彼女、慕われる
次の日、大学の廊下で夏鈴さんとすれ違った。
すれ違う瞬間、鬼のような形相でこちらを睨んできた。
また何か言われるのではないかと緊張していたが、特に絡まれることはなかった。
距離が離れた後、俺と燐華さんから大きなため息が出た。
「昨日の燐華さんの対応が相当効いたみたいですね......」
「そうだね......」
「しばらく平和な日が続けばいいですけど......」
俺たちはそんな話をしながら講義室に入っていった。
空いている席に適当に座り、受講の準備をする。
夏鈴さんとすれ違っただけで精神がすり減り、俺と燐華さんは若干ぐったりとしていた。
そんな俺たちの目の前に、突然女子生徒二人がやってきた。
片方は茶髪の女子生徒。
もう片方は金髪の女子生徒だ。
「あ、あの! 燐華さん! き、昨日のやり取り見てました!」
茶髪の女子生徒が突然そう言った。
「この子、昨日のやり取りを見て、燐華さんのかっこいい部分に惚れちゃったみたいで、お友達になりたいらしくて......」
金髪の女子生徒が言う。
「ちょ、ちょっと!」
恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にする。
「そ、それで......。お、お友達に......」
「いいよ。友達になろう」
燐華さんはすぐに返事をした。
「本当ですか!?」
燐華さんがそう返事をすると、よほど嬉しかったのか、テーブルに手を付き、前のめりになる。
「よろしくお願いします!」
「うん。よろしくね」
「あのー。実は私もお友達になりたいなー......。なんて」
金髪の女子生徒は頬を指でかきながら言う。
「うん。これからよろしくね」
燐華さんは優しく言う。
金髪の女子生徒も嬉しかったのか、口元が緩んだ。
「燐華さんモテモテじゃないですか」
俺が少しからかうように言う。
「モテモテ......。なのかな?」
「そ、そういえばそちらは彼氏さんですか......?」
茶髪の女子生徒が俺のことを見ながら、燐華さんに聞く。
「うん。志永くんって言うんだ。仲良くしてあげて」
「よろしくお願いします!」
「よろしくー」
「はは、こちらこそ......」
俺は二人の挨拶に少し恥ずかしがりながら返事をした。
そんな俺を見て、ちょっとだけ燐華さんの頬が膨れ、嫉妬していたような気がした。
その後、二人の自己紹介を聞いていると、講義室に教授が入ってきた。
女子生徒たちは自分の席に戻り、俺は受講の準備を再開しようとした。
すると、燐華さんが俺の服をつまみ、軽く引っ張る。
「志永くん。浮気はダメだからね......」
さっき俺が照れているのが気になっていたのか、耳打ちしてきた。
「し、しませんよ......」
「ま、冗談だけど......」
冗談なら先ほど頬を膨らませていたのは何だったのか、と思ったが、心にとどめておくことにした。
そんな二人の様子を、夏鈴は講義室の外から覗きつつ、会話を聞いていた。
自分がいじめてやろうと思った結果、燐華には友達が増えた。
その事実が受け入れがたく、そして、憎かった。
夏鈴はトートバックに手を突っ込み、カッターナイフの刃を出す。
私はいつでも殺せる。
そう思い込むことで、精神を安定させる。
そして、夏鈴は落ち着きを取り戻し、去っていった。




