最高峰に至る
ちょっと短いです。
「これが…竜の鱗か。たった一枚の鱗がこの大きさならば、その存在の壮大さが知れるというものだな。」
謁見の間を出て中庭のような場所へ下り、運ばれた竜の素材を見て皇帝陛下が感嘆の声を溢した。
「はい、陛下。竜は空を覆うほど大きゅうございました。」
「グウェンよ、ここは謁見の間ではない。陛下などと呼ばんでくれ。」
「あら、ごめんなさい、お父様。」
皇女殿下が悪戯っぽく笑った。
謁見の間では堅苦しそうに感じたが、親子仲は良さそうだ。
「ふむ、竜の素材というものは色々とあるのだな。」
「竜の牙や爪は武器に、鱗や皮や骨は防具に加工する事ができると聞いておりますぞ。また、肝や心臓等の内臓や目玉などは魔法薬の素材としても貴重なのだそうです。」
ふむふむと頷く皇帝陛下に、公爵がそう言った。
「なるほど……肉はどうなのだ?」
「非常に美味と聞いております。」
「ふむぅ……アルトよ、この素材は全てギルドへ売却するのか?」
「大半はそうする予定ですが、一部を陛下に献上させていただきます。」
これは既に殿下や公爵と話し合って決めていた事だ。
「ほう、良いのか?」
「勿論です。」
「ふむ、であればありがたく受け取ろう。代わりと言っては何だが、何か望むものはあるか?」
「望むもの?」
「貴様は竜殺しという偉業を成し遂げて我が娘を救った。仮に貴様がいなければ、グウェンを失っただけでなく、周辺の街を含めて帝国は甚大な被害を被った事だろう。」
それはそうかもしれない。
あそこで竜が死ななければ、少なくとも辺境の街は燃やし尽くされていただろう。
「帝国皇女、ひいては帝国そのものを救った礼として、報酬を授けよう。何でも、望むものを言うが良い。」
試すような瞳で皇帝陛下が俺を見つめる。
望むもの、か。
「………では、一つだけお願いしたい事があります。」
「ふむ、言うてみよ。」
「俺を、S級冒険者へ推薦していただきたいのです。」
「……ほう。」
皇帝陛下が、面白そうに目を細めた。
S級冒険者とは、ギルドの定める最高ランクの冒険者を指し、そこに至るには自らが拠点としている国の国家元首の推薦と、冒険者ギルドを統べるギルドマスターの認可が必要となる。
大陸各地の街にはほぼ間違いなく存在している冒険者ギルド。
その本拠地は帝都であり、皇宮近くにあるギルド本部にギルドマスターがいるのだ。
つまり、皇帝陛下に推薦をもらい、ギルドマスターに認可されれば、俺は明日にでもS級冒険者になれるというわけだ。
ちなみにランス達のパーティーはS級パーティーではあるが、個人でS級なのはランスとエレンのみであった。
ルースはB級、フェイはA級だ。
「何故、S級冒険者の座を望む?」
「成り上がる為です。」
答えは即座に出た。
予想以上に早くそして俗な回答に、皇帝陛下は目を丸くする。
皇女殿下や公爵なども唖然としていた。
「………くっ……くくくっ………はーはっはっはっ!!」
「お、お父様!?」
暫く目をパチクリさせていた皇帝陛下が、突然体をのけぞらせて大笑いし出した。
殿下が目を剥いて驚いている。
「な、何だその俗な理由は……くくっ…成り上がる、だと?…ふっ…ふっはははは!!!」
そんなに面白い事言ったか?
俺は本心を口にしただけだ。
ランス達のパーティーを追放されてから、ずっと考えていた。
これから先、俺はどうすべきかを。
俺がいなくなった事であいつらは必ず困る時がくるだろう。
それは自信を持って言える。
だがそれだけで良いのか。
もう会う事もないあいつらを、"今頃さぞ困っているだろう"と陰ながら笑うだけで、俺の心は救われるのか。
どうせなら大きくなりたい。
今まで散々俺のことを嘲笑いやがった奴らを、見返してやりたい。
そう思っていた。
しかし俺には大した力はない。
努力しても、自分一人で戦う力はなかった。
そう思って半ば諦めていたその時、公爵の依頼を見つけた。
俺は戦う力を手に入れた。
そして成り上がる機会を掴み取った。
ならば使えるものは何でも使おう。
力を手に入れたなら、次は名誉を勝ち取る時だ。
「くくくっ……よもやそのような願いが飛び出てくるとは夢にも思わなんだ。彗星の如く現れた英雄殿は、どうやら随分と俗な人間のようだな。愚かなものよ。」
言葉とは裏腹に、皇帝陛下は嬉しそうに笑っていた。
「良かろう。帝国皇帝の名において、貴様をS級冒険者へ推薦しようぞ。」
「ありがとうございます!」
全身に鳥肌が立ち、心が歓喜に沸いた。
これでS級に上がれたら、ランスとエレンに並ぶ事ができる。
俺を散々に見下していたフェイをも超える事になる。
翌日、皇帝陛下の推薦を受けてギルド本部へ行った俺は、思いの外あっさりとS級冒険者に認定された。
現在C級である俺が、たとえ皇帝陛下の推薦があると言っても、何故これほど簡単にS級に認定されたのかと疑問に思ったが、その疑問はすぐに解決した。
あの謁見の間に、ギルドマスター含む冒険者ギルド本部の最高幹部数名がいたらしい。
つまり、カレトヴルッフを使った時の俺の力を間近に見ていたという事だ。
ギルド本部で改めて相対したが、彼らはもはや俺の力を疑う素振りは欠片も見せなかった。
むしろこれから冒険者として活躍してもらう為に、最大限の便宜を図ると言ってもらえた。
推薦した皇帝陛下の顔に泥を塗らない為にも、これからS級冒険者として人々を助けなければならないな。
本日もう一話投稿するかもしれません。
できなかったらごめんなさい。