表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/123

命の恩人


 あくる日の夕方、エミリオは自力で体を起こしてみた。ゆっくりやれば、だいぶ痛みはマシになった。普通に歩くことも、もうすぐできるだろう。ただ、昨日、目覚めて少ししてから気づいたが、ほとんど裸でいた。手当ての包帯と、あとは腰にバスタオルを巻いているだけである。


 これは困った・・・と、エミリオは思案した。着替えが無い。このままでは、どこへも行けない・・・。


 とりえず体調を確認しようと、エミリオは片足をそっと床に付けた。


 気配がして、エミリオは反射的に目を向けた。


 間もなく主人が部屋に入ってきた。ひげをはやしていて、髪も気儘きままに遊ばせているような感じだが、顔は三十代半ばくらいに見える紳士的な人だ。 


 昨夜、エミリオはここで、その彼と改めて会った。助けてもらった時、エミリオは何かを記憶できる状態ではなかったから。そして、自分の都合つごうはどうであれ、命の恩人だ。彼がとった行動は称賛しょうさんされるべきもので、彼に対してはきちんと感謝しなければならない、と、それについてはエミリオも心から思うことができていた。


「もう、立ち上がってもいいのかい。」

 様子を見に来たウィルは、親しみのこもった笑顔でそう声をかけた。


「ええ。」と、エミリオはぎこちなく微笑み返した。


 主人は手に大剣を持っていた。エミリオは感動した。もともとの着衣は肩を斬りつけられたこともあり、着られないほどボロボロになってしまっていたのだろうと理解したが、剣が無くなっていなかったのは奇跡だと。それに、剣身に巻かれている布をほどいてみれば、幸い折れもびれもしていない。主人が手入れをしてくれていたようだ。


「しばらくここに居るといい。じゅうぶん回復するまで。もっとも、そのままでは、どこへも行けないだろうが。」と、ウィルは冗談を言った。「君に合う服を用意したから、あとで俺が手伝ってやろう。」


 エミリオの方が背が高く、サイズが違うほど身長差がある。合う服というのは、つまり購入してきたものだろうかと、エミリオは気になった。恐らく・・・きっと、そうだ。そのお金を、家族のために使うこともできるのに・・・。


 エミリオは顔を曇らせ、そして、笑顔を崩さない主人の瞳をのぞきこんだ。発見してもらえた時、彼はどう思っただろうと。


 だが、帝都から離れたここなら、顔は知られていない・・・と、心配になりながらも内心ほっとしていた。夫人にしても、これまで、そんな素振りは全く見られないから。肩を斬りつけられて川に落ちたというさまは明らかに異常だが、顔を知られていないのなら、どう取られても気づかれることはないと、そう思った。


 そのあと主人にうながされて、エミリオは再びベッドに横になった。


「無理はしない方がいい。」


 主人は優しい微笑を残して、やがて部屋を出て行った。


 見透みすかされている・・・密かに去ろうとしていることを。エミリオは思いとどまった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ