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第16話 外出しよう! その2

ヤバい! ストックがあまり作れていない!

更新できる限りは頑張ります。

本日もよろしくお願いします。


 クリスマスを過ぎると、街はお正月に向けて猛ダッシュを始める。

 西洋風な浮かれたアレコレが取り払われ、おめでたげな和風の色合いが強まっていく。

 慌ただしく流れゆく日々に合わせて、道行く人もどこか急き立てられるよう。

 12月最後の一週間あるあるの光景だ。さすが師走と呼ばれるだけのことはある。

 久方ぶりに家を出た(まこと)たちが遭遇したのは、そういう押し迫った雰囲気に包まれた街並みであった。


「うわぁ、たくさん人がいるね」


「確かに。いくら年末だからってこれは酷い」


 どっと溢れる人の波に瞳を輝かせるサキと、どうにも人混みが苦手な誠では反応は真逆だ。

 誠は回れ右したくなるのをぐっと堪えて、声にうんざりした感情が混ざらないよう意識を強めた。

 いかにも楽しそうな同居人の気分を害さないことこそが肝要だ。自分のことは後回しでよい。

 今日の外出の主役はあくまで悪魔な少女なのだから。心の中で、そう言い聞かせる。

 

「こりゃ、気を抜いたらはぐれちゃうな」


「だねぇ……」


 このあたりに住んでいるネイティブ人間の誠はともかく、クリスマスイブに公園で出会って以来ずっと誠の家に籠っていた悪魔のサキには土地勘がない。

 つまり、一度はぐれると合流することもままならない。ちょっとした迷子ならともかく、二度と会えないなんてことも起こりうるのではなかろうか。

 かなり飛躍しすぎた発想だと自嘲しつつも、頭の片隅では『あり得ないことじゃないぞ』と警告を発している。

 

「あ」


「ん、どうしたの誠?」


「いや、サキさんて携帯電話持ってないよね?」


 ポケットから取り出したスマートフォンを見せると、サキは神妙に頷いた。

 アメジストの眼差しは誠の手に収まっている小さな端末に吸い寄せられている。

 興味津々といった風情を隠そうともしない。


「う~ん……服よりスマホが優先か? でも、これ保護者なしだと契約できないだろ」


「そうなの?」


「確かそうだったはず。えっと……うん、親権者の同意書とかがいるなぁ」


 検索すると手続きに必要な書類などはすぐにわかる。

 つくづくスマートフォンは便利なアイテムだと思わされる。

 冗談抜きで、もはや現代人必携と言っても過言ではない。

 これが存在しない世界なんて誠には想像もつかない。


「親権者ってどんな人?」


「親とか。サキさんのご家族って……」


 口に出してから『しまった』と内心で舌打ちしたくなった。

 気まずい。自分から話してくれるまでは触れないでおこうと思っていた話題だ。

 でも、今のご時世では携帯電話抜きで生活することはなかなかに難しい。

 いつまでも放置できる問題ではないのだが……サキは微妙な表情を浮かべて首を横に振った。


「一応生きてはいるけど人間界にはいないし、お願いするのは無理だと思う」


「そっか~」


 何となく尋ねにくかったデリケートな内容だけに、生きていると聞かされてホッとした。

 声に含まれている感情があまり好意的なものでなかったのは、驚き半分納得半分といったところ。

 魔界の常識とかは理解できていなかったが、人間界の基準で状況を鑑みれば、サキは家出少女にしか見えない。

 たまさか出会った初対面の男の家に転がり込むなんて、相当な事情があるのではなろうか。


――いつか話してくれるのかな?


 知りたかったけれど、迂闊に踏み込むべき領域ではないと判断した。

 本人が聞いてほしいと思ったら話してくれるだろう。

 一抹の寂寥を覚えるものの、今はそういうことにしておく。

 当座の問題はそこではない。


「これは……どうするかな」


 誠が借りているマンションの部屋には固定電話がない。もともと住んでいた一戸建ての家にはあったのだが。

 両親の海外赴任が決定し、マンションでひとり暮らしすることになったタイミングで契約を解除してしまったのだ。

 実際それで特に困ったこともなかった。家には誠ひとりしかいないし、スマホは肌身離さず身に着けているから連絡に事欠くことはない。

 しかし、これからはそうも言っていられない。誠の学校が始まったら、あるいはサキが仕事を始めたら、ふたりが別れて行動する時間が増えるはずだ。

 共同生活を送るふたりの間に連絡手段がないというのは、かなり厄介な問題になるだろう。


「僕の両親に相談して一筆書いてもらうか? でも親権者とか後見人とかって、そう簡単になれるもんじゃないよな……」


 法律などに特段詳しいわけでもない誠にとって、『親権者』だの『後見人』だのといった単語には厄介なイメージしかない。

 厄介というよりは現実味がない。実際に見聞きしたところで、何だか遠い世界のワードとしか認識できないのだ。

 仮に親に頼むとしても、まだサキのことを話すことすらできていない。事情を説明する勇気も持てていない。

 ないないだらけで頭が痛くなるし、そもそも人間と悪魔がそう言った関係になれるかどうか……


「考えてみたら、戸籍とか保険証とかどうすればいいんだ?」


 法律云々を考え出したら別の問題が浮上してきた。

 戸籍だの住民票だのは……まぁ今すぐどうこうと言うわけではない。多分。

 でも、保険証はマズい。万が一サキが病気になった場合の対応に苦慮することは疑いようがない。

 保険証がなくても病院にかかることはできたはずだが、確か物凄い金がかかるはずだ。どこにあるんだ、そんなお金!

 

「いや待て、待て待て。悪魔を人間の病院で診てもらうって……それヤバい未来しか見えないぞ」

 

『悪魔』と『病院』の組み合わせなんて嫌な予感しかしない。

 サキの正体がバレたら怪しげな研究所に連れていかれてモルモットにされるんじゃないか。

 白衣を纏ったマッドなサイエンティストが桃色髪の少女を弄ぶ絵が思い浮かんで身震いした。

 どう考えてもダメな奴だ。これはシャレにならない。

 

「……どうしよう?」


「そうね……こっちで暮らしてる同族に聞いておくわ」


 深刻な面持ちの誠に対して、サキの反応はどうにも軽かった。

 見たところ、まだ事態の深刻さを飲み込めていないようだ。

 まぁ、提案そのものは間違っていないように思える。


「お願い。これはどうにも僕の手には余る。ごめん」


「ううん、謝らないで。何とかなると思うから」


「……無茶しないでね」


「了解」


 この問題はサキが言うように彼女の方から先達に相談してもらった方がよさそうだ。

 人間界で暮らしているサキュバスが存在する以上、何らかの解決策があるのだろう。

 いまだ親の庇護から抜け出すことが叶わない誠には思いもよらない方法が。


「はぁ、早く大人になりたいなぁ」


 これまでの人生で同じような語句を何度も唱えてきた。でも、今日の慨嘆は過去のそれとは比べ物にならない。

 大人になってさえいれば、サキのために携帯を用意することぐらいは簡単にできただろうに。

 恩人である悪魔少女の生活環境を整えることすらままならないとは。

 我が身の不甲斐なさを嘆いていると、隣から当の本人が覗き込んできた。


「誠」


「なに?」


「手、繋いでいい?」


「あ、僕の方こそ気が付かなくてごめん」


 唐突な提案だったが、断る理由はない。

 ただ、何となく気恥しさが込み上げてくる。

 出会ってからこれまでの間に散々ヤっておきながら、人前で手を繋ぐ程度のことに躊躇を覚えるなんて。


――順序が逆だろ?


 自己ツッコミに苦笑せざるを得ない。


「……誠?」


「ううん、何でもない」


 差し出された手をおずおずと掴む。

 すべすべしていて、少し冷たい手。

 つい、まじまじと見つめてしまう。


――手袋も欲しくなるな。


 今日のサキは誠から借りた服を着て、上からコートを羽織っている。

 忌憚のない意見を言うならば、似合っていない。服はこれから買うからいいとして……

 同族を頼ってアルバイトを探すと言っていたから、今後も街を歩き回る機会は増えるだろう。

 そもそも出会って以来ずっと家に籠りっきりだったここ数日の方が異常なのだ。

 いくら契約があるからと言っても、サキを家に閉じ込めておくわけには行かない。この子にはこの子の自由がある。

 となると……手袋だけでなく、マフラーやら何やら早いうちに買い揃えておかないと風邪を引いてしまいそう。

 ただでさえ病院にかかるあてがないのだ。せめて予防ぐらいはしっかりしておかないと。


「どうしたの?」


「手袋とか買わないとなぁって」


「そうねぇ、正直ちょっと冷たいし……えい!」


 可愛らしい掛け声とともに、サキは誠の上着のポケットに手を突っ込んできた。

 自分の手と、繋いだ誠の手と一緒に。

 風に吹きっ晒しになっていたふたりの手が、お互いの温もりでじんわりと暖められていく。


「これなら寒くないでしょ」


「うん。離れる心配もないし一石二鳥だね」


「そうそう」


 すぐ隣にぴったりくっついてきたサキと、ふたりで微笑みを交わし合う。

 難しいことばかり考えたり、力及ばぬことを嘆いてばかりじゃつまらない。

 照れくさいなと思いながらも、悪い気はしない誠だった。


話の進行が遅くて申し訳ございません……

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こちらは気になるあの子がグラビアアイドルな現実ラブコメ作品となります。
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