彼女、絶望する
俺は燐華さんを連れて自宅へ戻ってきた。
とりあえず燐華さんをソファに座らせ、俺も隣に座る。
「まさか......。夏鈴ちゃんの記憶が戻っちゃうなんて......」
頭を押さえ、受け入れられない現実に絶望している。
「うぅ......。袋ちょうだい......」
燐華さんが苦しそうに口を押えながら袋を求める。
「は、はい!」
俺は咄嗟に台所からビニール袋を取りに行った。
ビニール袋をすぐに燐華さんに渡すと、抑えていた口をどかす。
「うぉぇ......。えっ......」
燐華さんは袋に顔を近づけると、思いきり吐いた。
そんな燐華さんの背中をさする。
燐華さんの表情は、夏鈴さんと遭遇し、吐いてしまった時と同じ様だった。
苦しくて、辛くて、限界を迎えた時の顔。
しばらく吐き続けると、燐華さんは落ち着いた。
「大丈夫ですか......?」
「吐き気は大丈夫だけど......だけど......」
燐華さんの声が涙声へと変わっていく。
「今まで頑張って......ヒグッ......。仲良くなろうって決めて......頑張ったのに......」
過去にいじめてきた相手とやり直すという勇気ある決断をし、それを成し遂げたのだ。
「こんなのってないよ......!」
燐華さんはついに泣き出してしまった。
それなのに、現実は残酷だ。
頑張りが、努力が、全てが無意味になってしまった。
「ねぇ志永くん......。私、どうしよう......」
そんな燐華さんにできることは、一つしかなかった。
「燐華さん......。俺が守ります」
昔は守ってくれる人はいなかったかもしれない。
しかし、燐華さんは今は一人ではない。
「俺が卒業まで、燐華さんのことを守ります! 絶対に!」
「で、でも......」
「でもじゃないです! 俺は絶対に守ります! 燐華さんが迷惑かもしれないと言おうと! 俺の好きでやらせてもらいます!」
燐華さんの否定を遮るように、俺は強く宣言した。
「だから、任せてくださいよ」
次の瞬間、燐華さんが抱き着いた。
「ごめんね......! こんな迷惑ばかりな彼女でごめんね......!」
子どものように大声で泣く燐華さん。
そんな燐華さんを俺は優しく抱きしめた。
しばらくすると、燐華さんは落ち着きを取り戻した。
「とりあえず大学にいる時は俺がずっと一緒にいます。もし休日も不安があったら俺が付いていきますし、無理でも美湖さんに頼みます」
「でも、美湖ちゃんにもこれ以上迷惑は......」
「そこは俺が土下座でもなんでもしてお願いします。だから、安心してください。燐華さんは、とにかく守ってもらえるから大丈夫ということだけを考えてください」
絶対に守る。
何としてでも。




