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“あること”の話 2

 

 お仕事1日目。今日もまっすぐエルフ姉弟の屋敷へと向かう。


 その途中でいつものように情報収集をしたところ、どうやら屋敷の方に向かって豪華な馬車が朝方に向かっていたらしい。エルフ姉弟は一体何をしようとしているのだろう。少し楽しみである。


 そんなことを考えながら歩き、到着すると姉弟揃って出迎えられた。

 前あったときより心なしかテンションが高い。ようこそ、と言っている間、終始にこにこと笑っていた。


 そのテンションのまま客間に通され、紅茶と茶菓子が出された。


 エルフ姉弟は雑談を交わす間もずっとにこにこ笑っている。


 ……嫌な予感がする。

 こういうときの私の勘は異様に当たるのだ。ただ、回避できたことは一度もない。


 そして音もなくティーカップを置き、

 ラエガノアが口を開いた。


「ティールさん、娘がいたらすることリストを作ったので、これに沿って行動しましょう!」


 ……何だそれは。


 差し出された紙を見せてもらうと、



【することリスト】

 ・お揃いの服を着る

 ・服や装飾品を買う

 ・何か料理をする

 ・勉強を教える

 ・観劇をする



 と書いてあった。なるほど。


「取り敢えずこのくらいですね」


 このリストに沿って行動して、もし娘がいたらどうなるのか、というのをシミュレートしてみるらしい。


「知り合いの貴族に聞いたりして考えたのよぉ」


「何故か皆さんいつもより上機嫌に教えてくれたのです」


「不思議ねぇ?」


 ……おそらくそれは、2人の間に子供ができたと思われているのではないだろうか。

 彼らの周囲の人間は、事実を知ったときにどんな顔をするのだろう。嫌われないと良いのだが。


「では今日はまず、1番上の『お揃いの服を着る』ことから始めましょう」


「隣の部屋に仕立て屋を呼んでいるから、採寸しにいきましょうねぇ」


 ああ、そういえば貴族は仕立て屋を自分の家に呼ぶのだったか。私は基本、服を買い替えることはないので忘れていた。

 カレナリエルと共に部屋をでて、私は外の椅子に座って待っているわねぇ、と言われたので一人で隣の部屋へ向かうと、やたら目を輝かせている20〜30代くらいの女性達が待ち構えていた。

 彼女らは中央で有名な仕立て屋らしい。今回、エルフ姉弟が子供用の服を作るという噂を聞きつけて、なんと仕立て屋側から作らせてくれないかという打診があったそうだ。


「さ、どうぞこちらへ!」


「はぁ……なんとお美しい……」


「夢のようだわ……」


 うっとり恍惚とした顔で部屋の真ん中へ誘導される。

 ……なんだか全員目が据わっていて若干恐ろしい。これから何をされるのだろう。

 仕立て屋の店主でコスムと名乗った30代くらいの女性が、一辺50センチほどの正方形の薄い金属でできた板らしきものを床においた。

 あれはおそらく魔道具である。初めてみたものなので専門的なことに使われるものなのだろう。


「まずは長さからですね」


 こちらの上にお立ちください、と言われ、そっとひんやりした板の上に乗ると、


「まあ、これは……」


 コスムが驚いたような顔をしてカレナリエルを呼びに行ってしまった。

 もしや壊してしまったのだろうか。大変だ。弁償しなければいけなかったらどうしよう。


「あの、もしかして、壊してしまいましたか?」


「い、いえ。壊れてはいないと思いますわ」


 少しどもりながら若い女性の一人が答えてくれた。

 その声に同情のような悲しみのようなものが乗っていた気がしたのは気の所為だろうか。

 不思議がりながらカレナリエルとコスムを待っていると、


「ア……いやティール、大丈夫なの?!」


 バンという音はしないものの、普段は考えられないほど勢いよく扉が開き、カレナリエルが飛び込んできた。


「何がでしょうか?」


「目眩がしたり、手に力が入りにくいとかはない?!」


「特には無いですが」


 一体どうしたというのだろう。突然体調を確認したりして。

 先程出ていったコスムが何か言ったのだろうか。


「あぁ、そうなのね……でも、問題発生よ……どうしようかしら」


 問題が発生したらしい。先程の言葉は気遣いで、やはり壊してしまったのか?

 焦っていると、カレナリエルが思案しながらゆっくりと口を開いた。


「ティール、あのね、貴女は痩せすぎよぉ」


「痩せ、すぎ……?」


 なんだ。そんなことか。壊してなくてよかった。

 安堵する私をよそに、コスムが心配そうに続ける。


「そうです。ティール様、本当に体調は大丈夫なのですね?」


「はい」


 何でも寝たら一晩で治るので、とは流石に言えないので返事は「はい」の一択である。理由は言えないが本当に大丈夫なのだ。


「このままじゃあお洋服の採寸はできないわねぇ。健康になったときに着れなくなってしまうもの」


 健康になる、とはどういうことだ。


「もう今日は帰っていいわぁ。その代わり明日、健康診断をしましょうねぇ」


 良く食べて良く寝るのよぉ、とカレナリエルは念押しして、初出勤の日に早退することとなってしまった。


 ……このお仕事、もしかして私にとっては相当難しいのでは?


 とにかく今日は、いつもより多く食べられるように頑張ってみよう。

 そう考えながら私は帰路についた。


登場人物と設定を目次、小説の下に表示しました。ネタバレを含みますので注意してお読みください。


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