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揺れる花々

「もういいよ、ありがとう」

“はーい”


 機能制御端末(コンソール)の画面に映った<ワイルド・スライム>が、用済みになった最後のひとりも止めを刺して“収納”。ひょいひょいと跳ねながら死体を片付けてゆく。後ほど湖に捨ててくるそうな。それがダンジョンの養分になってゆくのはエコロジーだけれども、釣った魚を食べる気がなくなってしまうのが玉に瑕だ。


「帝国、ねえ……」

「ねー」


 俺は七階層の第二作戦司令室で、<ワイルド・スライム>を抱き枕にして転がっていた。部屋には執務用のデスクと応接用のソファー的なものも置いてはあるが、正直ブラザーに乗せてもらった方が気持ちいいのだ。柔らかくて弾力あってひんやりしてスベスベ。バランスボールと人をダメにするソファ(ビーズクッション)とウォーターベッドを良いトコ取りした感じ。おまけにマッサージチェア機能と高速移動機能がついて、歌って踊れて話せて可愛い万能ブラザーなのだ。


「マール、聞いてた?」

「はい」


 コンソールの画面に映ったマールが、資料映像みたいにいくつか別の画面を開いてくれた。


「エイダリア・ダンジョンの王都襲撃で国王が殺され、二勢力が王国への侵略と占領を開始しています」


 ひとつは北東側国境を接する新興国のルスタ王国。国内で手引きしていたのが南領伯ナリン・コーエンと、領府陥落で行方不明の西領伯ウルダ・イーカン。

 いまのところルスタ王国の軍はアーレンダイン王国(こちらがわ)の国境を超えていないが、数千単位の兵力を集結させているのが上空からの映像で確認できる。


「国境の防壁となっている北端ドルムナン・ダンジョンと東端ルクソファン・ダンジョンの対応次第では一気に動き出すでしょう」

「いま、そのダンジョン爵たちは静観?」

「はい。南端クーラック・ダンジョンもですが、なぜか何の反応もしていません」


 もうひとつの侵攻勢力が、王国の南西で国境を接するモノル帝国。東領伯エマル・ハイゼンと北領伯キール・エルマリドが、すでに王国内に引き込んでいたわけだ。今回エルマールに潜入した潜入部隊だけでなく、正面戦力も国境を超えて旧西領に布陣している。

 対外的な防壁となるはずの西端エイダリア・ダンジョンの暴走が引き金になったのかもしれないが……どのみち謀反と外患誘致は既定事項だ。暴発は時間の問題、そして単なる順番の問題だっただろう。


「アーレンダイン王国は、もう終わりだな」

「とっくに終わっていたよ、ご主人。それに関してはね」


 振り返ると、部屋の入り口にアハーマが立っていた。隣には、いくぶんションボリ顔のラウネ。


「どした、ふたりして」

「わたしたちの階層を抜かれたと聞いてな。後始末を済ませ、詫びを入れに参上した」

「え、待って待って待って」


 それは、ちょっと考えてなかった。が……それも俺の配慮不足だ。圧倒的強者である彼女らにしてみれば、敵に裏を掻かれたのはプライドを粉砕されたようなものだろう。

 ここは誤解を解かんと、エルマール・ダンジョンの紐帯が瓦解する。俺は生バランスボール(ブラザー)から跳ね起きて、彼女たちに謝罪と弁明を始めた。


◇ ◇


「……というわけなんだよ」


 応接用ソファーで説明することしばし。コンソールの画面で状況を図解しながら、これまでの経緯を伝える。


「だから、ラウネとアハーマのいる三階層が“抜かれた”というのは正しくない。俺の管理ミスで、君らの支配領域(テリトリー)外に抜け道を作ってしまったんだからな」

「ふむ……」


 俺が起こしてしまった階層管理ミス(マップバグ)について、理屈はわかっていないようだが趣旨は納得してくれた。自分たちの失態ではないと、わかってくれればそれでいい。

 ラウネはともかく、アハーマは腑に落ちた顔になっていた。


「道中、四階層の<水蛇(ハイドラス)>……エルデラ女史と話したんだがな。彼女の棲む湖水も、それを渡る通路も、通過した人間はいないと断言していたからな」

「うん、通過してはいないね。正確には……階層の外側にある枠を抜けられたわけだから」

「だそうだ、ラウネ。お前は間違っていない」

「……わかった」

「申し訳ない。すぐに設定を修正して、もう階層外は通行できないようにしたから。これからも、三階層の守りをお願いしたい」


 頭を下げると、エルマール・ダンジョンの守護神ふたりは快く応じてくれた。

 実際、俺のミスさえなければ帝国の送り込んだ隠密部隊など難なく排除できていたようなのだ。実際、裏を抜けた連中以外は確実に排除されていた。


「それで、ご主人。こちらで仕留めたのは人間が十七と魔物が三十八、馬が三に通信用と思われる鳥が六だ」

「お、おう。ちなみにそれは……」


 どうなったのかと訊きかけて止めた。やっぱり良いやと言いかけたところに、アハーマが明るい声で被せてくる。


「大した相手ではなかったので、生きたまま捕らえてラウネが」

「草原に()()()

「ちょ……え? 馬も⁉︎」

「ああ。鳥は、少しばかり妙なことになったがな」


 聞くんじゃなかったかも。ラウネの“親眷”能力で謎のダンシング・スケキヨ畑が大盛況じゃん。

 その光景、あんまり考えたくない。三階層行くの怖い!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 植えちゃったかぁ……鳥はどうなったんだろ??
[一言] 地面から生えている、馬の下半身…… 鳥の方はむしろ木っぽく見えるかも?
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