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事件は放課後に承ります

作者: 梅ノ木桜良

この小説を見つけてくださり、ありがとうございます。

貴方が、この小説を楽しんで読んでくださいますように。

 その女子生徒は、自分の机の上に見慣れない物が置かれているのを見つけた。近づいて見てみると、それは一通の封筒だった。封筒の表には

「花巻夕梨花さんへ」

 と、その女子生徒の名が書かれていた。しかし、裏返してみても送り主の名前はどこにも無い。手紙を開封し、便箋に書かれた文字を読んだ彼女は思わず声をあげた。

「・・・・・・・・・・・・何これ?」


 * * *


 どういうことなんだろう。放課後に教室で自習をしていて、2、3分くらいトイレに行っていたら、その間に机の上に手紙が置かれているなんて。何が書いてあるんだろう。怖い。

「花巻夕梨花さんへ」

 フルネームで書いてあるのもなんか怖い。

 手紙を開けようかな、どうしようかな。怖いもの見たさの好奇心と、突然の手紙への恐怖がせめぎ合い、手紙を開けるかそのまま捨てるか決心がつかない。もし何か恐ろしいことが(どんなことかは思いつかないけど)書かれていたらどうしよう・・・・・・。

「あら?花巻さん?何してるの?」

 突然、後ろから声をかけられた。

「ひゃわっ!!」

 思わず変な声を出しながら振り向くと、そこにはクラスメイトの咲那ちゃんがいた。

 フルネームは蒼生咲那(そうせいさきな)という、どこか優雅でカッコ可愛いという感じの女子だ。名前もなんだかカッコいい。蒼生なんて名字、私は咲那ちゃんしか出会ったことがない。

 驚いて振り向いた私に、咲那ちゃんは苦笑したみたい。

「なになに、どうしたの咲那ちゃん。びっくりした・・・・・・」

「驚きすぎ。こっちこそ、いきなり花巻さんが大きな声を出したことに驚いたわ」

「ご、ごめん。全然気づかなくて・・・・・・」

「ううん、大丈夫よ。気にしないで。それより、何してるの?何かあったの?」

 なにか理由をつけて誤魔化そうとしたけど、これと言って何も思いつかなかった。それどころが、今あったことを咲那ちゃんに話す気になっていた。なぜだか、咲那ちゃんならこの変な手紙がいったい何なのか解き明かしてくれそうな気がした。

「それがさ、ちょっと教室で自習しててね、途中でトイレに行ったんだけど。2、3分くらいかな。戻ってきてみたら机の上に私あての送り主の名前の無い手紙が置かれていて。あ、これなんだけど。なんか不気味じゃん?気にはなるけどちょっと怖くて、開けようかどうか迷っているところで、咲那ちゃんに声をかけられたってわけ」

「なるほどね。ていうことは、その手紙はまだ開けて無いってことね?」

「うん、なんか勇気がでなくってね。なんかの脅迫状とかだったらいやじゃん・・・・・・。まあ、脅迫されるような心当たりとかないんだけどね」

 なら、と言うと、咲那ちゃんは私に近づき、私の手から手紙を抜き取った。

「私が開けようか?」

「え、や、ちょ、ちょっと待ってちょっと待ってストップストップ」

 慌てて咲那ちゃんの手から手紙を取りかえした。

 咲那ちゃんは驚いたような顔をした。いや、こっちこそ驚いたんだけど・・・・・・。

「いや待って。開けるのはちょっと・・・・・・」

「なんで?」

「なんでって・・・まだ心の整理が出来てないし・・・・・・」

「なるほどね。でも、開けないと何もわからないのよ?中身も、どうすればいいのかも。もし脅迫状だとしても、読んでみないとどんなことで脅迫されているかも、それに対する対処法もわからないわよ」

 確かに、咲那ちゃんの言うことは一理あるとは思う。でもなあ・・・・・・。

「うーん・・・・・・」

「まあ、決めるのは花巻さんだから。私が口出しできることでもないかもしれないわね」

 そういう咲那ちゃんは、窓から差す夕日の陽光に照らされて、綺麗に輝いているように見えた。橙色の光の中にいる咲那ちゃんの様子は、一枚の絵画のようだった。なんだか、とっても大人びて見えた。

「ん?どうしたの?」

「え?あ、ううん、なんでもない・・・・・・」

 いつの間にか咲那ちゃんの姿に見とれてしまっていたみたい。首を横に振り、視線を下に向ける。手の中には、誰が書いたのかも分からない手紙がある。

「・・・・・・開けてみる」

「え?」

「手紙、開けてみようかなって」

「そう。何か問題のあることが書かれているかもしれないから、私も付き合うわよ」

「・・・・・・うん、わかった」

 いやただ単に好奇心を抑えられてないんでしょと一目でわかる顔をして咲那ちゃんが手元を覗き込んでくる。

 筆箱からハサミを取り出して封を開けるだけなのに、すごく緊張する。ゆっくりと時間をかけて開いていき、中身をそっと取り出す。

「・・・・・・・・・・・・何これ?」

「・・・・・・」

 中には1枚のカードが入っていて、こんな文字列が書かれていた。



 おはこますうがくしいきゃーつうどんらすくにもあきたいていこくばかだぬけさいかいのし。

 ヒント:2



 ところどころ意味のわかる単語もあるけれど、よくわからない文字の並びになっている。

 なんなのかな、これ。イタズラ?イタズラなら、犯人を探し出したい。誰なんだろう、こんなことをした人は。散々悩ませといてこの結末はないよ。

「視えたわ」

 隣に立って手紙を見ていた咲那ちゃんは顎に手を当て、目をキラッと光らせていた。

「・・・・・・咲那ちゃん?どうしたの?」

「ふふふ。この手紙の内容が分かったの」

「ええ、ホントに?教えて教えて」

「ダメよ。まずは自分で考えてみて」

「・・・・・・ええぇ・・・・・・」

「ほら、嫌な顔しない。そもそも花巻さん宛の手紙なんだから、花巻さんが解読できなきゃ意味ないでしょ」

「・・・・・・わかった」

 なにが視えたんだろう・・・・・・。改めて見てみても全然わからない。ヒントは2らしいけど、数字なんて使われてないし。こま、くし、うどん、らすく、あきた、ていこく、ばか、けさ、いかい・・・・・・。意味のわかりそうな単語を抜き出してみても全くピンと来ない。本当に咲那ちゃんはこんな文字列が読めたのかな。ちょっと信じられない。

「うーん・・・・・・」

「わからない?」

「ぜんっぜんわからない。何かヒントないの?」

「そうね・・・これが暗号文っていうのはわかった?」

「え、暗号文なの?ただ単に適当に書いただけの意味不明な文じゃないの?」

「うん。これはちゃんとした暗号文よ。まあ、すぐにわかる人のほうが少ないかもしれないわね・・・・・・。じゃあ、もう一度考えてみて」

 もう一度文字列をじっくり見てみる。さっき意味の理解できる単語として挙げたものは多分関係ないよね。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「やっぱりわかんない!まったくぜんぜんほんとに意味わかんない!!」

「あらら・・・・・・なら、方法を教えてあげる」

「お願いします」

 まず、と言って咲那ちゃんが話し始めた。

「この暗号文は、何文字かずつとばしながら読んでいくことで元の文が現れるっていうタイプのものね。そこまで難しいものではないけど、とばす文字数を多くしたり、元の文を長くしたりすればかなり複雑なものにもなるわ。まあそれは置いておいて、とりあえず、どういう暗号なのかはわかったわね?」

「うん」

「でも、それだけじゃ、暗号の解読方法はわかっても解読の鍵はわからないわよね。その時に使うのがこのヒント。2っていうのは、最初の文字から2文字ずつとばして読めってことね。そうすれば、この手紙を書いた人が何を伝えたいのか分かるはずよ」

「なるほど」

 文を2文字ずつ読んでみよう。

「えっと・・・・・・こ・・・・・・う・・・・・・し・・・・・・」

 そして、2文字とばしで文章を読んでいった結果。

「『校舎裏に来てください。』でいいかな」

「うん、正解」

「校舎裏かー。やっと解けた・・・・・・」

 そこでふと気づいた。・・・・・・え?校舎裏に来てください?これって呼び出しだよね?

「え、校舎裏?え?誰?」

「行って確かめてみれば?」

「え?」

「校舎裏に行って確かめてみればいいんじゃない?」

 咲那ちゃんは好奇心とからかいに満ちた目でニヤニヤと笑っていた。

 思えば、咲那ちゃんは暗号が解けたって言ったときからニヤニヤしてたような。

「だからすぐに答えを教えてくれなかったの?」

「そういうこと」

「むむむ・・・・・・だからニヤニヤしてたんだ」

「うふふ。で、どうするの?」

「・・・・・・まあ、行ってこようと思うよ。解読できても行かないのはちょっとアレだから」

「そっか。がんばって!」

「ありがとう!またね!」

「うん。またね」


 *  *  *


 校舎裏に行ってみると、奥の方に人影が見えた。私はその人影の方に近づいていった。

「こんにちは。この手紙をくれたのってあなたですよね。・・・・・・って、え?」


 *  *  *


 今日はいつもより早く学校に来た。昨日のことを早く咲那ちゃんに伝えたかったからだ。普段私が学校に着く頃には既に咲那ちゃんは席に座って読書をしているから、きっともういるはずだ。

 靴箱を見てみると、咲那ちゃんの靴はきれいにそろえて置かれていた。思ったとおりだ。やっぱりいるみたい。

 教室のある2階まで上り、3組の扉を開く。いつもの定位置、教室の端の一番後ろの席に咲那ちゃんはいた。

「おはよう、咲那ちゃん」

「あら、花巻さん、おはよう」

「あの、昨日はありがとね」

「別に、何もしてないわよ」

 咲那ちゃんはそこで言葉を切り、ニヤニヤし始めた。

「それで?」

「うん、でね、校舎裏にいってみたの。で、そこにいたのは山内くんだったの。山内圭汰くん!」

「なるほど・・・・・・」

「その・・・・・・実はね、私、山内くんのことは前から気になっていて・・・・・・。それでね、告白されて付き合うことになったんだ!」

「良かったわね。確かに、幸せそうな雰囲気がすると思ったわ」

「そう?今日もね、放課後に出かける約束してるんだ〜」

「あら、そうなの。うふふふ、楽しんで来てね」

「うん!ありがとう!」


 《END》

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