでしょう。」

 聞き込みしかないだろうが・・・。滅入めいりながら隊長はそう考えた。本当なら、馬鹿馬鹿しいと吐きてたいくらいだ。


「聞き込みでも何でも、方法が無いわけではないでしょう。それはあなたの方がよく思いつくはずです。あなた・・・。」

 そういうことを、わざと言ってくるとは・・・・とイライラしたが、シャロンはにらみつけただけで済ました。

「とにかく、エミリオ皇子の容姿は目立ちます。ひと目で印象に残る特徴。聞き込みに苦労はしないでしょう。」

 その言葉を、シャロンは忌々《いまいま》し気に口にした。


「あの日、エミリオ様は着の身着のまま逃亡されました。すでにもう・・・生き倒れている可能性も、じゅうぶんに考えられます。皇子は、俗世で生きていくすべを身に着けておられません。そこでは皇子は幼子も同然。世間の何も分からず、路頭に迷ったはずです。」


「それなら、その可能性も視野に入れて捜索そうさくなさい。そして、その証拠を持ち帰りなさい。身元が分からない遺体でも、発見されれば管轄かんかつの行政機関が動いて、それなりのとむらいをしているのが当然でしょう?」


 隊長は険しい表情で背筋をピンと伸ばすと、大きく一歩さがった。

「命令には従います。陛下・・・。」


 シャロンはふんと息を吐きだして、うなずいた。

「下がって構いません。」


「失礼いたします。」


 廊下へ出ると、隊長もまた派手なため息をついて首を振った。

 あれ以上、聞いてはいられない。何を言っても無駄だ・・・と分かってはいたが。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ