彼女、料理を振るまわれる
「燐華ちゃん。包丁とかどこ?」
「あ、あそこ......」
燐華さんはコンロの下の引き出しを指差す。
「オッケー」
夏鈴さんは燐華さんが指差した引き出しからまな板や包丁、フライパンを取り出していく。
そして、袋から材料を取り出し、切り始めた。
手際よく野菜を切り、次々にフライパンに入れていく。
「手際いいな......」
俺は無意識にボソっと呟いた。
「ね.......」
燐華さんもそれに賛同する。
調理は順調に進んでいき、野菜を炒め始める。
味付けをしたあたりから部屋にいい匂いが充満していき、食欲をそそられる。
そんな時、インターホンが鳴った。
「あ、もしかして......」
俺は立ち上がり、ドアを開ける。
通路には、美湖さんが立っていた。
「本日も燐華さんのお体を洗いに来ました」
「今日もありがとうございます。今別の来客が来てるんですが、気にせず上がっちゃってください」
「来客ですか?」
美湖さんが靴を脱ぎ、部屋に上がる。
「わぁ、いい匂いですねぇ」
「ん? 燐華ちゃん。この人は?」
料理中の夏鈴さんが美湖さんの方を振り向く。
「あ、私は森塚美湖っていいます。燐華さんの知り合いで、怪我した燐華さんの体を洗うために通ってるんです」
「へー。私は燐華ちゃんと同じ大学の菜月夏鈴って言います。よろしくお願いします」
夏鈴さんは炒めつつ、手を振った。
美湖さんはお辞儀をし、カーペットの上に正座した。
「......あれ? そういえば燐華さん。今日はなんかおとなしいような......」
「えっ!?」
俺はビクッと体が震えた。
燐華さんも同じような反応をしていた。
そういえば、美湖さんは学校での燐華さんを知らないのだった。
「そうですか? 大学ではいつもクールで綺麗って感じですけど......。あ、もしかして!」
俺はマズイと思った。
今にも冷や汗が溢れ出そうだった。
「学校では恥ずかしがってクールな感じ出してる? ははは、燐華ちゃんも可愛いところあるじゃん!」
夏鈴さんは笑う。
俺と燐華さんは一安心した。
それから、美湖さんは察したのか追求することはなかった。
「そんなことより、完成したよ! ご飯とみそ汁はレトルトで勘弁してね」
夏鈴さんは野菜炒めをテーブルに置いた。
そして、ご飯とみそ汁もテーブルに並べていく。
「美湖さんもどうですか? ご飯とみそ汁はないですけど......」
夏鈴さんが美湖さんに聞く。
「え? いいんですか?」
「美味しいかはわかりませんですけどね......」
「じゃあ、お言葉に甘えて......」
「じゃあお箸用意しますね。 燐華ちゃん! お箸ってどこ?」
「食器棚の引き出しだよ......」
夏鈴さんは食器棚の引き出しを開け、箸を取り出す。
そして、テーブルの上に並べていった。
全員分の皿を並べ終わったところで、夏鈴さんはソファに座った。
「じゃ、さっきも言った通り美味しいかはわからないけど......。食べてください!」
俺と燐華さん、美湖さんはいただきますを言い、野菜炒めを口に運んだ。
野菜炒めはシンプルながらも、味付けがちょうどよく美味しかった。
「燐華ちゃんどう?」
「......美味しいよ」
「本当!? いやー作ってよかったよー」
夏鈴さんが少し恥ずかしそうに喜んだ。
そして、俺たちは他愛もない話をしながら夕食を食べた。
食事のお礼として、洗い物は俺が担当することにした。
スポンジに洗剤を染み込ませ、皿を洗っていく。
「そうだ! 美湖さん。今日来てもらったのに申し訳ないんですが、今日は私が一緒に燐華ちゃんとお風呂に入ってもいいですか?」
「え? 私はいいですけど......」
「どう? 燐華ちゃん?」
「......いいよ」
少し間があったが、燐華さんはいいと答えた。
正直心配だが、止めることはできなかった。
「よーし、じゃあ入ろうか!」
夏鈴さんが立ち上がると、燐華さんに手を伸ばす。
燐華さんはその手を掴み、立ち上がる。
そして、二人は脱衣所へ入っていった。
それから数分後に皿洗いが終わり、俺はソファに座った。
「志永さん......。私、前に燐華さんに苦手な方がいると聞いたのですが、もしかして......」
美湖さんが小声で俺に質問する。
「そうですよ」
同じく俺も小声で返事をした。
「やっぱり......。燐華さんの様子がおかしかったので......。二人でお風呂入っちゃいましたけど、大丈夫ですかね......?」
「やっぱり心配ですよね......」
俺と美湖さんはただ無事を祈ることしかできなかった。




