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【完結済】俺の彼女が人として終わっているんだが  作者: Melon
2章 俺の彼女は壊れかけ
18/47

彼女、試練に挑む

 三週間後の大学にて。

 本日は俺は午前しか講義が無く、午後は空きコマだった。

 燐華さんはあと少しだけ講義が残っていた。


 レポート課題の提出日が近づき、生徒たちはみんな焦っている。

 俺もその一人だ。

 そして、燐華さんも困っている、と思っていた。


「私? 私はもう九割は終わったけど?」


 燐華さんは普段は俺頼りなのだが、今回のように丸パクリできず、定期的に確認される課題に関してはテキパキこなすのだ。


「じゃあ、俺は実家に用事があるので、先に帰りますね。レポート課題もやらないといけないですし」


「私も行っていい?」


 俺は周りを見渡す。

 そして、耳元に口を近づける。


「燐華さんが来ると酒飲んで暴れるかもしれないからダメです。そしたらレポートどころじゃなくなっちゃうので......」


 燐華さんの耳元でささやく。

 少し残念そうな表情をする燐華さん。

 そんな燐華さんにさよならを言い、俺は先に帰宅した。



 燐華の講義終了後。

 持ち物をトートバックに入れ、帰る準備をする。


 しかし、そんな燐華に試練が訪れようとしていた。


「おーい。燐華ちゃーん」


 聞きたくない声を聞き、体がビクッっと震え上がる。


「あーごめーん。驚かせちゃって」


 夏鈴が燐華に手を振りながら近づいてくる。


「あ、ど、どうしたの......?」


「いやー、実はさー課題がなかなかうまく進んでなくてさー。教えてほしいと思って!」


 燐華の心臓がドクンと大きく動く。

 そして、とてつもない早さで心拍数が上がっていく。


「い、いいけど......」


 過呼吸になりそうな自分をうまく制御しながら返事をする。

 自分の印象のために、断ることはできなかった。


「よーし、じゃあ行こっか!」


 夏鈴は燐華の手を握り、歩き出す。


「えっ、どこに......?」


「え? 私の家だけど......」


「あ、ああ。家でやるのね......」


「だって、そっちの方がリラックスできるでしょ? 私、学校の雰囲気がちょっと苦手で、緊張しちゃうんだよねぇ。ということで、行こ」


 夏鈴に手を引かれ、一緒に教室を出る燐華。

 もう逃げることはできない。


 大丈夫、大丈夫、大丈夫。


 そう言い聞かせながら、燐華は夏鈴に付いていく。



 夏鈴の家にお邪魔した燐華は、緊張していた。

 時刻は午後二時。

 予想解放時刻は、夕食が近い午後六時。

 四時間の我慢。


(四時間頑張れば......)


「燐華ちゃーんお待たせー。適当に買ったお菓子ばっかりだけどいい?」


 市販のお菓子とケーキ、ミルクティーを載せたおぼんをテーブルに置く。


「燐華ちゃん食いしん坊っぽいから、私よりケーキ多めにしといたよー」


「あ、ありがとう......」


「いいっていいってー。教えてもらう立場なんだし......。って、あれ?」


 夏鈴が燐華の様子を伺う。


「汗凄いけど......。もしかして暑がり?」


「えっ!? う、うん。実は......」


「そーなんだ。じゃあ、エアコン付けるね」


 夏鈴はエアコンのリモコンを手に取る。

 電源を入れ、気温を二十四度にセットする。


(嘘ついちゃったけど、私寒いの苦手なんだよね......)


 暑がりと言ってしまったことを後悔したが、撤回すると疑問に思われそうなので我慢することにした。


「じゃー早速なんだけど。私のレポート見て、感想教えてくれる? まだ途中だけど」


「う、うん」


 燐華は夏鈴からレポートを受け取り、読み始めた。



(寒いし、吐き気が......)


 寒さと緊張、そしてタバコを吸っていなかったことにより、早くも燐華は限界を迎えていた。


(レポートの内容が入ってこない......)


 冷たく身を凍らせるような風と、呼吸ができていないような感覚を燐華が襲う。

 紙を持っている手も、手の冷たさと緊張で無くなっていた。


 だが、燐華は諦めなかった。

 ここで失態を犯してしまえば、今まで保ってきた印象が崩れてしまう。


 辛くても涙を流すことはできない。

 心の中で泣くことしか許されないのだ。



 そして、全てを読み切った。


 ちらりと壁に掛けられていつ時計を確認する燐華。

 時刻は三十分経過していた。


 三十分という時間がここまで辛く、長く感じたのはこれが初めてだった。

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