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通信記録

「警告、警告。

 この船には近づくな。

 可能なら、即座に破壊・爆破しろ」



「この船には、現在凶悪な存在が潜んでいる。

 それが何者なのか分からない。

 おそらく、航行中のどこかで船内に入ったんだろう。

 今はその原因を解明してる余裕も無い。

 俺以外、全員死んだしな」



「資源運搬船のこの宇宙船には、乗組員が223人いた。

 全長45キロの船としては一般的だろう。

 その乗員で生き残ってるのは俺だけだ」



「他のみんながどうなったかは分からない。

 おそらく死んでるとは思う。

 生き残ってるのもいるかもしれないが。

 そいつと連絡を取る事は出来ない。

 どこにいるか分からないからだ」



「そうなった原因だが。

 さっきも言ったように何者かが船内に侵入した。

 それによって仲間は殺されていった。

 姿はほとんど確認出来てない。

 どういうわけかカメラに写る位置にいないからだ。

 幾つか撮影できたものもあるが。

 それでも姿は完全にとらえられてない」



「おそらく、船内を通ってる通風口とかを通って移動してるんだろう。

 そういうところまで監視カメラが行き渡ってるわけじゃないからな」



「でも、そいつの姿は何度か目撃した。

 この目で直接。

 たまに奴も接近してくるんだ。

 俺たちを殺しに」



「なんでそうするのかは分からない。

 何か考えがあるのかもしれない。

 単なる本能なのかもしれない。

 猫がネズミを追いかけるような。

 どっちでもかまわない、違いに意味なんかない。

 理由はどうあれ、俺たちは殺されていったんだからな」



「で、そいつが接近してきた時に姿を見た。

 なんていうか、説明しにくいな。

 地球上にいるどんな生物とも違う。

 まあ、腕なのか足なのか、何本かあったような気がする。

 胴体からそれが突き出てたかも。

 そこに頭がついてて…………尻尾はあったかな?」



「そんな奴が俺たちを殺しに来る。

 もちろん抵抗した。

 船内に備え付けてある銃を使って。

 それだけじゃ足りないから、爆発物や火炎放射器とかも作って対抗した。

 どれだけ効果があるか分からないが、騒音を出す音響装置とかも。

 機械に効果がある電磁波発生手榴弾なんてのもな」



「どれも効果がなかった。

 少しはひるませられたと思うけど。

 倒す事は出来なかった」



「ただ、痛みは感じるのかな。

 ある程度攻撃すれば逃げていく。

 それだけが救いだった。

 逃げるまでに何人も死ぬけど」



「そんなわけで、何人も殺されていった。

 何かには捕まって連れて行かれた奴もいる。

 そいつがどうなってるか分からない。

 生きてればいいけど」



「いや、生きててもいいのかな?

 ほら、生きてる生物に卵を植え付けて苗床にする虫とかもいるだろ。

 それと同じで、生け捕りにされた奴は苗床になってるかもしれない。

 それなら素直に殺されたほうがまだマシかもな」



「ああ、苗床だけじゃない。

 たまに連れていかれた奴等と遭遇するんだ。

 脱出してきたわけじゃない。

 何かを植え付けられて操られてるんだ。

 あいつが直接操ってるかは分からないけど。

 でも、俺たちを見つけると見境無く襲ってくる。

 しょうがないから撃退していったよ。

 手に持ってる武器で。

 しょうがない、殺さなくちゃ殺される」



「それでも、何が起こってるのか解明するために、生け捕りにした事もある。

 船内の研究所に放り込んで調べもしたさ。

 それで分かったんだ。

 脳や神経────脊椎だったな。

 そこに何かが巣くってる。

 取り憑いてるっていってもいいかもしれない。

 そいつが人間を操ってたのさ。

 生きてはいるけど、以前のままの人間じゃなくなってる」



「そんな奴等とどうにか戦って。

 いや、戦いなんて言えないか。

 一方的な虐殺に対抗して。

 でも駄目だった。

 もう全員死んだ。

 俺だけが残った」



「いつまで生きてられるかも分からない。

 奴がきたらもう終わりだ。

 殺されるのか捕まって連れて行かれるのか分からないけど。

 でも、もう普通に生きてく事は出来ないだろうよ」



「だから最後の手段を使う。

 万が一の場合に備えて設置されてる自爆装置。

 これを使う」



「危険な地球外生命体に遭遇した場合、宇宙船から地球の情報が漏れないようにするため。

 そんな理由で設置が義務づけられてるやつさ。

 SFみたいな理由でこんなのが付けられてるんで呆れてたけど。

 まさか必要になる時が来るとは思わなかった」



「使えば俺も死ぬな。

 脱出なんて出来ないんだから。

 今も宇宙船の操縦室にいる。

 逃げ場は無い。

 脱出艇のいる所まで行く余裕もない。

 途中のどこかに、あいつがいるだろう」



「だからここで爆破させる。

 爆破装置を起動させる。

 捕まって死ぬよりはマシだ」



「もちろん、努力はする。

 起爆装置を動かしたら、脱出艇のところまで向かってみる。

 けど、脱出艇が無事かどうか。

 そもそもまともに使える通路があるのかどうか」



「でもまあ、捕まって悲惨な目にあうよりはいい。

 無駄に殺されるよりはいい。

 この船ごと爆破すれば、奴を道連れに出来るからな」



「それじゃ爆破する。

 上手くいくといいんだけど。

 駄目だったら、これを聞いたあんたがやってくれ。

 船内に入る必要は無い。

 外から攻撃をしてくれ。

 船全部を破壊してくれ。

 でないと、あんたが悲惨な事になる」



「それじゃ起爆する。

 ここまで聞いてくれて、ありがとう」



「…………」



「なんてこった。

 起爆装置が動かない。

 どうなってる?」



「まあ、そんなに驚いてもいない。

 あいつがやったんだ、多分」



「俺たちを殺し回ってる奴だが、危険な獣ってわけじゃない。

 考え無しってわけじゃない。

 ちゃんと考えて行動してる」



「だから俺たちが設置した罠も回避してくる。

 俺たちの行動を読んだように行動してくる。

 俺たちが弱ったところを攻撃してくる。

 俺たちの隙を突いてくる」



「奴は作戦を考える能力がある。

 どうやれば上手くいくかを見通してくる」



「それだけじゃない。

 船内の機械や装置。

 それがどういう造りなのか、どういう効果があるのかも理解してるようだ」



「電気やガス、通信網。

 それらを破壊されたりもしたよ。

 偶然なんかじゃない。

 狙ってやってる。

 でないと説明がつかないほど、効率的に効果的に要所要所を潰してる」



「起爆装置も同じじゃないかと思ってた。

 操縦室からの操作を受け付けないようにしてるんだろう。

 さすがにプログラムを弄ってるわけじゃないだろうが。

 いや、奴なら書き換えてるかもしれない。

 それくらいやってもおどろかないさ」



「さて、これで奴を道連れにする事は出来なくなった。

 どうしようもないな」



「たぶん、奴はこっちに来るだろう。

 逃げ場のない俺の所に。

 操縦室から脱出艇の場所まで向かう事は不可能だ。

 たぶん、途中の通路のどこかに奴はいる。

 通路そのものもかなり潰されたし」



「だから、最後の抵抗をしようと思う。

 残った最後の手榴弾。

 これで奴を道連れにしたい」



「効果が無いのは分かってるさ。

 体がいくらか吹き飛ぶだろうけど。

 せいぜいその程度の傷しかつけられない。

 でもかまわない」



「少しでも反撃が出来るならそれでいい。

 捕まって何かをされるよりはいい。

 嫌な死に方だけど、ただ殺されるよりはマシだ」



「ああ、足音が聞こえる。

 奴が近づいてきた。

 ゆっくりとな。

 慎重に動いてるのか。

 俺が怖がるのを楽しんでるのか。

 たぶん楽しんでるんだろう」



「やだなあ。

 こんな死に方したくなかったよ。

 どうしてこうなっちまったんだ」



「でも、最後の意地だ。

 少しでも奴に傷を付けるために頑張ってみる」



「それと。

 操縦室の自爆装置。

 これだけは動かす事が出来た。

 少なくともここから船を操縦する事は出来なくなる。

 地球へこの宇宙船が向かう可能性も少しは下がるかも。

 もっとも、あいつの事だ。

 配線を弄って直接船を動かすかもしれないが。

 そうなったらどうしようもない。

 俺にはどうにも出来ない」



「さて、奴が操縦室の前まで来たようだ。

 どんどんと扉を叩いてる。

 分厚い隔壁が、面白いくらい凹んでる。

 凄い力だ。

 人間を簡単に引き裂けるわけだ」



「さて、そろそろ最後だ。

 あと少しで奴がここに入ってくる。

 手榴弾のピンは抜いておく。

 何かあればすぐに爆発する。

 自爆装置とどっちが早いかな」



「出来れば苦しまずに死にたい。

 それだけが今の俺の願いだ。

 それじゃあな」

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