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再び・・・


 翌朝早速(さっそく)、エミリオはそれを行動に移した。髪を切って欲しいと夫人に頼んだのである。髪が商品になるというのは、何かで聞いてたまたま知っていた。自身の髪にいくらの価値があるかなど皆目かいもく見当もつかないが、琥珀こはく色の背中まである長髪。とりあえず売れるほどの量はあるだろう。せめてもの罪滅つみほろぼしのつもりだった。


 夫人は勿体もったい無いと一度はこばんだものの、外見を変えたいと言われて納得し、その日のうちに、切り落とした美しい琥珀色の髪を丁寧に包んで、町へ売りに出掛けた。そして、適当な嘘をついて彼の髪を店に持ち込んだのだが、人毛ウィッグ等を扱うそこは貴族御用達(ごようたつ)。まるで皇子の髪のように美事な材料が手に入ったとたまたま口にした店主の声は、ヘアスタイルをお洒落しゃれに存分に楽しむことができる貴族の間で、ちょっとしたうわさになった。


 そして運悪く、それが伯爵家の出であるシャロン皇妃の耳に。


 シャロンはたちまち胸騒むなさわぎに襲われた。






 部隊長は、皇宮の東にある離れの図書館で、シャロン皇妃と向かい合っていた。


 館内一階は皇子の勉強部屋としても使われ、権力者や軍の上官が調べものにくることもあるが、この二階の小部屋には定期的に清掃員が入る程度で、ほとんど放置されている。ここは、皇族以外の者が出入りしても怪しまれずに、長話ができる場所。


 そこに立たされている彼には、もう耐えがたかった。


 人生最悪の日となったあれ以来、それまでよりも悲しみはふくれ上がり、王妃への憎悪ぞうお嫌悪けんおは倍増した。そして今は、平常心を装うための気持ちの整理をつけるのに、まだ必死になっているところだ。


 その闇の特殊部隊員たちは、あれからというもの笑顔を無くしていた。家族と生活は守ったが、精神的に、それからの毎日が地獄だった。


 そんな日々が一か月近く続いている中で、今日、隊長がシャロン皇妃に再び呼びつけられたのである。


 命令には従った。何の用か・・・隊長は、シャロン皇妃から声がかかったというそれだけで、もういい気がしなかった。


「私にどういう報告をしたか、覚えていますか。」


 いやに刺々しい口調で、皇妃がきいてきた。


 今の言葉の意味は・・・? 隊長は考えた。また何か悪事に手を貸せと命じられるかと思いきや、唐突とうとつな。だが報告と言えば、あのことしかない。


 そう思い当たりながらも、隊長は黙ったまま、刺すような冷たい目を向けてくる皇妃のことを、しげしげと見つめ返していた。何が言いたいのかと。


 分かっているくせに返事をしないその態度は、シャロンをますます不機嫌にし、イラつかせた。


「エミリオ皇子が失踪しっそうした夜のことです。」

 つっけんどんな声が放たれた。


 やはり・・・そう思うも、隊長はまだ意図いとが分からず困惑していた。それに、陰険いんけんな質問の仕方が不愉快ふゆかいだった。その理由も何か関係があるのだろうが。とにかく、これに答えれば明らかになる。


「は・・・皇子は重傷を負ったまま激流へ転落――」


「生きています。」


 数秒、隊長は驚きで言葉を失った。


「・・・まさか。」


「恐らく、下流の民家にかくまわれています。」


 思わずうれしさがいた。

 だが、このままで済むはずのないことも分かっていた。だから、あわてて考えた。ここで終わらせることを。


「それは・・・あり得ないかと・・・。川はひどく荒れており、エミリオ様はかなり深い傷のまま流されたのです。いっきに失血したはずです。生きていられるはずは・・・。」


「エミリオ皇子は、皇子であるとともに、屈強くっきょうの戦士です。生き延びられる可能性は、いくらでも考えられます。」


 それは憶測おくそくに過ぎない。それより・・・。


「かくまわれている・・・とおっしゃった、その根拠は・・・。」


「救助したと思われる人物のこと、そうと取れる情報を得ました。いずれにしろ、これについて確かめるのは難しくはないでしょう。場所はある程度特定できるはずです。」 


「ですが、そうだとして、エミリオ様がここへお戻りになるとは考えられません。何卒・・・。」


「近いうちに、皇子の葬儀が行われます。どんな理由があろうと、エミリオ皇子がここへ戻るようなことがあってはならないのです。もう後戻あともどりはできません。」


 殿下は病床に伏していることになっている。当然、裏工作。偽りの葬儀だ。


「エミリオ様は我々にこうおっしゃいました。私はもう、家も家族も持たない孤独の身だ、そのような男に何ができると。もともと名誉も権力も欲してはおられませんでした。そのようなこと・・・。」


「どんな理由があろうと・・・と、私は言いました。」


 声はどこまでも冷淡に響いた。


 無駄だ・・・隊長は悔しさで発狂しそうになりながらも、あきらめるしかなかった。これ以上、口答えはできない。






 そして数日後、恐れた通りになった。


 シャロン皇妃は再び、はっきりと暗殺命令を下したのである。


 そうして闇の特殊部隊は再結成され、エミリオ皇子が姿を消した場所より川下にある片田舎かたいなか捜索そうさくに向かわされた。








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