彼女、警備する
時刻は十九時。
酒代とタバコ代が最近厳しくなってきたため、仕方なく日雇いの警備のバイトを始め、近所の私立高校の警備員をすることになった。
仕事内容は警備員室での監視カメラの見張りと見回りだ。
燐華さんは新人であるため、先輩社員と二人で勤務していた。
「おー、あんたみたいなねーちゃんがなんで警備のバイトなんて応募したんだ?」
警備会社の先輩に聞かれる。
「いやー高給だったんで......。それに......」
「それに......?」
「酒も飲めそうですし!」
燐華さんはポケットからパック酒を取り出し、飲み始めた。
「バ、バカ野郎! なに仕事中に酒飲んでいるんだ!」
先輩が燐華から酒を奪い取る。
「えーいいじゃないですか......。人いないんですし......」
「......確かに」
社員は既に帰っていて自分たち以外は誰もいない。
どうせ人なんて来ないだろうから、何をしても問題ないんじゃないかと二人は思った。
「じゃ、ちょっくら宴会でもしましょうよ。パック酒でよければもう一個ありますし、つまみも用意してますよ」
燐華さんはつまみを取り出し、食べ始める。
「先輩もいかがですか」
先輩にパック酒とつまみを渡そうとする。
「お、ありがとな」
先輩は酒とつまみを受け取り、酒を飲み始めた。
燐華は先輩から酒を返してもらい、飲んだ。
日付が変わり、時刻は二時を過ぎた。
「......よし、開いたぞ」
校舎の裏口の扉が開く。
その扉から、一人の少年が学校に侵入した。
この少年は成績不振で、今回のテストで確実に高得点を取る必要があった。
そんな時、用務員が落とした鍵を拾い、深夜の学校に忍び込み、テストの問題を盗み出すことにしたのだ。
足音を立てないようにコッソリと職員室へ向かっていく。
そろりそろりと歩いて向かっていたが、突如足を止める。
コツコツと足音が聞こえてきた。
少年が息を潜め、柱の影に隠れる。
チラっと覗いてみると、警備員の男が懐中電灯で道を照らしながら歩いていた。
しばらく経つと足音が遠ざかったため、隠れるのをやめた。
再び職員室へ向かおうとしたその時。
「おわっ!」
少年は何かに躓き、転んでしまう。
「いってぇ......! なんなんだよ......!」
立ち上がって振り返り、足元を見ると、警備員の服装の女性が倒れていた。
「おわあああ!!!」
驚いた少年は大声で叫び、尻もちをついてしまう。
「んぅ......。うるさいなぁ......」
女性が目をこすりながら起き上がる。
倒れていた女性は、燐華だった。
「なんだなんだ!」
先程の警備員が全速力で駆けつけてきた。
「おい! 何やってるんだ!」
警備員の男、燐華の先輩が二人に聞く。
「いやぁートイレでお酒飲んじゃったら気分良くなっちゃってー。そのまま寝てましたぁ......」
「......そんで、そっちのお前は?」
「お、俺は......」
「......時期的に、テストを盗みに....とかか?」
「うっ......!」
「図星......か。......馬鹿野郎! 何考えてんだ!」
突如先輩が大声で叱理始める。
「ズルばっかして努力せずにいたら、こいつみたいになるぞ!」
先輩は燐華を指差す。
「いいのか! こいつは仕事中に酒を飲むようなろくでなしだ! どうせ普段からクソみたいな生活をしているに決まってる! こいつみたいな人に後ろ指差される人間になってもいいのか!」
「え、先輩も一緒に飲んで......」
「う、うるさい! とにかく、今日のことは黙っててあげるから、帰って勉強しなさい!」
「で、でもよ......。今から勉強しても......。それに、家じゃどうしても集中できなくて......」
「じゃあ、私達と勉強してく?」
床にあぐらを書きながら酒を飲んでいる燐華さんが言う。
「どうせ明日土曜日だし、問題ないでしょ? いつもと違う環境で人に教えてもらえれば、特別感あって記憶に残りやすいかもよ? ね、いいですよね?」
先輩に聞く燐華。
「......ま、まぁこいつがいいって言うなら......。どうだ、ボウズ」
「......じゃ、じゃあ......」
少年は一緒に勉強することを受け入れ、勤務終了時間まで勉強した。
少年を家に返した後、燐華さんは警備員室で酒を飲んでいた。
「いやー、仕事終わりに飲むお酒は格別ですねー」
「お前ずっと飲んでただろ......。まぁいいや。それより、これが今日の給料だ。受け取れ」
先輩が机の上に封筒を置く。
「いやーありがとうございますー」
燐華は封筒を手に取り、中身を確認する。
「......ちなみに、何に使うんだ?」
「酒とタバコです!」
「......やっぱりろくでもないやつだな......」
「それじゃ、お疲れ様です!」
燐華はどの酒やタバコを買うかを考えながら、笑顔で警備員室を後にした。