腐敗堕落
シーシャにしようかちょっと悩みましたがパイプの、タバコにしました。シーシャって見た目はかっこいいなぁと思うのですが、私は、タバコの煙で死にかけるので、どっちにせよ無理。
でわ、始まります。
不快な臭いに、少女は目を覚ました。手足は縄で縛られていて、身動きがとれない。声も口枷のせいで出すことは出来なかった。
「今頃、大騒ぎだろうな」
「ヘザーさんを追放なんてする方が悪いんだよ」
ルイゼの目の前にいるのは、ジャクリーヌを追放されたヘザーと、まだヘザーについて歩いている男達。不快な臭いの元はヘザーが手にしているパイプだ。
「ん? ああ、なんだ嬢ちゃん。起きたか」
ニヤニヤしながら近づいて来たヘザーは、怯えるルイゼの顎を掴んだ。
「もうすぐ迎えが来るからな、楽しみにしてろよ」
迎えと言う言葉に、嬉しくなったルイゼを見た男の1人が笑った。
「ヘザーさん、駄目ですよ。期待しちゃってますよ、かわいそうに」
「あー、そうかそうか、悪いな。嬢ちゃんはオレらのために犠牲になるんだっけな」
希望が絶望に変わる。ルイゼでも理解できた犠牲と言う言葉。ガタガタ震えだした少女の目から涙がこぼれ落ちる。すると、鼻で笑った。
「恨むならオレ達を裏切ったヴェロニカや国のヤツらを恨みな」
パイプを吸い、その煙を顔に吹きかけると、嫌がるルイゼから手を放して仲間の元へと戻る。
「ガキの方が高値で売れるからな。こいつ売ればそれなりの資金になるだろ。その金使って報復の準備だ」
ヘザーの言葉に男達が歓喜の声を上げ、ルイゼは目をギュッと固く閉じた。
「――タバコ、嫌いって言ったでしょう?」
聞いたことのない声が、耳元で聞こえる。ルイゼは恐る恐る目を開いた。自分の横にしゃがんでいる、フェイスベールを着用した見たことのない人。白檀の香りがする扇子で煙が来ないように扇いでいた。
「来るのがちょっと遅くねえか? 夜来香」
「私、あなたみたいに暇じゃないの。用件はこの子?」
「お、話が早いな。そいつをおまえに買ってもらおうと思ってよ」
夜来香と呼ばれた女性は、品定めするようにルイゼを見てため息をつくと立ち上がった。
「無理ね。誰も買わないわよ、この子」
「は? どういうことだよ!?」
「人身売買にもルールがあるの。この子は、誰も値段をつけないわ。たとえ、命を引き換えにしても……ね」
夜来香から放たれる殺気に、生きた心地がしない。身体が震えていることに気が付いたヘザーは、なんとか声を絞り出す。
「……い、や……その……」
「私、同じこと説明するの嫌いなの。知ってるわよね?」
殺される。誰もがそう思ったが、夜来香は襲ってこない。逆にそれが怖くて、ヘザー達は顔面蒼白のまま震えていた。
「……あら、どうしたの? 私があなたを殺すとでも思ったのかしら? ふふ、おっかしい。虫けらの命なんて興味ないの」
さようならと姿を消した夜来香。ヘザー達は地面に膝をつき、乱れた呼吸を整える。生きた心地がしなかった。
「くそ……っ! あのアマ……、調子に乗りやがって……。売れないなら、殺してアイツらに送りつけてやる!」
ナイフを手に立ち上がると、ルイゼに向かって歩き出したヘザーだったが、白い塊に吹っ飛ばされる。それは、白い犬。――いや、犬と呼ぶには余りに大き過ぎる。ヘザーよりも大きい……2メートルはあるだろうか、それがヘザーを押しつぶしていた。
「ヘザーさん!」
男達が助けようと武器を手にしたが、白い犬に続いて現れたヴェロニカと琴音に遮られる。
「あんた達……こんなことをして、覚悟は出来てるんでしょうね!?」
「こんな幼い子供を誘拐するなんて、言語道断――万死に値します!」
「ち、違う! ヘザーに言われて仕方なく……やりたくてやったんじゃない!」
分が悪いと判断した男達は、あっさりとヘザーを裏切った。裏切られたことにヘザーは怒り心頭だが、犬に頭を押さえつけられて呻き声しか出せない。
「逆らったらコイツに殺される! 仕方ないんだ!」
「ああ、そうだ! オレ達は関係ない!」
時間の無駄だと判断した琴音は式札を取り出すと、数体の蛇の式神を呼び出して部下たちを捕えるよう命じる。紙が蛇に変わったことに驚き、逃げようとした部下たちだったが、あっけなく蛇に巻き付かれて地面に転がった。
「ルイゼ!」
ヴェロニカはルイゼの口枷を外し、手足を縛っていた縄を解く。ほっとしたルイゼは、大声をあげて泣きだした。
「もう大丈夫よ。恐い思いをさせてごめんね」
泣き出したルイゼをぎゅっと抱きしめるヴェロニカの元へ、ヴァルキュリアのメンバーが駆け付けた。
「終わってるみたいだけど……どういう状況だよ、これ」
彼女達をここまで案内した鳥の式神が、もがいている男達の元へ下り立つ。蛇が縄へと姿を変えて、男達を縛り付けると、鳥の式神が大きな犬へと姿を変えて男達を引きずりながら歩き出す。
ヴェロニカは所持していた拘束具を使いヘザーを拘束すると、犬はヘザーを銜えて、先に歩き出した犬の後ろに続いて歩き出した。
「さあ、ファタモルガナが集まって来る前に急いで戻りましょう」
「なんと、ファタモルガナが見えるんじゃな!? 詳しい話を後でさせてくれ!」
スキップをし始めたモニカの後ろで、「おっきなワンちゃん、可愛い~!」と瞳を輝かせているアプリコット。
「……緊張感ねぇな」
「あはは……まあ、いいんじゃない? とりあえず、これで一歩前進……よね?」
泣きつかれたルイゼをおんぶして歩くヴェロニカに声をかける。
「……ええ。本当はもう少し泳がせておきたかったけど……。ルイゼが無事なら、それでいいわ」
ふと、ダリアはカラルナと初めて会った時の事を思い出す。ルイゼは複雑な事情を抱えていて、それをヴェロニカ達は知っていて彼女を守ろうとしていることは分かっている。
他の街の人間が首を突っ込むことではないが、その深いところの理由が気になってしまうのは仕方がないことだろう。
(……タバコの臭いに混じって、違う匂いがした……)
その隣で、エスメラルダは夜来香の残り香に気が付いていた。すぐに、エクレールに指示は出して調べさせている。
(わたし達が来た道以外から外へ出るルートは、絶対に存在する。これは骨が折れそうだわ)
全員外へと出る。大型置時計は、ゆっくりと元の位置へ戻っていった――――。
遺跡は土の中に埋まってますが、入ることは可能です。という肝心なことを書いてなかった。今更ですが、入れます。ヘザーみたいな変わり者しか入ろうなんて思いませんが。