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ホロウ・アウト

「……メイさん。やるって、何を……」

「とりあえず、兵隊を()()。敵対するようなら冒険者も、だな」


 マールは一瞬固まった後、ぎこちない顔で笑った。


「はい」


 俺が最初に考えていた“殺さない方法”は、単に閉じ込めておくことだった。ダンジョンの設計次第で帰還ルートを塞ぐことは、そう難しくない。それがいつまで維持できるかが問題だったけれども、いまでは――多少語弊がないわけでもないが――解決している。

 マールの要望は叶えた。これ以上の対処はできない。少なくとも、いまはその余裕がない。

 たぶん彼女も理解している。ダンジョン・マスターと自分自身(コア)の生存を最優先にすれば、現状が最善であることくらいは。


「メイヘム! ダンジョンに囚われの者たちを解放しろ!」


 コアから流れてくる声は、外にいる兵隊のもの。球面を見ると、薄暗くなってきた山中で着火した松明をダンジョンの入り口に向かって振りかざしている。

 <ワイルド・スライム>からの視覚情報なのでカメラを向いてはいないが、ブラザーはこちらの意図を汲んで見えやすい位置まで移動してくれた。


“これで、みえるー?”

「うん。ありがとう」


 叫んでいる男が、よく見えるようになった。ありがたいけど、えらい近いな。まあ、いまのブラザーたちなら見付かる心配もないし、見付かったところで危険はないだろう。


「四半刻だけ待ってやる! その後は、エルマール・ダンジョンを強制封鎖する!」


 ドヤ顔で叫んでいるのは、なんと呼ぶのか知らんが平民ぽい感じの現場指揮官だ。

 その隣で細身のフード男が杖を抱えていた。


「隣の男は何だろ?」

“たぶん、まほうつかいー”


 なるほど。低級とはいえダンジョンに剣と農具だけで向かってくるほど無謀ではないか。どうやって排除しようと考えていたところで、相手に先を越されてしまった。


「魔導師隊、前へ」

「「はッ」」


 魔法使いが部下を呼んで、杖持ちが総勢四人。それぞれゴルフボールほどの光る玉を首から下げている。

 その玉に触れながらなにやらヒソヒソと話し合い、それぞれの杖を構え始める。なにを焦ってるのか、魔法使いチームはいきなり臨戦態勢に入ったようだ。幸か不幸か彼らの関心は、視覚提供してくれてる<ワイルド・スライム>に向いてはいない。


「兵士長、すぐに強制封鎖を行う」

「え? ですが……」

「このダンジョンは、冒険者どもを呑んで急速に育っている。もはやEクラスの魔力ではない。いまやらなければ、止められなくなる」


 あら、もうバレてるわ。魔力量千前後(Eクラス)だったエルマール・ダンジョンが魔力量五千以上(Dクラス)を超え、魔力量一万以上(Cクラス)に迫っていることを。

 その先の魔力量十万以上(Bクラス)まで育つには色々と超えられない壁があるようだけれども。


「ブラザー、そいつら止めた方が良いかな?」

“むりー”


 俺がブラザーに訊き返すより早く、魔法使い四人の持つ杖から炎が吹き上がる。


「「滅殺轟崩(エナイアレーション)!」」

「あ」


 いきなり叩き込まれた集団魔法で、ダンジョンの入り口が山肌ごとゴッソリと陥没してしまった。内部構造は対魔法の強化がされているが、外側は案外、脆かったようだ。

 さいわい<ワイルド・スライム>は攻撃圏外だったので、とりあえず被害は物損だけだ。


「め、メイさん⁉︎」

「大丈夫、ちょっと待ってな。すぐ開口部を追加するから」


 コアの機能制御端末(コンソール)を弄り始めた俺は、被害状況を確認する。一階層目は再起不能に近いが、エントランス機能だけなので実害はさほど大きくない。

 事前に裏口を付けていなかったら、魔力的窒息死へのカウントダウンが始まるところだったけどな。


「あ、あの……」


 マールがオズオズと意見具申してくる。


「お願いしておいて申し訳ないのですが、最初は開口部をあまり増やさない方が……」

「わかってる」


 内部構造を組んでいたときは、まだダンジョン魔力(リソース)に余裕がなかった。そのため作りはシンプルにしてあり、開口部を作るにしても選択肢があまりないのだ。


 いま残された開口部は、四階層にある湖の裏側。そこより下の階層は未整備だ。追加するとしたら、それより浅い二階層か三階層。二階層は湧水の流れる岩場の通路で、三階層は<アルラウネ>が整えてくれてる大草原。二階層と三階層の間が、<ハーピー>の飛び回る吹き抜けになっていた。


「迷うな……。外につなげるなら二階層と三階層のどっちが楽しいだろ」

「ちょ、待ってくださいメイさん⁉︎ いまは楽しいかどうかではなく、安全性を……」


「おおう⁉︎」


 機能制御端末(コンソール)で表示した全体マップを見て、俺はさらに迷い始めてしまう。これは無茶苦茶リスキーだ。戦略的にもプロモーション的にも、来客のもてなし方(レベルデザイン)的にもだ。

 思い付いたのは、ちょっと攻めたネタ。面白いことは面白い、けど外すと超デカい。


「良いこと考えたんだけど」

「……え、……あの、……すみません、すごく嫌な予感がします」

「三階層の安全地帯の町(セーフゾーン)を少し外に伸ばして、開口部に向けたらどうかな」

「どッ! どう、って……メイさんそれ、本気で言ってるんですか⁉︎」


 もちろん内部構造も調整して、現状とは動線を変える。罠と魔物たちの追加と増強もする。そう伝えたが、マールからは頑なに反対されてしまった。

 彼女の動揺も理解はできる。だいたい自分でも、ダンジョン内外の位置関係がこうなってるとは知らなかったんだよね。


「マズいかな」

「マズいなんてもんじゃないです! 三階層の東端を、外に伸ばしたら……」


 マールはマップを指して涙目になった。


「王都から伸びる大きな街道に、直結しちゃいますよ⁉︎」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分の存在が消えてしまう段階まで前マスター達が、自分のエゴ(人間を生かしたい)で殺されているのに、まだそのエゴを貫きたい気持ちは評価できますね(下方評価ですけど) [一言] コアが何で…
[良い点] あっははは(爆笑) 街道と直結したら入り放題じゃないですか、やだー ダンジョンに潜るとそこには街があった(´・ω・`)
[良い点] 毒で殺すより悲惨だったわwNPCにされるより毒殺の方が優しいなw
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