ボーン・トゥビー・ワイルド
魔物HPMP桁間違い修正……
「なるほど」
少し拡張したダンジョン内でスライムを配置し始めてすぐ、マールの言っていた意味がわかった。
ダンジョン・コアから【既成種生成】された方はナチュラルな同種よりも成長が早く従順。その反面、素直すぎて行動が読まれやすい。
逆に天然育ちの方は、動きも行動も複雑で手強そうなのだけれども。性格まで自由過ぎて、ダンジョン内に配置しといても気付けばどっか行ってしまうのだ。
直前まで十数匹いたはずの<グリーン・スライム>、あちこち回って見渡してみても、既にどこにもいないし。
最弱の魔物であるスライムで実験してみた結果がそれだ。知能と強さが高い他の魔物だと、更にその傾向は強くなるのだとか。
「<ピュア・スライム>の方が扱いやすいのは、わかる。数を揃えて動かすとしたら、この単調さは統制として現れるんだろうしな」
「はい。殖やすのも簡単で、喪われても被害が少ないです」
それはまあ、そうだけどな。
<ピュア・スライム>は、純粋培養というだけに色は透明に近く、動きは速いが直線的で単調だ。命令には従うし集団行動もそつない感じだけど、どこかこなしてるというか、指示待ちっぽいのだ。いわばサラリーマン・スライム。その価値は理解する。喪失前提で配置するというのも、ステージ設計としては理解できる。
でも、個人的にはそういうタイプばかりで周りを固めたくない。それを話したら、マールから怪訝そうな顔された。
「結果が予測できた方が、戦力として利用価値が高くないですか?」
「もちろん、そう考えるのはわかるよ。でも俺がこのダンジョンを訪れる冒険者だとしたら、不確定要素ゼロなんて楽しくないし。設計する側としても雇用する側としても、伸び代ないスタッフなんて、つまんないと思わない?」
マールからは、不思議そうな顔で見られた。
ダンジョンが“面白いかどうか”など、考えたこともないのだろう。攻略され叩き壊される側としたら当然の反応ではある。
「メイさんは、変わってますね♪」
それからしばらくは、ダンジョンの外で魔物を捕獲する日々が続いた。発見して弱らせて【使役契約】して【魔物合成】で成長させ、オリジナルの魔物として配置するのだ。
ダンジョン・コアの魔力消費は、魔物の生成ではなく環境の整備に充てる。それは前いた世界で俺の職業だったレベルデザイナーの能力が生かせるはずだ。
それがマールの言う“異世界からの召喚者が持つ特殊な異能”に該当するのかは確信が持てないのだけれども。
「ところでメイさん、“れべるでざいなー”というのは、どういったお仕事なのですか?」
「う〜ん……マールは、ビデオゲームってわかるかな?」
「……少々お待ちください。これは……擬似的な戦闘を遊戯として提供する、光学的魔法……でしょうか」
どうも俺の言語と思考と記憶から、情報を読み取っているようなのだけれども。
俺の担当してきた仕事からだけ拾ったものらしく、一般論としては語弊もあるけど、まあ大きく間違ってはいない。このところ関わってきたのは三人称視点射撃ゲームだったからな。
「そんなとこかな。その遊戯のステージ設計……言ってみれば、ダンジョンに罠や魔物を配置する仕事をしていたんだ。それが、レベルデザイナー」
「……⁉︎」
マールの目が見開かれて、神の降臨でも見たような顔になる。
彼女にとっては、天職を持った召喚者が現れたということになるのかも知れんが、もちろんゲームのレベルデザインというのは現実にダンジョンを維持管理するのとは少し違う。
目的で言うと、まるっきり違う。
なぜなら、ゲームの環境設計は最終的に討伐者たちを楽しませて完全踏破させることにあるからだ。
この世界でそれを目指した場合、マールは砕かれて、俺も死ぬ。
「とりあえず、期待してもらって良いよ」
内心の不安を押し殺して、俺はマールに笑顔を向ける。
ダンジョンコアの魔力は常時回復するが、使い切った枯渇状態からだと完全回復まで二十四時間ほど掛かる。その間に出来ることをこなしていくのが、開戦までの二週間に積める準備だ。
◇ ◇
「〜♪」
俺とマールは、拡張中のダンジョン内で魔物たちの配置を確認していた。どこか遠くで、<半鳥女妖>が飛びながら歌っているのが聞こえる。
「テイムできた魔物は三種類だけですが、【既成種生成】はしなくても大丈夫でしょうか」
「最後の最後で、必要になったら頼もうかな。その前に、ダンジョン内部の整備を優先しよう」
「はい♪」
目的を持ち希望を得たせいか、マールの笑顔はいくぶん前向きなものになった。もう涙目になっていないし、震えてもいない。
とはいえ、俺たちがテイムできた魔物は三種類だけ。最弱の魔物であるスライムと、森で見付けた枯れかけの<食肉妖花>が一体、最後は何でか向こうからやってきて懐かれた<半鳥女妖>の群れだ。
王都に近いエルマール・ダンジョン周辺には、そもそも魔物自体それほど多くない。冒険者でもなければ強いわけでもない俺たちに、あまり強い魔物を捕らえるのも難しい。
ダンジョン・マスターかコアの魔力で成長を促進できるそうなので、いま魔物たちには俺の魔力を与えている。
「成長は順調だけど、正面戦力として置ける魔物がいないんだよな」
「……それに、女性ばかりですね」
「俺の趣味みたいに言うなよ。スライムは女性じゃないぞ、知らんけど」
そのスライムが、実は思わぬ戦力に育ってくれているのだ。
捕まえやすく、テイムしやすく、殖えやすく、強化しやすい。お手軽で便利な種族特性をフルに生かして、いまでは十二階層、延べ床面積数百平方キロメートルとなったダンジョンに広く豊富に配置されている。相変わらず行動は自由で不規則なのだけれども、それが彼らの強み。小さいが頼りになる強者たちだ。
慣れるとコミュニケーションも取れるようになってくるし、ぷにぷにして人懐っこくて、けっこう可愛い。
「君たち野生を残した叩き上げスライムたちには、<ワイルド・スライム>の称号を与えよう」
俺が宣言すると、身体から魔力を吸われた感覚があった。
<グリーン・スライム>たちからパァッと青白い光が上がり、姿が変わる。
「おおッ⁉︎」
「“不確定進化”を獲得したようです♪」
【鑑定】で見ると、<ワイルド・スライム>と出ている。名前は、俺が付けたまんまだな。<ピュア・スライム>はもちろん、野生種の<グリーン・スライム>よりも、全般にスペックが高い。
“行動パターン”も高度化したせいか、項目名が“能力”に変わった。
名前:<ワイルド・スライム>
属性:水/木
レベル:11
HP:1312
MP:1120
攻撃力:103
守備力:99
素早さ:160
経験値:78
能力:隠蔽、転移、牽制、誘導、毒霧、麻痺、幻視、溶解、突進、襲撃
ドロップアイテム:ワイルドジュエル
ドロップ率:C
「すごいです、メイさん! これは<ゴブリン>くらいの数値です♪」
「そっか。よくわからんけど、よくやったぞワイルド・ブラザー!」
「「キュイッ♪」」
褒めてやると、<ワイルド・スライム>たちはピョンと飛んで嬉しそうな声を上げる。
かわええ。
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