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受け入れられぬ現実

間に合いました。


本日二話目ですので、前話を読まれてない方はお間違いのないようご注意下さい。

ここは王国の首都、王都のとある酒場。

野生的な魅力を持った黒髪の青年が、対面に座る褐色肌に紫色の髪の映える美女を睨みつけている。

黒髪の青年はS級冒険者のランス、褐色肌の女性は約二ヶ月前にランスのパーティーに加入したA級冒険者のルフマーという。

ランスが机を叩きながら、ルフマーに吠えた。


「おい!あの時何で『魔力譲渡』を使わなかった!」


「だから何度も言っているだろう。考えなしにスキルを使って無駄に魔力を消費するお前達に、一々譲ってやるほど魔力に余裕はないと。」


青年の恫喝するような叫び声にも怯える事なく、冷たい目を歪めて面倒そうに応対している。


「それでも魔力を回復させるのがてめぇのスキルの価値だろうが!」


「お前が何と言おうと、ないものはないし出せないものは出せない。これまで『魔力譲渡』に頼りきって効率的なスキルの使い方を学んでこなかったツケが回ってきたな。」


「何だと!?」


怒りを通り越して殺気立つランスを、冷ややかに見るルフマー。

彼女は森の奥深くで狩猟生活を送るアマズ族の生まれである。


アマズ族は女性のみで構成され、稀に森から出てきては希少な薬草等を売って金を稼ぎ、男の奴隷を買って森に連れて行くのだ。

アマズ族に生まれた者は幼い頃から弓の扱いや狩猟の仕方を叩き込まれ、戦士として育てられる。


ルフマーは族長の座を巡って仲間と争い、姦計に敗れて森を追われ、今では一流の冒険者となっている。

生まれもっての戦士である彼女は、今さら男から恫喝された程度で怯むような軟弱な精神ではないのだ。




「お前達のスキルは確かに強力だが、強すぎる力には得てして代償があるものだ。お前の『英雄』は魔力を馬鹿みたいに大食いする。あんなもの、使うタイミングを工夫しなければ疲弊しきって自分を追い詰めるだけだ。」


ルフマーは馬鹿馬鹿しいとばかりに溜息を零す。


「エレンの『烈焔剣』も同様だな。更に彼女は『獅子奮迅』などというお荷物スキルまで持っている。」


「お、お荷物だと!?」


自身の『英雄』と同じくらい強力だと信じて疑わなかったスキルがお荷物扱いされて、ランスは驚愕した。


「感情の波に合わせて勝手に魔力を消費するなど、扱い辛いにも程があるだろう。エレンの場合は、まず自らの感情を抑制するところから出直さなければならないな。そんな事、我が一族の者ならば子どもでもできる事なのだが。」


更にルフマーの指摘は止まらない。


「フェイは折角優れた魔法の才能があるのに、『並列魔法』に溺れて、すっかり依存してしまっている。あんなもの、膨大な魔力量が無ければ連発できるものでもなかろうに。彼女もそれなりに魔力が多いようだが、あのスキルはその程度では何度も行使できんぞ。」


ルフマーはランス達に心底呆れている様子だった。


「最後にルースか……彼女はアホだな。些細な傷にさえ考えなしに回復魔法を使うから、あっという間に魔力が枯渇するんだ。回復魔法師はパーティーを支える要だ。最も冷静に場を見極め、判断力に優れた人間でなければならないのだがな。」


ランスは目を剥きながら口をパクパクしている。

言い返したいのに、言葉が浮かんでこないようだ。



「悪いが、もうこれ以上お前達に構ってやるつもりはない。S級が二人も在籍しているS級パーティーだというから一ヶ月以上も我慢してきたが、もう限界だ。」


「げ、限界だと?一体何を……」


「何か問題が起きた時、その解決に一番に乗り出すのはリーダーであるべきだ。だがリーダーのお前は解決に乗り出さず、そもそも問題に気付いてすらいなかった。そして私に指摘されても素直には受け取れん。もはやお前にリーダーの資格はない。」


「な、な、な……!?」


「これまでトラブルが起きた時、一体どうしていたのか……どんな幸運があればお前達ごときがS級冒険者になれたのか、理解に苦しむ。」


「ト、トラブルだと…?んなもん……」


その時、ランスの脳裏にパーティーを組んでからの数年間の事が浮かんだ。

報酬を巡って貴族と揉めた時、交渉して場を収めたのは誰だったか。

依頼を達成できなかった時、理由と問題点を洗い出して改善策を練りギルドへ報告したのは誰だったか。

合同で依頼を受けた他パーティーと上手く協力できず険悪な雰囲気になりかけた時、連携を図る為に作戦を立案し橋渡しをしたのは誰だったか。




「っ……!!」


「……どうやら、何か思い当たるものがあるようだな。」


つまらないものを見るような目を向け、ルフマーはランスを鼻で笑った。


「ち、ちがっ!アイツはただ、雑用をしていただけで…!!」


「アイツ、というのが誰か私は知らんが……もしや、私が加入する前にパーティーを脱退したという荷物持ちとやらか?」


「っ……」


「ふん、図星のようだな。どうやらその者は随分と有能な人間だったようだ。お前達のような力押しの戦いしかできない猿共を上手く扱い、S級にまでしてみせたのだからな。」


「なっ!?アイツはただの無能だった!戦う事もできねぇ雑魚なんだ!!」


「その無能がいなくなった途端、マトモに戦えなくなったのはどこのどいつだ?……ギルドの者に聞いたが、そいつも『魔力譲渡』を持っていたようだな。」


「だ、だったらどうした。」


どこか気まずそうな顔をするランス。

ルフマーは目を細めた。



「もし……もし仮に、お前達がずっとこんな馬鹿げた戦い方をしていて、それが成立していたというのなら……そいつは埒外の魔力を持っている事になる。」


「そんなわけねぇだろ!アイツはただの役立たずで…!」


「そいつは常に『魔力譲渡』を使っていたのではないか?」


「ぐっ……そ、それは……」


事実を指摘され、ランスは口をつぐむ。

ルフマーは大きく溜息をついた。


「お前達の消費する莫大な魔力をたった一人で常に補っていたのだとすると……私程度では想像もできないような魔力量を誇る事になるな。おまけにパーティーのトラブルを解決する対応力もあったのだろう。」



ルフマーは立ち上がり、一際冷たい目でランスを見下ろした。


「お前達は絶対に手放してはならない者を手放した。そのツケはお前達自身で払うべきだ。これ以上私を巻き込まないでくれ。」


「どういう…意味だよ。」


「それは自分で考える事だ。私はもう、パーティーを抜ける。」


「なっ!?そんな勝手は許さねぇぞ!!」


ランスがルフマーを睨みながら立ちあがる。


「お前の許可を得る必要はない。見せかけのリーダーは、愚か者に囲まれて勝手にパーティーごっこでもしていると良い。もしそこに私を無理矢理入れようとするのならば……いつでも相手になろう。」


「っ!?」


ルフマーの鋭い眼光に気圧されて、ランスは足を引いた。

椅子に躓いて、力なく座る。

その様子を見たルフマーは、最後に嘲るように鼻を鳴らし、酒場を出て行った。








「くそっ!くそっ!くそぉ!!あの女、ふざけた事ばっか言いやがって!!」


酒場でヤケ酒を食らったランスは、大声で悪態を吐きながら千鳥足で通りを歩いていた。


「何がツケだ!何がパーティーごっこだ!!俺はS級冒険者のランス様だぞ!!その俺をコケにしやがってぇ!チクショウ!!」


夜も更けており、通りを歩く人は数えるほどしかいない。

彼らは一様にランスを見て迷惑そうにするものの、厄介ごとにならないようにそそくさとその場を後にしていた。


「アルトの野郎が出ていってからクソみてぇな事ばっかだ。クソ雑魚の魔物ごときに手こずるし、ちょっと戦ったぐれぇで魔力切れになるしよぉ。」


ランスは苛立ちをぶつけるように手近な壁をガンガンと蹴った。


「何か知らねぇがエレンは塞ぎ込んでるし、ルースは還俗したくせして教会に入り浸るし、フェイはクソ生意気だし……」


吐き出し始めた不満は止まらない。

ランスは自分の事を棚に上げて、不平不満をぶちまけた。


「大金払って手に入れた収納袋は全く使えねぇし……何だよあれ。大した物入んねぇし、時間停止機能も付いてねぇとかゴミだろ……不良品掴ませやがって。」


彼は知らない。

普通は収納袋の魔道具に日用品などは入れず、その日の冒険に必要な道具のみ入れて持ち歩く事を。

時間停止などというぶっ壊れ機能が、アルトの無尽蔵の魔力だからこそあり得ていたものだという事を。



「くそっ、どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって。ギルドの奴らも、ちょっと依頼を達成できねぇようになったくれぇで………あん?」


ふらついて寄りかかった壁に貼り付けてある紙に気づいたランスが、なんとか焦点を合わせてそれを見た。


「武闘祭?……そういや数年に一回やってるっつぅ……随分と強ぇ奴らも出るらしいが、俺からすりゃゴミみてぇな奴らなんだろうな。」


嘲笑って立ち去ろうとしたランスだが、何かを思いついて立ち止まった。


「待てよ。これで優勝でもすりゃ、あのクソ女やギルドの野郎共を見返す事ができるか…?」


ランスはニヤッと醜悪な笑みを浮かべた。




「半年後…場所は………帝国、か。すぐに出発すりゃ十分間に合うな。」

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― 新着の感想 ―
[一言] ルフマーさん、バカにハッキリと言っても理解してないから辞めて正解です
[一言] エレンがいっちょまえに落ち込んでるの笑える
[一言] 武闘祭って事は「連戦」かな?長期戦になっただけでも分が悪いと思うんだが優勝する気か?2~3回戦くらいで脱落してたら笑う
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