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とんでもないスキル いびき

やあお前ら。


モンスターひしめくこの世界で、元気に生きてるかい?


私は今、寝不足でやられそうになってるぜ。




いや、私の話を聞いてくれ。


冗談じゃなく、真剣に悩んでるんだ。








単独でモンスターを狩って日銭を稼いでいた私だが、1人では討伐できるレベルに限りがある。


そうなったら当然、パーティを組むよな。




有難いことに私はパーティメンバーに恵まれた。




おっとりした見た目に反して毒舌だが、絶望的な傷だって治してくれる腕のいい治癒師。


自分の容姿への執着がうっとおしいが(確かに見た目はいい)、卓越した腕力で守ってくれる防御役。


普段は気が弱くて苛つきもするが、戦闘時には見惚れる剣技を披露する剣士。


偉ぶった態度が鼻につきもするが、隙の無いダンジョン攻略プランを考え出す司令塔。


そして私、ぱっと目立ちはしないが、人よりも幅広い種類の魔法が使える魔法士。




この5人でパーティを組んでいる。


個性は強いが、なんだかんだ仲良く、楽しい旅を送っていたんだ。




送っていた、んだが。








最近、防御役のいびきに悩まされている。








今までの旅は全て、宿を取っていた。


それなりに稼いでいて切り詰める必要もないパーティだ。


1人1室、優雅な夜を送っていた。




しかし、現在の旅は宿を取れる道中ではない。


火を起こし、交代で見張りを立てながら睡眠を取る形、つまりは野営で夜を過ごしている。


ここにきて初めて、防御役のいびきがとてもうるさいことに気づいた。


本当にうるさいのだ。


大きく胸を上下させながら鳴り響くいびき。




しかも、時折音が鳴りやむんだ。


いびきが煩いなら喜ぶことじゃないかって?


いや、違う。


音が鳴りやんでる間、あいつ息が止まってやがるんだ。




そのまま息を引き取るんじゃないかと、気が気じゃなくなる。


音が止んでても違う意味で寝らんねえんだ。








そんなこんなで数日、そろそろ限界だ。


このままじゃ戦闘に異常をきたしちまう。




しかし本人に苦情を言うわけにもいかねえってところが厄介だ。


というか、睡眠時のことなんて無意識化のことだ。


言ったところで対処できるもんじゃねえ。




しかし眠れないのは大変辛い。


このままじゃ下級モンスターにやられる未来も近いぜ。








馬鹿みたいなことで冗談じゃなく悩んでいた日々。


突然に一筋の光が差し込んだ。


私はとんでもないスキルを手に入れてしまったのだ。




いや、くだらないスキルではあるんだ。


通常なら何の役にも立たない、手に入れたってどうしようもないスキル。




しかし、今の私にはこのスキルが救世主のようにも思えた。




聞いてくれるかい。


なんと、いびきを止めるスキルなのだ。


呼吸を止めて音が出ないようにするわけじゃねえ。


ちゃんといびきの音だけを止めるスキルだ。


防御役にはなんの負担もかからないという、素晴らしいスキルじゃねえか。






こんなくだらないスキルを習得する日が来るとは夢にも思わなかった。


防御役は今日も今日とて元気にいびきの咆哮を上げてやがる。


大口を開けて暢気に寝ている防御役を見ながら、しかし思う。




このスキル、果たして実行していいんだろうか。


害あるスキルではないとはいえ、仲間にスキルをかけるという行為に抵抗がある。




しかし、眠気は限界である。


明日にでも歩きながら寝そうな勢いだ。




睡眠は大事。


至極大事なのだ。








迷いながらも、地獄のような眠気には抗えなかった。




すまん、防御役よ。


とにかく私は寝たい。


曇りがかかったような脳から、重たい眼から、だるい体から、とにかく解放されたい。




スキルを実行してすぐに、いびきは消えた。


この旅初めての静寂に満ちた夜だ。


ぱちぱちと火が爆ぜる音だけが聞こえる。




ああ、これなら安らかに寝れそうだ。


見張りを後退するや否や、秒速で私は眠りについた。








次の朝、いつになく爽やかな気分で目が覚める。




きちんと寝れるって素晴らしい。


充分な睡眠が取れるって素晴らしい。


いびきを止めるスキルに感謝するしかねえな。




良い気分で伸びをして周りを見る。


パーティメンバーも心なしか昨日よりも顔色が良い。




朝飯を喰らい、準備をして歩みを進めていると、ふと「今日は良く眠れたな」と呟く声。


私も俺も、と防御役以外が同意する。


なんだ、皆いびきには悩まされてたんだな。


とんでもないスキルは、今後も活躍しそうだ。


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