守りし者 ― 1
痛ましいほどに痩せ細った腕でしっかりと赤ん坊を抱いているその貴婦人は、ある真夜中、右も左も分からないままに、ひっそりとした小さな船着場へとやってきた。そして、水面にゆらゆらと浮いている小舟の中に倒れ込んだ。
彼女には、愛情のおかげで、辛うじて我が子を胸に抱えられるだけの力しか残されていなかったが、つないである縄をどうにかほどくことができたあとは、その小舟が人のいる場所へと連れて行ってくれるのを祈りながら、彼女は疲れて目を閉じた。
彼女は奇跡の女性だった。
ここまで生きてたどり着くなどまず有り得ない窮地を、いくつも切り抜けてきた。山道で馬車が故障したあとは馬だけを連れて進もうとしたが、狼に襲われてそれも失い、自身にも命の危険が及んだその時、どこからともなく現れたまた別の狼の群れに救われた。
彼女を襲おうとするものがいれば、どういうわけか、決まって助けようとするものが現れた。飢えて動けなくなると、またどこからともなく何か動物が現れて、木の実や果物を届けてくれたり、湧き水の場所まで案内してくれた。
彼女は奇跡の女性・・・そして、選ばれし守り人。
川の流れは南へと向かう。真っ暗闇の中、その小舟は、運命に導かれるままにやってきた親子を、その魂を、またそれに従うままに連れて行った。
ただ一人しかそこにはいない、神々《こうごう》しい森の奥へ奥へと・・・。




