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過去の話 前編

アティル(主人公)の過去のお話です。残酷な描写や精神的に辛い描写があります。読むのが辛い方は、ページ下部にざっくりまとめたものがありますのでそちらをご覧ください。


 わたしが()になったとき、つまり転生してきたとき。


 私には、かあさまと双子の兄、ルティアがいた。父親は私達が生まれた少し後に姿が見えなくなり、その代わりに写真とかあさまの啜り泣く声が夜な夜な聞こえていたので、恐らく死んでしまったのだろうと理解した。


 その頃にはもう、前世と現世の記憶の混濁はなくなっていて、自我がはっきりできていたと思う。正直かなり異常で気味が悪い赤ん坊だったのではないだろうか。


 かあさまは父親が死んだあと、一人で私達双子を育て始めた。やはり生活は苦しかったのか、かあさまはよく夜遅くまで仕事をしていた。


 でも、沢山のことをしてもらった。


「アティル、ルティア、ちゃんとお留守番できて偉いわ。ありがとう」


「ルティア! 危ない! そっちに行っては駄目よ!」


「ちゃんと好き嫌いしないで食べるのよ、アティル」


 私達双子に平等に愛を注いで、褒めたり叱ったりしてくれた。


 そんなかあさまの手を煩わせたくなくて、私は前世の記憶をフル活用して頑張って生きていた。幸いルティア――兄の方は私のような異常な赤子ではなかったので、お手本として勝手に真似をさせてもらっていた。


 今思い返すと、あの頃が1番幸せだったのかもしれない。かあさまもいて、ルティアもいて、遊んだりご飯を食べたり、普通の子どもとして楽しく過ごしていた。


 でももちろん、そんな日々が永遠に続くわけがない。


「かあさま!だいじょうぶ?」

「……ッ、アティル……」


 ごほごほと咳を繰り返すかあさまは、途切れ途切れに街では疫病が流行っていること、かあさまもそれに感染したこと、一緒にいると伝染(うつ)ってしまうであろうことを教えてくれた。


「アティル、かあさま、どうしたの?」


 ルティアが澄んだ瞳でそう尋ねた。


 こんな幼い兄には、本当のことは伝えられない。そんな残酷な事、私にはできない。


 だから、


「かあさまは、しばらくあえなくなるって」

「どうして?」

「そろそろとうさまのところにいかなきゃいけないから」


 と伝えた。

 嘘は言っていない。でも、本当のことも言っていない。


「とうさまのところって、どこ?」

「すごく、とおいところ」

「なんで?」


 そんなの私も聞きたい。だってかあさまはまだ死んじゃいけないのに。


「……っどうしても、なんだって」

「アティル、だいじょうぶ?」

どこかいたいの?


 そう言われて気がついた。

 ぽろぽろと涙が頬を伝う。私は泣いていた。私が泣いてはいけないのに。これじゃあルティアを不安にさせてしまう。


「いたく、ないよ」

「……だいじょうぶだよ」


 ルティアにぎゅっと抱きしめられる。これから唯一になってしまう肉親。まだ未来が、選択肢がたくさんある彼には、枷を残してはいけない。

 これは私の義務だ。前世の記憶を背負って生まれてきた、この()()()の使命だ。


「あのね、きっと、かあさまには、あえるよ。おおきくなったら、あえるから」

「どのくらい?」

「いーっぱい。いつか、そのときがきたら。また、あえるの」


 嘘ではないのだ。これから先、今よりもずっと大きくなって、人生が終わるその時に、きっとまた、かあさまには会える。


 彼が大人になったとき、このことを覚えていても、いなくても。

 兄の未来には後悔を残したくなかった。

 私は、彼も、自分自身も救いたかったのかもしれない。


「きっと、あえる、からっ……!」


 しばらく涙が止まらなかった。なんで私達がこんな、こんなことになってしまったのか。

 兄も私につられて泣き出して、2人で抱き合ってわんわん泣いた。


 かあさまはそれでも起きなかった。


 嫌だ、やっぱり離れたくない。感染したって良い。私は死ぬことなんて怖くない。だって既に1度死んでいるから。ルティアはまだ死んではいけないけれど、私ならもう死んだって構わない。この(せい)はどうせおまけのようなものだもの。だから、お願いだから私を残して死なないでかあさま。かあさまが居ない世界で私はどうやって生きていったら良いの?


 そんな願いも、想いも、かあさまの病気を治すことはなかったし、私にできることなんて何ひとつないと思い知らされた。結局、生まれ直したとしても、それでも私にできることなんてなかった。前世の記憶だって、何一つ役立てられなかった。


 それでもいつかルティアは、兄は、今日のことを忘れるだろう。


 そうしたら、私は義務を果たすことができる。唯一の肉親の、心を守ることがきっとできる。


 それが私の希望になった。




 その後、かあさまは死んで、私達は初め、孤児院に引き取られた。


 後で聞いたところによると、疫病は子供にはかからないものだったらしく、そこには親を失った、いわば仲間がたくさんいた。

 それでも子供というのは強い。親がいなくなったことを理解できている子も、できていない子もみんな、ちゃんと生きていた。遊び、食べ、寝る。当たり前の日常を、しっかりとこなしていた。母のぬくもりも、父の声も聞こえない知らない家の中で。それがどんなに辛いことか、苦しいことか、私には理解っていた。だから私もそうした。


 兄はすぐに孤児院にとけ込んだ。元来しっかりした性格で、よく私を守ろうとしてくれていたので自分より小さい子どもの扱いが上手かったのだ。

 私も兄の真似をして、徐々に孤児院にとけ込んでいった。慣れるために努力した。


 そんな日々を繰り返し、しばらくたつと、数人の偉そうな大人がやってきた。「まほうかんてい」をするらしい。


 魔法の鑑定?

 そこで私は初めてこの世界に魔法があることを知った。


 孤児院でいつもみんなを見守って、育ててくれている女性のユリアさんが


「みんなー、ここに1列に並んでー」


 と声をかけ、2歳ぐらいの子供、つまり私達のような子供を1人ずつ順番に、まるで前世にあった試着室のような、前後の面が抜けている直方体の箱の中に入れていった。

 偉そうな大人たちは、その箱の前に立ち、箱の側面を見ながら手に持った紙に何やらものを書いていた。

 そのうち順番が来て、兄が私の前で箱の中に入った。


「……おお、これは……」

「べ……そうな……」


 なにかぼそぼそと大人たちが呟いていたのを覚えている。あれは何だったのだろうか。


 次に私もその箱に入り、ぴかっと床が光った。後で知ったが、これはどういう仕組みなのだろうかなどと思っていたそのとき、私の体は変化していたらしい。


 その後、鑑定に参加した全員に1枚の紙が配られた。鑑定の結果が書かれているらしい。まだ異世界の文字は読むことができなかったが、はっきりと読める1行があった。


 それは明らかに、()()()の知っている日本語そのものだった。


 なぜ日本語が書いてあるのか疑問に思ったが、とにかく読んでみるとそこには、『美しい瞳に声。私達はあなたを守る。そして、その力はあなたが望むままに。』と、謎めいた言葉が書いてあった。他の人の言葉も気になって、ルティアの紙も見せてもらうと、『あなたの目は私の目。あなたの耳は私の耳。あなたの思いは私の思い。その力は存在を創り出す。』と書いてあった。


 まるで詩のようなその言葉たちが、個人個人の魔法に関連している、ということを大人たちの会話を盗み聞いて理解し、私は安堵した。ルティアはきっと、強い魔法を持っているだろう。そのうち私達は引き取られる。

 どうかルティアが大切にされますように。


 私は強くそう願った。


アティルには双子の兄のルティアがおり、幼い頃に両親を亡くし、取り敢えず孤児院に引き取られ、「魔法鑑定」なるものが行われたというお話でした。


後々設定をまとめたものを投稿する予定ですので、こんな説明じゃあ良くわからないよ、という方はそちらをお読みください。

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