彼女、調子が良い
食堂に着くと、夏鈴さんが駆け足で席を取りに行った。
俺と燐華さんは席に歩いて向かう。
「それじゃ燐華ちゃん座って。注文とかは私がしてくるから。何食べたい?」
そう言いながら、燐華さんがすぐに座れるように椅子を引く夏鈴さん。
「ありがとう。今日はサンドイッチにしようかな?」
座りながらお礼と注文を言う燐華さん。
「彼氏さんの方はどうします?」
「え? 俺は自分で……」
「えー? 怪我してる燐華ちゃんを置いてくんですか? 私が二人の分を持ってくるんで、一緒にいてあげてください!」
「じゃあお願いします……。あ、俺はカレーでお願いします……」
「オッケー任せて」
夏鈴さんがグイグイくるので、俺は乗せられてしまった。
夏鈴さんは自分の荷物を椅子に置くと、注文しに行った。
俺は燐華さんの隣に座る。
「……燐華さん。なんか前より調子良くないですか?」
そして、燐華さんに小声で話しかけた。
「確かに……。何でだろう……?」
前は一緒に食事をするだけで精神的に辛そうだった燐華さんだが、本日は幾分かマシそうだ。
俺の予想だが、今の夏鈴さんは燐華さんのことを心配しており、気を遣っている。
そのおかげで昔のトラウマを思い出しにくくなり、精神的負担が少なくなっているのではないかと考えた。
しかし、それを燐華さんには言わないでおくことにした。
言ってしまったら、きっと昔のことを思い出してしまうはずだ。
「あ、そうだ。最近タバコ吸ってないですけど、体調の方は大丈夫ですか?」
「吸ってないというか吸わせてもらえないんだけど……!」
「あ、そういえば返してませんでしたね……」
「忘れてたの……!? 酷いや……」
燐華さんはちょっと怒った顔で俺のことを睨む。
しかし、そんな燐華さんが少し子どもらしくて笑ってしまった。
「あー、人の顔見て笑ってぇ……。ふん……!」
燐華さんは拗ねてしまあ、そっぽを向いてしまった。
「あ、すみません……」
「申し訳ないと思うなら、今度お酒とタバコ奢ってね……!」
「わかりましたよ」
俺と燐華さんで小声で話していると、料理が乗ったトレーを持って戻ってきた。
「なになにー? 何の話してたの?」
「いや、特に何も……」
「えー? 二人きりの秘密?」
夏鈴さんがニヤニヤしながらトレーをテーブルに置き、椅子に座る。
「まあカップルになったら人には言えない秘密とかあるよねー。エッチなこととか……」
「か、夏鈴ちゃん……!」
「冗談だってー」
燐華さんは顔を赤らめ、夏鈴さんを怒る。
そんな燐華さんに怒られても笑っている夏鈴さん。
こうして見ていると、本当に二人はいじめ被害者と加害者の関係だったのかと疑ってしまう。
そのくらい二人が仲良く見えるのだ。
このまま仲良くなっていき、燐華さんのトラウマが払拭されることを願うのだった。




