魔剣と魔法
試合開始直後。
フェイの杖から青い雷が放出され、空間を裂きながら迫ってきた。
俺は冷静にカレトヴルッフに魔力を纏わせ、これを斬り払う。
雷撃は打ち消されてなお、周囲の地面に焦げ跡を残していた。
「……以前のお前だったら、この威力の魔法を放つのにあと3秒はかかってたな。」
戦いの最中だというのに、感慨深くなって思わず呟く。
「上から目線でわかった気になるな……魔盲が。」
喋りつつフェイは杖に魔力を込める。
俺は彼女との距離を詰める為に、身体に魔力を纏って走り出した。
「ほらほらほら!!くたばれアルトっ!!」
青白く光る矢と光球、それらが幾つも浮かび上がり、一斉に放たれる。
直線的だが高速で迫る矢と、それよりも鈍いがフラフラと予測し難い動きで飛んでくる光球。
それらを組み合わせて発動しているのだ。
「っ!!……ははっ、凄いじゃねぇか!!」
パーティーを組んでいた時に彼女の魔法は何度も見たが、これほどの数を組み合わせて使えてはいなかった。
大抵の戦士であれば、あっという間に蜂の巣にされる事だろう。
だがカレトヴルッフの力で超強化された肉体があれば、対処は十分可能だ。
「ふっ!はっ!………っ…おりゃ!!」
迫る矢を避け、断ち切り、進む。
矢の群れを越えたところに迫る光球。
予断を許さない凶悪な魔法だ。
光球の向こうに、フェイの嘲笑に歪む顔が見えた。
「甘いんだよ!!」
あらゆる方位から飛んでくる光球を避ける。
だが直線的な動きの矢ほど多くは避けられない。
俺はカレトヴルッフに更に魔力を流し込んだ。
禍々しく光る魔剣は一瞬で俺の身長を超える大剣へと変貌した。
力任せに振り払い、複数の光球を一気に斬る。
「なっ!…くそぉ!!」
フェイは驚愕に目を見開くも、迫る俺を見て右手の腕輪に魔力を通した。
瞬時に大規模な魔法が発動する。
放射線状に放たれる津波。
激しい水流の中には、無数の氷塊が踊っている。
あの波に捕われると、強化した肉体でも無事では済まないだろう。
「とんでもねぇ魔法だな……」
額を冷や汗が伝う。
これほどの魔法を瞬時に発する事ができるとは思えない。
おそらくあの腕輪は、魔法をストックしておけるような魔道具なのだろう。
「だがな……この程度で負けるわけには、いかねぇんだよ。」
かつてフェイから受けた屈辱の記憶が蘇る。
彼女の成長は嬉しく思う。
嬉しく思ってしまう。
だが、それでもこの怒りは本物だった。
足を止め、カレトヴルッフを正眼に構える。
迫る津波を睨みつけ、魔剣に膨大な魔力を流し込んだ。
竜を断ち切った時にも引けを取らないほどの魔力を飲み込んだカレトヴルッフは、見上げるほどの大剣へと変化した。
「はぁぁぁ!!!」
巨大な波に飲み込まれる寸前、俺はカレトヴルッフを振り下ろし、暴力的な魔力を解き放った。
ステージを包み込まんとしていた大規模な波が、巨大な岩石に当たったかのように打ち破られ、飛沫を上げる。
あれだけの迫力を誇っていた津波が、竹を割ったように真っ二つに切り裂かれた。
その先には驚愕し目を剥くフェイがいる。
強化された俊足で、再度駆け出す。
魔力を解放したカレトヴルッフは既に元の大きさに戻っていた。
「くっ、くるなぁ!!」
慌てたフェイが氷の礫や雷撃を放つが、俺はそれらを斬り払いながら速度を落とさず突き進んだ。
そして、数秒の内に彼女の元へ辿り着いた。
「ふっ!……おらっ!!」
苦し紛れの雷撃を斬り、返す刃で一閃。
カレトヴルッフが彼女の体を捉えたその時、硬質な音が響き魔剣が弾かれた。
見守りの魔道具の効果により、身体的ダメージが無効化されたのだ。
「そいつはもう見た………計算内だ。」
俺は弾かれた勢いを殺す事なく、あえて勢いのままに体を回転させる。
先程とは逆方向から迫る連撃に、フェイは目を見開いた。
そして次の瞬間ーーー
ーーー彼女は、不敵に笑った。
一瞬、脳裏に引っかかるものを感じた。
だが止める事はできない。
カレトヴルッフがフェイの脇腹を捉える。
だが………
硬質な音が、再度響き渡った。
「……なっ!?」
見守りの魔道具は、一つではなかった。
驚愕する俺を嘲笑うかのように、フェイが右手を振り上げる。
ゆったりとしたローブの右袖が少し捲り上がり、その細腕にある物が着いているのが見えた。
そこには、右手首に着いている腕輪と、全く同じ物があった。
俺は思わず息を飲む。
そして、フェイの右手から青白い灼熱の炎が放たれた。




