彼女、助けた女性と飲む
「志長くーん疲れたー。おぶってー」
「もう少しで家なので我慢してくださいよ……」
飲酒運転した男性を通報した後、酔った燐華さんが野良猫を追いかけ回して夜遅くに帰ることになってしまった。
そのせいでこんなにも疲れているのだ。
「あー疲れでイライラするー……!」
燐華さんは、ポケットからタバコを取り出して火をつけた。
「やっ、やめてよ!」
突然女性の声が聞こえてきた。
「むっ、事件の予感……」
燐華さんは、スタスタと歩き出す。
「ちょ、ちょっと……!」
早歩きをし始めた燐華さんを俺は追いかける。
燐華さんを追いかけると、目の前には男女がいた。
「お前俺の言うことを聞けよ……!」
「嫌よ……!」
事情はわからないが、揉め事になっている。
「クソが……!」
男性が拳を振り上げる。
「あっ、危ない!」
俺は、男性を止めようとした。
だが、間に合いそうにない。
「えっ……!」
なんと、燐華さんが身を挺して間に入り込んだ。
男性は驚き、拳を止める。
「な、なんだお前は!」
燐華さんは、無言で睨む。
そして、口の中のタバコの煙を吹きかけた。
「うわくせっ!」
男性は怯む。
「そうだ……! 今のうちに逃げましょう!」
「は、はいっ!」
「燐華さんも早くっ!」
燐華さんは、痛みで額を抑えている男性に唾を吐きかけて逃げる。
「あああっ! 臭すぎて死ぬぅ!」
男性が悶えている隙に、俺たちは逃げ出した。
「あ、ありがとうございます……。彼氏がお金を貸せってしつこくて……」
「いいっていいって。さ、飲みな」
リビングで燐華さんと助けた女性が一緒に酒を飲んでいる。
夜遅いので、一旦俺の家に泊まってもらうことになったのだ。
「お酒美味しいですね……」
「でしょー? 私のお気に入りー」
キッチンでお酒のつまみを用意しながら二人の会話を聞いていた。
タバコと酒の臭いを撒き散らす燐華さんのことを嫌がっていないようなので安心した。
「できましたよ」
俺は、レンジで温めたゲソ揚げと枝豆をテーブルの上に置いた。
「あ、ありがとうございます……。いいんですか? ご馳走になってしまって……」
「いーのいーの。自分の家だと思ってくつろいで!」
「勝手に住んでるのに何勝手に言ってるんですか……。あ、自由にくつろぐのは全然気にしないので!」
「本当にありがとうございます……! あ、そうだ……。私、森塚美湖っていいます」
「よろしくねー美湖ちゃん。じゃ、明日はお休みだしぶっ倒れるまで飲もっかー!」
「えっ、ぶっ倒れるまで……?」
美湖さんは困惑しながらも、燐華と酒を飲み続けた。
数時間後、二人は酔っていた。
美湖さんは、ぼーっとしながら天井を見つめており、燐華さんは、相変わらず酒を飲んでいる。
「そーだ。この様子あいつに送りつけてやろーっと!」
携帯をテーブルの上に置き、撮影を開始する燐華さん。
「うぇーい見てるー? 君の女の子こんなになっちゃったよー」
美湖さんの肩に手を置き、抱き寄せる。
「美湖ちゃん、ピースピース」
「あはぁー……」
言われるがままピースをする美湖さん。
撮影を止めると、床に寝転んだ。
そして、美湖さんは燐華さんのお腹の上に倒れ、寝てしまった。
「起きたら美湖ちゃんに頼んで送りつけてやろーふふふ……」
幸せそうな顔をしながら二人は寝てしまった。
俺は、そんな二人に布団をかけた。
「す、すみません……! リビングで寝てしまって……!」
美湖さんは、頭を下げる。
「謝らなくていいですよ」
それでも頭を下げる美湖さん。
「あ、あと泊めて下さってありがとうございます……」
「いいんですよ。それより、こちらこそ燐華さんの相手をしてくださってありがとうございます。俺、お酒ダメで……」
寝てる燐華さんを二人で見る。
「……いい彼女さんですね」
「えっ?」
「勇敢で私を助けてくれて……」
付き合って一ヶ月間、燐華さんにはただのやばい人だと思っていた。
しかし、昨日は殴られるのを恐れずに美湖さんを助けた。
もしかしたら、本当はいい人なのかもしれない。
「うぅーん……。あ、二人ともおは……おぇぇぇ」
燐華さんは、起きてすぐ床に嘔吐物をぶちまけた。
「わっ! ビ、ビニール袋とゴム手袋!」
「わ、私も手伝います!」
二人で、燐華さんが吐いた嘔吐物を片付け始める。
「あ、美湖ちゃん。彼氏の連絡先教えてー。寝取り動画送りつけるから」
「えっ、寝取り動画ってなんですか!?」
嘔吐物を片付けながら困惑する美湖さん。
その後、適当に誤魔化して連絡先を教えてもらった燐華さんは、美湖さんの彼氏に動画を送りつけた。