称号は勝ち取るモノであり、待っているだけでは手に入らない
「また告白されたの?……それで、返事は?」
「当然、断ったよ。ほとんど話したこともない人だし」
告白をしてくるなら、多少なりとも可能性を見出してからにしてほしいと思う。
私との距離を縮める努力をしてから告白されるのであれば考える余地もあるのかもしれないが、段々とイチかバチかで告白されることが多くなってきていた。
私、秋谷花鈴は中学三年という大事な時期に突入したばかりだ。
十年近く前に病気で母を亡くしてしまったが、父と協力しながら不自由ない生活を遅れてはいる。勉強でも成績は上位をキープできているので焦って追い込みをする必要はなく、寂しさを感じることもあるが問題はなかった。
ただ、恋愛に関しては思い描いたような展開もなく残念な状況になっている。
「でも、これで花鈴に告白してくる人は出尽くしたんじゃない?」
笑顔で聞いてきたのは織戸朋子。付き合いが長く何でも話せてしまえる親友である。
「そうだといいんだけど、素敵な出会いは高校で期待するしかないみたい」
私は中学での残り一年を別のことに注力する方向で考えるようにしていた。
「花鈴って、どんな男子がタイプなの?」
「……うーん。考えたことないかな。……ただ、『この人だ』って気持ちが湧き上がってこないだけなの」
一緒にいると楽しい。一緒にいると幸せな気持ちになる。
中学ではそんな相手が現れなかっただけのことで、焦って誰かを好きになったりはしたくない。
でも、出会いは唐突にやってくるもので予想外の展開を与えてくれた。
寒暖差が大きかった日が続いた後、少し体調を崩してしまった時に襲ってきてしまった生理痛。とにかく体調最悪だったが、先生からの頼まれ事を断ることが出来ずに皆が帰った後も学校に残っていた。
「……あの、スイマセン。……職員室ってドコですか?」
背後から声を掛けられて振り返ると、私服姿の男の子が立っている。
「え?……職員室なら……」
状況を理解することは出来なかったが考えるのも億劫になっていたので、私は職委員室の場所だけ簡単に説明した。
「ありがとうございます。…………」
お礼を言った男の子は私のことをジッと見ていた。
まだ何か用事があるのだろうか?……そんなことも考えたが今は早く帰って休みたかった。
「もう帰るところですか?」
「え?……そのつもり、だけど?」
「俺、職員室に行って用事だけ済ませたらスグに戻って来ますから、それまで待っててもらえませんか?」
私からの返事を聞くこともなく、彼は慌てて職員室の方に向かっていた。俯き加減で話していたので相手の表情を見れてはいなかったが、真剣な口調だったので何となく従ってしまう。
それから彼が戻ってくるまでの時間は本当に短かった。用事だけを済ませて急いでくれたのは分かるが、目的が分からない。
「家まで送ります」
用事があったわけではなく、私の体調が悪い事を察してくれていただけらしい。
痛みもあるし吐き気もする。普段であれば絶対に断っていたと思うが、この時ばかりは本当に有難かった。
教室にカバンを取りに行くのもついてきてくれて、彼がカバンを持ってくれた。ゆっくりとしか歩けない私にペースを合わせてくれて、私を心配してくれる。
「……ちょっと休憩してもいい?」
もう少し我慢すれば家に辿り着くが限界だったので、途中の公園でベンチに座り休憩することにした。こんなにも酷い日はなかったので気分も滅入ってしまう。
「もう、嫌になっちゃう!」
ちょっとだけ愚痴っぽく言ってしまったが、彼は黙って隣りに座り待っていてくれた。
「ゴメンね。でも一人で帰るのは不安だったから嬉しい」
これも本音である。誰かが一緒にいてくれることで安心出来てしまう。
今日初めて会ったばかりでお互いに名前も知らない。それでも、彼が身に纏っている空気感は心地良い物で、私の体調を理解してくれて声を掛けてくれたことも嬉しかった。
「大丈夫です。落ち着くまで待ってますから」
保健室でもらった薬を飲んではいるが効いているのかどうか分からない。
「女って損だよね」
「スイマセン」
「……どうして謝るの?」
「いや、本当に女の人って大変だと思うから。女の人ばかりが辛い目にあうことは申し訳ないです」
具体的に体調の話はしていなかったが、彼なりに察するものはあったのだろう。それにしても変な謝罪を受けてしまって妙な気分ではある。
ただ、「男の子でも、そう思ってくれる人がいる」と分かって、何となく身体が楽になったように感じて不思議だった。
家に着いてカギを開けて入る時、
「家の人は誰もいないんですか?」
と聞かれたので、「仕事から父親が帰ってくるまでは一人」と伝えたら再び心配そうな顔をしてメモを渡されてしまう。
そのメモには『佐久間陸斗』の名前と携帯電話の番号が書かれていた。
「さくまりくと?」
「はい。転校してきたばかりですけど、二年です。もし、体調が悪くなったりしたら連絡ください」
「うん。ありがとう。……私は秋谷花鈴。三年生」
陸斗は私がドアを締め切るまで見守っているようだった。私は着替えを済ませて、メモを握りしめたままベッドに入ってしまった。
その後、私は学校を二日間休んでしまうことになったので知らなかったが、この出来事は『秋谷花鈴が誰かと寄り添って歩いていた』と話題になっていたらしい。
「花鈴、ついに誰かの告白を受けたの?」
「違うよ。体調が悪かった私を心配した二年の子が送ってくれただけ」
「二年の子?」
「調子が悪くて、ずっと俯いてたから顔をしっかり見れていないけど、転校生だって言ってた」
よくよく考えれば恥ずかしい話をしてしまっていたと思う。体調不良の原因が風邪だけではないことを伝えてしまっていることになる。
「ふーん、そんなことがあったんだ」
「うん。お礼を言いに行きたいんだけど、ちょっとだけ恥ずかしい」
私の話を聞いていた朋子がニヤリと笑った気がする。朋子は私が『恥ずかしい』と感じていることに反応していたらしい。
それからは朋子が陸斗のクラスを調べてくれて、あっという間に段取りがついてしまう。
「……先日はありがとう。お礼を言いに来るのが遅くなってゴメンなさい」
「いいえ。それよりも元気になって良かったです」
「うん。油断して風邪を引いたみたい」
この期に及んで『風邪』を強調して言い訳がましくなるが、「最近は少し寒かったから気を付けてください」と返されてしまう。
陸斗と話をしていて判明したことは母子家庭であること。
ちょっと複雑な状況だったらしく、そのことが原因で転校の時期が中途半端になってしまったと聞かされた。
「俺がいなければ、母さんは苦労しなくて済んだのかも」
その言葉を聞いて、陸斗が女性に対して優しくあろうとしている理由が少しだけ分かった気がする。
学年は違ったが、陸斗とはよく話をしていた。
出会った時のことで勘違いをしていた陸斗は私を病弱と思っている様子で、気遣うような言葉を掛けてくれることが多い。本来は健康体なので心苦しい部分もあるが、優しくされることが嬉しかった。
「陸斗君、また告白されてたみたいだよ」
どこから仕入れた情報かは分からないが朋子が教えてくれる。
「断ってはいるみたいだけど、花鈴はどうするの?」
「どうするって……。どうもしないよ」
「このまま陸斗君が他の子と付き合っても問題ないと?」
「……問題は、ある。でも、たぶん陸斗は誰とも付き合わないと思う。陸斗は恋愛とか考えていない気がするの」
朋子は私の発言を意外そうな顔で聞いていた。
陸斗と話をしていても私に対して特別な感情を持っているとは思えないし、陸斗が時折見せる表情が気になってしまっている。
「花鈴は陸斗君を好きなんだよね?」
「うん」
「それは素直に認めるんだ」
認めないわけにはいかない。私の気持ちは常に陸斗を向いてしまっている。
私は陸斗を好きになっていたが、その表情を見ていると先に進むことを躊躇ってしまっていた。
「今日は陸斗君とは一緒に帰らないの?」
「うん。今日は食材の買い物で離れたお店まで行くみたいだから忙しいって」
「どうして近くの店じゃダメなの?」
「特売日が違うんだって。お母さんのお給料だけだと大変みたい」
陸斗は働きに出ている母の代わりに家事の全般をしていた。
私も父子家庭ではあるが、父の仕事はお給料が良いので金銭的な苦労は全くないので境遇は違っているのかもしれない。
「あっ……」
「どうしたの?」
「うん。陸斗が時々見せる表情がお父さんと似てるの」
「花鈴のお父さんと?……全然似てないと思うけど?」
私の父を知っている朋子は不思議そうに質問してきた。
確かに二人の顔は似ていない。似ていないが、時折見せる表情は同質のものであると感じていた。
陸斗が言っていた「母さんには幸せになってもらいたいんだ」と、父が口にする「花鈴を立派に育ててみせる」が重なる。
「たぶん自分のことよりも家族のことを優先して考えているんだと思う」
自分のことを犠牲にしてでも誰かの幸せを願っている。
相手はそんなことを望んでいないのに、それが最善の方法だと誤解して囚われてしまう。
「皆が幸せになれればいいのにね」
朋子の言葉を聞いた瞬間、私は一つの計画を思いついてしまった。
誰も不幸にならずに私の望む結末に導いてくれるはずの計画。更に私が諦めていた『称号』を得られるチャンスになる。
これまでの会話で陸斗から必要な情報は聞き出せているので、計画を推し進めるには何も支障はない。
「そうよ!私が陸斗の『お姉ちゃん』になれば問題解決だわ!!」
それから呆れて聞いていた朋子も巻き込んで計画を実行することにした。
「ところで、『お姉ちゃん』って呼ばれるのは称号になるの?」
「称号でしょ?陸斗にとっての『お姉ちゃん』の次は『彼女』の称号が与えられて、『お嫁さん』の称号までいけば完璧だわ!」
「……そんなに上手くいくのかな?」
「大丈夫よ。陸斗はお母さんを幸せにするまで恋愛はしないと思うの。陸斗のお母さんが幸せになった時には『お姉ちゃん』として私が傍にいるのよ。既成事実を作るチャンスなんていくらでもあるわ」
陸斗のお母さんは平日に事務の仕事をしているが、土曜日だけカフェのアルバイトもしていることを知っていた。
そこで偶然を装って父と会わせてしまうことを画策していた。
「陸斗君にも相談して、二人の出会いの場を作るのはダメなの?」
「絶対にダメ。……陸斗には知られないようにしておきたい」
この点には拘りたかった。
陸斗のお母さんが「再婚したい相手がいるの」と言って顔合わせの席に私がいることでドラマチックな場面を演出したい。
そこで、「えっ?先輩のお父さんだったんですか?」と陸斗が言ってくれれば運命を感じてくれるはず。
「まぁ、花鈴の計画は分かったけど、陸斗君のお母さんと会ったことあるの?」
「……ないわね」
「それに、花鈴のお父さんに再婚の意思は?」
「……確認したことない。でも」
一人で盛り上がってしまっていたが肝心な部分が抜けてしまっている。
父は病気で亡くなってしまった母を今も愛していることは知っていたが、それでも父には前を向いて笑っていてほしいと思う。
「私はお父さんにも幸せになってほしいんだ。例え陸斗のお母さん以外の相手になったとしても祝福してあげたい。……でも、今のままじゃ絶対に誰も選ばない」
ちょっと暗いトーンで話していた私の頭を朋子は撫でてくれた。
私は陸斗のことを考えていながら、父のことも心配していたことに気付いてしまう。
「まずは陸斗君のお母さんと会ってみようか」
それまで呆れていただけの朋子が提案してくれた。何かが変わるきっかけになってくれればいいと思ってくれたのかもしれない。
土曜日に陸斗のお母さんが働いているカフェに朋子と行ってみることにして、先ずはどんな人か見ておきたかった。
「……あの人だ」
少し離れた場所からカフェの中を窺って探してみただけだが、すぐに目的の相手を見つけることは出来てしまった。女性店員は数人いたが、陸斗に似た雰囲気で綺麗な女性がいる。
「綺麗な人だね」
朋子が漏らした感想に黙って頷く。
「……でも、急がないといけないかも」
「どうして?」
「だって男性のお客さんが多いと思わない?たぶん、陸斗のお母さんを狙ってるのよ」
「……あ、そんな感じはする」
男性客は陸斗のお母さんをチラチラ見て、陸斗のお母さんが近付いてきたタイミングで注文をする。他の店員さんがいるのにも関わらず、陸斗のお母さんが近くに来るタイミングを狙っていた。
「これはライバルが多いかも」
次の土曜日には父を連れてこようと考えていたが、陸斗にバレないように行動しなければいけない。
「土曜日だけしか会えないのに、お互いが好きになるのって難しいよね」
「……そうだね。花鈴のお父さんもカッコいいけど、一目惚れとかあるのかな?」
「毎週、このカフェに連れてくるのも大変だし」
「うん。怪しまれちゃうかも」
私が陸斗を好きになったのは偶然の出会いがあって、そこから沢山話をして陸斗を知る機会があったから。ある程度の時間は必要になる。
陸斗の話からすると、陸斗のお母さんは男性に対して不信感を持っているかもしれない。
「お互いに次の恋を考えていな可能性もあるから、長期戦も覚悟しないと」
そう思って次の土曜日に父を連れてカフェにやって来たが、「いらっしゃいませ」と迎えてくれた陸斗のお母さんが驚いていた。
「あっ、秋谷さん。……こんにちは」
意外過ぎることに二人が顔見知りだったことが判明する。
「佐久間さん、ここで働いていたんですか?」
「はい。平日は事務のパートをして、土曜日だけアルバイトさせてもらってるんです」
「……ずっと気になっていたのですが、連絡先も分からなかったので申し訳ありません」
「そんな……。秋谷さんが謝ることなんて何もありません」
なんだか少しだけ神妙な雰囲気になってしまっていたが、陸斗のお母さんは慌てて笑顔を見せて席に案内してくれた。
「お父さん、あの人と知り合いだったの?」
「あぁ、以前の彼女は取引先で働いていたんだ。それが……」
それ以上のことは後になって父が教えてくれた。
陸斗のお母さんは勤めていた会社の社長から愛人になるように迫られていたのだが、それを断ったことでちょっとした事件が発生して会社を止めてしまったらしい。話を聞いて怒っていた私に「ちゃんと制裁は加えてある」と父は話してくれた。
私たちは毎週のようにカフェに通い、父は陸斗のお母さんとバイトの時間以外でも会っているようで相談にも乗ってあげるようになっている。
私としては嬉しい誤算ではあるが、偶然って怖いなと思っていた。
「それで、花鈴のお父さんたちはどんな話をしてるの?」
「陸斗のお母さんが良い条件で働ける会社を紹介しようとしてるみたい」
「優しいんだね。でも、恋愛的な話じゃないんだ」
「うん。やっぱり私に気を使ってるのかも」
「ところで、花鈴は問題ないの?」
「……問題って?」
「陸斗君のお母さんが花鈴のお母さんになるかもしれないんだよ」
「そっか。そうだよね。……美人だし、すごく優しそうだし。
朋子からの感想では良い感じに進んでいるとのことだが、たぶんこのままでは再婚話には行き着かない気がしている。
そんな話をしていると私の記憶が甦る。母のお見舞いに行った時、私は母から預かっていたものがあったのだ。「お父さんが前に進もうとしてる時に渡してあげて」と言われていた手紙だったが、それがこの時だと分かってしまった。
父にお願いをして、陸斗のお母さんと会う時に連れて行ってもらうことにした。陸斗のお母さんは私に優しく声をかけてくれる。
「良いお仕事が見つからないなら、お父さんと結婚すればいいじゃないですか?」
私の提案に二人は驚き困惑する。困惑はしているが、お互いに意識していないというわけでもない。
「……お父さん、これ読んで」
私は手紙を父に差し出した。
「手紙?花鈴が書いたの?」
「違うよ。お母さんから預かってたの」
「えっ!?お母さんから?」
「うん。お父さんの背中を押してあげなさいって」
父は振るえる手で封筒を開けて中に入っている手紙を読み始めた。
この手紙をあなたが読んでいるということは
花鈴もあなたが幸せになることを望んでいると思います
いなくなった私に遠慮していてはダメですよ
私は十分過ぎるくらいに幸せにしてもらったんですから
幸せにしてあげられる誰かがいるのなら一緒に歩んでください
それに、私もあなたが選んだ人と友達になれると嬉しいです
同じ人を好きになったのなら会話も弾むと勝手に想像しています
あなたやその人が来てくれるまで退屈な時間を過ごしるかもしれません
あと、私の退屈な時間が一日でも長く続くことを願っています――
手紙を読み終えた父は涙を流していた。
「……情けないな」
ポツリと漏らした父の言葉に私は首を振る。父が躊躇うこともなく再婚してしまうことも納得できなかったかもしれない。
この手紙を読む機会を持てた父を誇らしく感じていた。
「これで話はまとまりそうですね」
今度は陸斗のお母さんが困った表情を見せていた。
「……でも、私には息子がいるの」
「知ってますよ。陸斗君のことですよね?」
「えっ!?」
「同じ中学で彼氏になってもらう予定になってます」
「ちょっと待ってくれ、彼氏ってどういうことだ?」
「うん。彼氏になってもらう前に『弟』になってもらうんだけど」
私は隠さず今後の計画を二人にも報告した。陸斗には内緒にしてもらうことになるが二人には隠しておきたくなかった。
「……それで、純夏さんのバイト先に連れて来たのか?」
「うん」
陸斗のお母さんの名前が純夏さんであり、父の口から初めて聞いた。父は呆れた顔をしていたが、純夏さんはクスクスと笑いながら聞いてくれた。
「だから、お父さんが再婚しなくても私と陸斗が結婚すれば純夏さんは私のお母さんになる人なの。それが少し早くなるだけのことだから気にしてませんよ」
純夏さんは涙を浮かべているように見えた。
「お父さんは純夏さんが『娘の義理の母親』になるだけでいいの?」
それまで呆れて聞いているだけの父が真剣な表情に変わった。家族になることは同じでも『娘の義理の母親』は『お嫁さん』ではない。
ここからは私が一緒にいると野暮なので、私は先に帰ることにした。
家に帰った私は母の仏壇に手を合わせて報告する。
「お母さんからの手紙、ちゃんとお父さんに渡せたよ」
陸斗とのことが目的だったので多少の罪悪感はあるが、結果オーライで考えておくことにした。父や純夏さんを不幸にしたわけではないし、寧ろ幸せな展開になっている。
「これでいいんだよね?……お母さん」
それからしばらくして、お互いに挨拶の場として食事をすることになる。
「こんにちは。陸斗君、久しぶりだね」
「え、あっ、はい」
陸斗が父を見て意外そうな顔をしていたので、私としては「ん?」となっていたが今日を待ちわびていたので後回しにしておいた。
父の後ろに隠れていた私も自己紹介するために姿を現す。
「陸斗君、私の娘を紹介させてほしい。君の『お姉さん』になるのかな?」
若干棒読みになっている父にイラッとしてしまったが、陸斗は見本のような反応をしてくれている。
「母さんの再婚相手って、秋谷先輩のお父さん!?」
「えっ!?……お父さんの再婚相手って、陸斗のお母さんだったの??」
本当に驚いている陸斗と私の演技を見ていた二人が苦笑いを浮かべていた。せっかくのドラマチックな展開に協力的でない態度には不満があるが、私の計画を黙って受け入れてくれたことには感謝しかない。
「連れ子同士って結婚も出来るんだよ。陸斗は知ってた?」
次は、この台詞で陸斗の逃げ道を塞ぐ予定でいるが、今は新しい家族が出来たことを素直に喜ぶだけにしておいた。