彼女、助けを求める
午前の講義にて。
「えーでは、レポートは一ヶ月後に提出となりますので、遅れることのないように......」
教授が荷物をまとめると、講義室から出て行った。
「燐華さん、レポートの内容どうするか考えてるんですか?」
俺は隣に座っている燐華さんに聞く。
「うん。どういう風に進めていくかは全部考えてあるよ。あとはサボらずにしっかりと進めていけば、全然余裕だよ」
「流石ですね......」
燐華さんはこんなことを言っているが、それは大学にいるからである。
どうせこの後は演じるのをやめて、タバコを吸いながら教授の文句を言い続けるに違いない。
「あ、燐華じゃーん! 彼氏さんもこんちわー!」
背後から最近聞いた声が俺たちにかけられた。
振り向くと、この前会った女性、夏鈴さんが立っていた。
俺はそっと燐華さんの方を向いた。
「あ、ああ夏鈴さん。どうも......」
キャラを維持し続けているが、明らかに嫌そうだ。
燐華さんもこちらをチラチラ見て助けを求めている。
「いやーせっかくだしどうですか? お昼一緒に行きましょうよ!」
夏鈴さんはそう提案するが、正直俺は乗り気ではなかった。
普段キャラ作りをしてストレスが溜まっている燐華さんは、いつも昼休みは一駅隣まで移動し、タバコを吸いまくりながら昼食を取っているのだ。
それなのにも関わらず、タバコは吸えず、苦手な人とも一緒となれば、燐華さんの気が狂ってしまうかもしれない。
「......いいよ。行こうか」
しかし、燐華さんは断らなかった。
「よーし、じゃあおすすめのお店紹介するから、ついてきてー!」
夏鈴さんは俺たちの前を歩き始めた。
「燐華さん......大丈夫なんですか......?」
俺は耳元でささやく様の聞く。
「無理......。助けて......」
「はぁ......。断れば良かったのに......」
「だって、そんなことしたら私の印象が......」
「おーい早くー!」
夏鈴さんが俺たちの方を振り向いて手を振りながら声をかけてくる。
仕方なく俺たちは歩き始めた。




