目先の問題
「あれで終わるわけがない」
というのが、ジェラルドの行動に対する全員の一致した見解であった。
アルシアは温泉を推してきたが、迂闊に挑発的な行動を取らない方が無難という判断から、外出は取りやめとなった。晩餐までの時間、連棟住宅に残り、一室に揃って顔を突き合わせて過ごすことになる。アルシアは席を外しており、女性はジュディひとりだ。
自然な流れとして、ジュディが皆と別行動をして別室にいるのは危険過ぎるが、ステファンが護衛としてついてふたりで部屋にこもっているのも問題があるだろうという話になったため、応接室を借りた。
これに対し、ジュディも異論はない。
(いっそ私が男性だったら、いろいろと面倒がなかったのでは)
考えても仕方のないことが浮かんだ。
男性陣が小突き合い、軽口を叩き合っているのを見ると、自分は邪魔でしかないような気がしてくる。もちろん、そのように扱われているわけではないので、勝手にそう感じているだけだ。
その居心地の悪さを察しているのか、窓際に立つステファンがぶつぶつと言った。
「閣下がいれば良かったんです。実家みたいなものなんだから、本人が来るのが筋ですよ」
すぐさま、ドアのそばに立っていたラインハルトが同意をした。
「そうだな。アルシア様は閣下のご母堂なんだから、奥方を紹介するのは閣下の役目だ。結婚前の挨拶に、嫁だけひとりで行かせるだなんて、いくら仕事が忙しいとはいえ、ありえない」
カウチソファにゆったりと座っているフィリップスが、小さく笑って口を挟む。
「自分の母親であるアルシア様を、全面的に信頼しているんだろう。見ていればわかる。だが、それを初対面の嫁に押し付けるべきではない。アルシア様と先生はいまのところまだ、他人だ」
ジェラルドの出現によりストレスを感じた面々の矛先が、ガウェインに向かっていた。
(ガウェイン様をかばいたいけれど、こればかりは私にもかばいきれる気がしません……)
だいたい全員、間違えたことを言っていない。
しかもそれは、普段は他人の心の機微にも敏いガウェインが、なぜか鈍感で気付いていない部分を正確に言い当てているだけに、ジュディも同意せざるを得ないのだ。
アルシアに対し、全幅の信頼を置きすぎている、と。
幸いにも、いまのところウマが合わないといった問題は起きておらず、衝突はしていないが、いつ状況が変わるかわかったものではない。
なにせ、彼らの指摘するようにジュディとアルシアは、今日が初対面の他人なのだから。
そこにジェラルドまで来てしまったことで、緊張感が一気に高まってしまっている。
責任感の強いステファンが、陰鬱な顔で呟いた。
「実際のところ、閣下がいれば何も問題ないんですよ。今はこうして時間を過ごせるとして、先生に夜誰がどんな形でついているのか、真剣に検討しなければいけません」
ジェラルドを門前払いできなかったゆえの問題が、大きくたちはだかっていた。




