4話 マッチポンプの準備
ついに(まだ4話だけど)新キャラ登場回となります!
名付けのセンスが欲しい今日この頃……
第一王女の馬車を見つけたので、マッチポンプを行うことにした。
「よし、マキナ!馬車の映像と周辺の状況をモニタに映して!」
「承知しました」
部屋にあるモニタに馬車の映像と詳細な情報が記されたマップが表示された。
「あれ?普通の馬車じゃん!」
映し出されたのは今まで見てきた魔導馬車ではなく、装飾が豪華な普通の馬車だった
「理由は不明ですが、防御力も低そうですので、襲わせるのに好都合です」
「よし!それで魔物はどこにいるの?」
「マップの赤点が魔物です」
森の中に大きな赤点を見つける
「なるほどー、ここにいるんだね」
「はい、後10分頃に馬車が近くを接近すると予測されます」
「オッケー!……にしても、森の中なのに魔物少なくない?」
マップを見回しても一つの大きな赤点以外に魔物の表示が無い。
「この魔物は広範囲を縄張りとしてますので、他の魔物は近づかないか、縄張りに入った瞬間に狩られてしまうのでしょう」
「……えっ?そんなに強い魔物なの?」
「強いと言っても私達の敵ではありません。ただ、魔法文明の方々には強敵でしょうね」
マキナさんかっけー!
私達の手に負える魔物でよかった。
「じゃあ、魔物を誘導しようか」
「わかりました、タイミングはこちらで指示します」
「うん、よろしく!さてとっ」
そう言って私は剣を出そうとして……
「待って下さいエクシア。剣を出すのは外に出てからにしてください、お願いします」
「わ、わかってるよ」
この前性能テストで戦闘能力を確認して、一通りこの体で出来ることは覚えたので、戦闘に関しては問題無いだろう。
だが、初戦闘だし気を引き締めていこう。
ーーー第一王女視点ーーー
「姫様、もう少ししたら“壊腕のグリード”の縄張りに接近しますので、極力お声は出さないようにお願いします。」
「……わかったわ、ナイア」
馬車内では姫様と呼ばれた第一王女ソフィが、外を馬で駆けている女騎士の言葉に頷きつつ、顔を強張らせる。
「それにしても、今回に限って魔道馬車が使用できなかったのは、ついていませんでしたね……」
「ああ、姫様の移動だというのに何を考えているのだ」
「……」
ソフィには心当たりがあった。
馬車が一世代前のものであるのも、護衛が最低限であるのも……
ソフィは王族ましてや貴族の中でも珍しく、庶民のための改革を進んで行う人物であった。
その考え方に賛同するものは多かったが、反発するものも多かったため、疎ましく思っているものの手によるものだろう。
実は先刻も盗賊に襲われたが、騎士の中でも上位の実力を持つナイアと、魔法学校1年の主席であるソフィにかかれば敵ではなかった。
だが、壊腕は別だ。
かつて王国は彼の者の縄張りに騎士団を派遣した。当時でも精鋭と名高い戦士たちであったが、腕の一振りで部隊は一瞬で壊滅した。
そこから畏怖の念を込めて“壊腕グリード”と呼ばれるようになった。
「……っ」
「大丈夫ですよ。“壊腕”は余程のことが無い限り縄張りを離れません」
「そっ、そうだったわねメイナ」
「はい、“誰かが意図的に無視できない程の攻撃を加えなければ”あり得ませんよ」
専属メイドにそう言われ幾分かの余裕を取り戻したソフィだったが……
「ぐるあぁぁっっ!」
どがぁんっっ!!!!
突然何かの咆哮と爆発したような音が響く
「なっ何!ナイア!何が起きたの!?」
「分かりません!しかしこの方向は壊腕の縄張りの方向からです!急いで遠くに離脱します!」
そう言って進路を変えようとする一同であったが……
どごぉっっ!!
轟音と共に周りの木々よりも二回りほど大きな熊のような魔物が目の前に“飛ばされて”くる。
「……壊腕っ!!」
飛ばされて来た熊型の魔物は、全身に古傷を刻み歴戦の風貌を漂わせていた。中でも両腕は歪に変質しており、爪は黒い魔力を纏っている。
「あっあれが……!」
「姫様危険です!顔を出さないでください!」
「グゥッ……」
よろけながら立ち上がったそれは、馬車の方を睨む
「くっ、メイナッ!姫様を連れて逃げなさい!私が時間を稼ぎます!」
「ナイア!無理よそんな化物、敵いっこない!皆で逃げましょう!」
「大丈夫です姫様、後で追い付きます……」
決死の覚悟を決めた騎士は恐らく最後になるであろう戦いに向け剣を引き抜く。
「私が相手だ……“壊腕”!!」
「やめて!離してメイナ!ナイアが!ナイアが死んじゃう!」
「ダメです姫様!ナイアの覚悟を無駄にしてはいけません!」
各々が叫ぶ中、無情にも黒い魔力を纏った爪が振り下ろされる。
「ダメやめて!ナイア!」
死が迫る、目を閉じる……
そんなときに声が響く
『Dー1Artsシルド』
ガギィッ
「グルゥ!?」
黒い爪が不可視の壁に防がれる。
「アハッ!ナイスだよマキナ!」
いつまで経ってもと届かない狂爪に戸惑いながらも、
目を開くと、赤い魔力の翼を携え、金色の髪をなびかせた女が目の前に飛んでいた。
「さて……くーまちゃん♪どこにいくのかなー?」
『自分で殴り飛ばしたではないですか……』
先刻まで、絶望していたソフィだったが、突然現れた第三勢力に思考が追い付くことはなかった。
ーーーエクシア視点ーーー
ソフィ達との邂逅から数分前
私は魔物を誘き寄せるために、森に入って行った。
因みにマキナは遠隔からサポートするとか言って施設内で待機している。
えっ?どうやって森まで来たか?
それはもうマキナさんの瞬間移動能力でちょちょいとね。
前世でも欲しかったよ、それ……
『エクシア、例の魔物はそのまま進んだところの開けた場所で寝ています』
マキナから通信が入る。
「マキナぁ、なんで私一人なのー?マキナも一緒について来てよぉ……」
『先程も言いましたが、第一王女の同行も監視しなくてはいけませんので、こちらに残る必要があります』
「でも私、魔物なんかと戦ったことないよぉ」
『何を今更弱気になっているのですか……計画の段階ではあれほど乗り気だったではないですか』
「うぅ……」
あの時は行けると思ったんだもん。
弱音を吐きながら、昼なのに薄暗い森を歩いて行く。
『私が代わりましょうか?』
「……私がやる」
本当に怖いけど、マキナに戦わせるくらいなら私が行くよ
『わかりました。もうすぐ目的地ですので……戦闘の準備を……』
「うん」
マキナが若干言葉を詰まらせながら伝えてくる。多分私の“アレ”のことを言ってるんだろう。
「ふぅ……」
呼吸を整え剣を異次元空間から取り出す。
装飾なんてない機能性重視の剣だ。
戦闘体制に入ると同時に心に仮面を被る。
前世でも恐怖と不安に押し潰されそうになったときに取っていた方法だ。
「アハッ」
『……』
心は好戦的になり、恐怖と不安が薄れていく。
『“それ”は本当に必要なことなんですよね?』
「あったりまえじゃーん!現代人が素面で魔物と戦えるわけないからー!アハハハハッ」
『何度調べても異常がなさそうなのが不思議です』
「代償ならちゃんとあるよぉ」
『っ!!何ですかそれは!そんな事聞いてません、今すぐやめてください!』
珍しくマキナが感情的になる。
「大丈夫大丈夫!大したことないやつだからー」
『何を呑気なことを言っているのです!あなたがまた起動しなくなったら、私は……また一人に……』
「ゴメンゴメン!代償ってのは本当に大したことなくって」
聞いたことのないマキナの弱音につい、素の自分が出てしまう。
あまり言いたくなかったが、マキナを悲しませる訳にはいかないので、言うことにした。
「実は、あの状態の時でも私の記憶は残る訳でして」
『はい』
「後から思い出して恥ずかしくなるというか……」
『…………』
「それが代償です」
『…………』
なんか言ってよ!顔が見えないから無言が一番怖いって!
『……時間もありませんので早く戦闘準備をしてください』
「……怒ってる?」
『早く』
「ハイ」
もう一度心に仮面を被る。
戦いに対する恐怖はもうない。
だけどなぜかマキナに対する感情は防げそうにない。
いや、防ぐつもりはないと心のどこかで感じているのだろう。
怒られて嬉しくなったのも久しぶりだと、思わず口元が緩んだ。
4話まで、読んでくださりありがとうございます!
書き溜めしてないので、投稿遅くなりますが、頭の片隅にでもこの作品を置いて頂けると幸いです。
他の作品を書き溜め挑戦して、どんなものか確かめてみようと考えてます。