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呪われた魔剣の力

「ふぁ……朝か。」


宿屋で目を覚ました俺は、寝惚け眼を擦りながら体を起こす。

ふとベッドの横を見ると、漆黒の鞘に収まった長剣が壁に立て掛けられていた。


「改めて考えると、凄いものを手に入れてしまったな。」


まだ若干ぼーっとする頭で昨日の事を思い返す。

現皇帝のご兄弟であるアロシウス公爵の依頼で、治療の魔道具に魔力をチャージした。

その報酬として、古代の英雄アークスの遺産である魔剣カレトヴルッフをいただいた。

カレトヴルッフは持ち主の魔力を吸い続け、狂わせ、暴走させるという恐ろしい魔剣だったが、俺の持つ膨大な魔力と『魔力回復』スキルによって飢餓を治め、魔剣の主として認められた。


「朝飯を食ったら、外に行くか。朝のうちならまだ試し斬りできる魔物もいるかもしれないしな。」


今日はまず魔剣の試し斬りをする予定だ。

この街の冒険者達が魔物を殲滅する前に獲物を見つけたい。



「ん…そういえば昨夜、公爵が何か言ってたな。」


昨夜は公爵の病が治った事を祝してご馳走様をいただいたのだが、そこで俺が街の外で魔剣を試したいと言った時、外に出るなら気をつけろと話していた。

何でも近いうちに皇帝の娘である皇女殿下がこの街に来る予定らしく、今日にでも訪れるかもしれないと、街の兵士達が気を張っているそうだ。


皇女殿下に下手な姿は見せられないと、いつも以上に厳しく見回り等をしているらしい。

道理で街中でよく巡回する兵の姿を見るわけだ。

辺境の街だから常にこんな感じかと思っていたのだが、そういった事情があったらしい。


「問題を起こせば厳しく罰せられるぞ…か。問題なんて起こしませんよ。」


皇女殿下にも護衛は多数付いているだろうが、万に一つでも魔物の襲撃に遭われてはいけないと、冒険者達の魔物討伐はむしろ推奨しているようだ。

外に行くだけならば何も問題はない。


「さて、まずは腹拵えだな。」


ベッドから下りて伸びをした俺は、食堂で朝食をとる為に部屋を出た。






「………さて、これくらい離れればとりあえず大丈夫かな。」


門を抜けて街を出た後、魔物が多く生息している森の方へ暫く歩き、街からそこそこ離れたところで立ち止まった。

周りに人がいないのを確認して、腰に挿した剣の柄を握った。


公爵邸の倉庫で箱に封じられていた時は抜き身だったカレトヴルッフだが、俺が認めさせた後で"鞘が欲しいな"と念じただけで、鞘に収まった……というか、どこからともなく現れた鞘を纏ったようになった。

そしていま、鞘から振り抜くと鞘は空気中に溶けて消えた。

不思議なものだ。


「よし、それじゃ……お?」


鞘から抜いた途端、魔剣に魔力が吸われ始めた。

カレトヴルッフが禍々しく明滅する。

暫く魔力の抜ける感覚を味わった後、それが止まって淡い光を放った。

どうやらカレトヴルッフは使う度に魔力を吸収しなければならないらしい。



「やっぱり綺麗だな……ん、これは……」


淡い光を放つカレトヴルッフを見つめていると、ふと違和感を覚えた。


「昨日は気付かなかったが……()()()()?」


魔剣が自ら魔力を吸収する事はなくなったが、まだ魔力を注入すれば入りそうな余白を感じた。

何といえば良いだろうか。

そこそこ満腹ではあるんだけどデザートならまだ入る……みたいな、そんな感じ。


試しに魔力を注いでみるか。

掌から柄を通してカレトヴルッフに魔力を流し込んでいく。



「む?…お、おぉ!?」


変化はすぐに現れた。

体がとても軽い。

それに全身に力が漲っている。


「これは……『身体強化』か?」


何度か見た事があるが、『身体強化』というスキルは魔力を消費して一時的に体を強くする事ができる。

もちろん『身体強化』を持っていない俺は体験した事などないが、何となくそれに近い状態にあると感じた。


「もしこれが『身体強化』と同じなら……うぉ!?」


『身体強化』スキルは消費する魔力に比例して効果も上がる。

カレトヴルッフの力が同じようなものならば……と注ぐ魔力を多くしてみると、更に体が強化される感触があった。


「凄いな…これ。」


この力だけでとんでもない効力なのだが、それだけではないようだ。

俺が自分から魔力を注ぎ始めてから、少しずつこの魔剣の使い方が頭に入ってきている。

カレトヴルッフが語りかけているというか……いや、そこまで明確な言葉ではないんだが、映像のないイメージみたいなものが直接脳内に刷り込まれているような感覚があった。


よし、一つ一つ試していこう。




「ほらよっと。」


カレトヴルッフを適当に放り投げる。

それほど力を込めたつもりもなかったのだが、身体強化のお陰で結構な距離をぶっ飛んでいった。

遠くに魔剣が落ちるのを確認し、口を開く。


「来い。」


すると確かに向こうへいったはずのカレトヴルッフが、一瞬で俺の手に握られていた。


「おぉ…これは便利だ。」


これなら離れたところにあっても瞬時に手元に引き寄せる事ができるな。

しかも魔剣を持っていなくても、少しの間なら一度発動した身体強化は持続するようだ。




「魔力を込めて……ん、ちょっとコツがいるな。」


カレトヴルッフに魔力を注いでいく。

しかしただ剣に魔力を通すだけなら身体強化になってしまう。

俺がいましているのは、刃に魔力を纏わせるようなものだった。


「…お、こんな感じか?」


しっかりとイメージしながら刃だけに魔力を注いでいくと、カレトヴルッフの刃の部分が禍々しい紅いオーラを纏った。


「よし、できた。……ふっ!」


そのオーラを解き放つ感覚でカレトヴルッフを振るうと、オーラは刃の形のまま、振った方向へ飛んでいった。

そしてちょうどその先にあった樹にぶつかる。

驚いたことに、そこそこの太さを持った樹が両断され、綺麗に上下に分かれた。

斬られた上の部分が重い音を立てながら滑り落ちる。


「遠距離攻撃までできるとか……しかもこの威力。」


剣術の腕自体は平凡以下な俺にとっては有効な攻撃手段だな。

あのオーラは放たずそのまま斬りつける事もできるようで、普通に斬る時もあの斬れ味を発揮できるというわけだ。

とんでもない魔剣だな。




「さて、次は……お、これ面白そうだな。」


脳内イメージを探って攻撃以外の使い方を見つけた俺は、それを試す事にした。

カレトヴルッフを地面に真っ直ぐ突き刺す。

……ちょっと深く入りすぎた。

斬れ味が良すぎるのも考えものだな。

まぁ、この技は少しくらい深く刺さってる方が使いやすいようだし、このままいこう。


「ふぅ……こんな感じか。」


心を落ち着かせてカレトヴルッフの柄頭に手を置き、そこから魔力を注ぐ。

今回は柄頭から切先まで、一直線に魔力を通して、そこから地面に糸を広げるように魔力を染み込ませていくイメージ。


重要なのは心を落ち着かせる事だそうで、さっきのオーラを纏わせる技とは使い勝手が全く違った。

しかも周辺に蜘蛛の糸のように魔力の線を張り巡らせる為、消費する魔力量もこれまでより多かった。

だが、これくらいならまだ『魔力回復』で賄えるレベルだ。


「おぉ……どこに何があるのか、手に取るようにわかるな。」


これは便利な能力だな。

これを使えば、わざわざ魔物を探して歩き回らなくて良いじゃないか。



「ふむ、もっと広げてみるか。」


魔力をどんどん注いでいき、探査範囲を広げていく。

『魔力回復』での魔力の回復速度を超えたとしても、暫く休めばすぐに魔力は溜まる。

ランスの達のパーティーで常に『魔力譲渡』していた時に比べたら余裕がありすぎるくらいだ。


「結構広がるな。ある意味反則的な索敵じゃ………ん?」


魔力の糸が多数の反応を捉えた。

こちらへ向かってくる多数の反応。

これは人間だな。

しかも移動速度から考えて、向かってくる人々は馬に乗っているようだ。


「随分急いでいるようだが……む、何だこの反応は…?」


多数の人の反応の後ろに、それらを追うような形で移動している一際大きな反応を探知した。

これは魔物だな、しかもかなり強大な。



「………昨日までの俺なら確実に見捨てて逃げているレベルの魔物だが……いや、そもそも昨日までの俺だったら探知できずに巻き込まれているか。」


一人呟きながら地面に突き刺さったカレトヴルッフを引き抜き、無造作に魔力を注ぐ。

止める事なく魔力を注ぎ、あっという間に全身が超強化された。


「このカレトヴルッフなら、何とかできるかもしれないな。」


最悪、いまの魔物の移動速度から考えて、身体強化しまくったら逃げる事は可能だと判断した。

こちらに向かってくる反応の方を見据える。


「役立たずだのなんだの言われ続けた俺だが……たまにはヒーロー気取っても良いだろうよ。」


柄にもなく獰猛な笑みを浮かべた俺は、強く地面を踏み締めて、見据えた先へ駆け出した。







「殿下、どうか先にお逃げ下さい!ここは我々が身命を賭して()()を食い止めます!」


「なりません!皆を囮にして私が生き残るなど……」


「それが我々、近衛騎士の義務なのです!殿下、どうか!」


「しかし…!」


「隊長!()()が速度を上げました!!もうすぐそこまで来ています!!」


「くっ!!もはやここまでか……」


「諦めてはなりません!私達は全員で生き残るのです!!」


「殿下……」


「なんとしても、全員で……あっ…」


「殿下!!」




「させるかぁ!!」


馬にしがみつくように跨り、今にも空を飛ぶ化け物に食われそうになっている少女を見た瞬間、俺はカレトヴルッフに纏わせたオーラを解き放っていた。

オーラは高速で飛んでいき、大口を開けた化け物の翼を斬り裂いた。


甲高い不気味な声を上げながら化け物が地に落ちる。

甲冑を着た騎士達は手綱を巧みに操り馬を動かし、その巨体を避けてこちらへ近寄ってきた。




「き、君は……!?」


先程食われそうになっていた少女の隣で馬を走らせていた騎士が、俺の前に来るなり目を白黒させながら問いかけてきた。

他の騎士達は地に落ちた化け物を振り返って目を剥いたり、化け物と俺とを交互に何度も見たりしている。


「俺はこの先にある街の冒険者です。話は後で。まずはアイツを始末します。」


「し、始末!?ヤツを倒せるのか!?」


「おそらく。絶対とは言いませんが、自信はあります。」


騎士は絶句して唖然としている。

さっきの一撃は見ていたはずだから、そこそこ説得力もあったと思う。


「ほ、本当にアレを倒していただけるのですか!?」


馬に乗った少女が馬を降り、縋るような瞳で俺の手を握った。

うぉ、綺麗だなこの子。

というか、この煌びやかな服装といい、高貴な雰囲気といい、護衛騎士の数といい、この少女はもしかして………今は戦いに集中しよう。


「やれるだけやってみます。」


「お願い致します!どうか、どうか私達をお救い下さい!!」


少女の懇願に言葉を返したいところだが、化け物が砂埃を巻き上げながら体を起こそうとしているのを見て、俺は鋭くそちらを睨んだ。

心を落ち着かせながらそちらへ歩み寄ると、騎士達は道を開けてくれる。


首を上げてこちらを睨む化け物を見て、俺は覚悟を決めた。



「竜か。流石に初めて見たが……ここでこいつを倒せば、俺も晴れて竜殺し(英雄)になるのかね。」

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[良い点] 面白いです、まだ数話ですけど続きが気になります、特に元PTのこれからですよねwそれぞれヤバい事になりそうですけど、心情的に一番はツンデレのエレンですかね、実は主人公に好意をよせてるのに言い…
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