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燃ゆる蛇

難産でした。

戦闘描写適当になったけど突っ込まないで下さい。

陰陽師が胸元から取り出したのは、何枚もの紙札。

そこには何やらうにょうにょした黒い文字が記されており、彼はその札をばっと撒き散らした。


「さてさて、それでは陰陽師の妙技をご覧じろ…ってね。」


陰陽師は扇子を口元でパッと広げる。

そしてブツブツと長い詠唱を始めた。

それに応じるように、散らばった紙札が黄色に発光しながら宙に浮かんだ。

さらに陰陽師の周りを囲むように漂う。


「ふむ、面白い。お前の術と私の矢、どちらが強いか、真っ向勝負だな。」


対するルフマーはニヤリと笑い、弓を構えた。

だが矢は持たず、彼女は素手で弦を引く。

そして目を瞑って深く息を吐いた。


「ふゅぅぅぅぅぅ………」


矢を番えていない弓に、どこからか現れた紫の光が集まる。

徐々に徐々に光は強さを増していくが、どうやらその光が形を成すまでには、かなりの時間がかかるようだ。

その頃、陰陽師の周りには渦のように風が吹き荒れ、紙札がバタバタと音を立てていた。



「……さぁ、準備は調った。」


あれほど強く吹いていた風が止まり、紙札は空中に静止している。

だが、それらは眩いばかりの光を放っていた。


「正真正銘、これが僕の切り札だよ。()()()に勝てたなら…この戦い、君の勝ちだ。」


陰陽師は無表情で淡々と言った。

そして扇子をスッと前へ向ける。


「降臨せよ…驚怖の火神、夏陰の凶将、南北を結び天より参れ…式神召喚・騰虵。」


光は炎となり、無数の紙札を燃やし尽くす。

あまりの眩さに全員が目を覆った。

やがて眩さが消えた時には、陰陽師の前に巨大な一匹の獣が現れていた。


「さぁ、君はこの子を倒せるかな?」


鎌首をもたげた巨大な白蛇。

その体は燃え盛る炎に包まれており、背には大きな翼が生えていた。



「ふゅぅぅぅぅぅ…………」


ルフマーは気後れする様子もなく、深く呼吸し続ける。

紫の光は段々と濃くなり、妖しく脈打っていた。


「グギュルルル……」


「駄目だよ騰虵。変身シーンや必殺技のタメの時に攻撃するのはマナー違反さ。様式美は守るからこそ美しいんだ。」


騰虵が目を瞑ったままのルフマーを鋭く睨み細長い舌を出して威嚇するが、陰陽師がそれを抑えた。

彼には不思議なこだわりがあるようだった。

そして、それは己の力への自信でもある。




「………待たせたな。」


暫し紫の光が脈打った後、煌々と輝く矢を番えたルフマーが目を開いてそう言った。

陰陽師はゆっくりと首を振る。


「いや、大丈夫だよ。のんびりするのは嫌いじゃない。けど、この子はせっかちなんだ。」


「グギュルルァ…」


「巨大な怪物だな。恐ろしい力を感じる。それがお前の切り札とやらか。」


ルフマーは淡々と言うが、額にはじっとりと冷や汗が浮かんでいた。

今にも暴れそうな矢を抑えるのに集中しているというのもあるだろうが、それだけではない。


「君のソレも大したもんだね。死霊の王が使っていた獄炎の魔法と同じくらいのプレッシャーだよ。やっぱりレベル詐欺だ。」


陰陽師も変わらず無表情だが、どこか先程以上に強張った表情にも見えた。

また、彼もうっすらと冷や汗をかいて少しフラフラとしている。

騰虵を召喚するのにかなりの魔力を消費したせいか、見た目以上に消耗している様子だった。



「さぁ、うちの子がもう我慢の限界みたいだ。」


騰虵が口から赤と黄の入り混じったような色の炎がチラチラと見えている。

ルフマーの動きを警戒しながらも、既に攻撃の準備をしていたようだ。


「私とて同じだ。それでは…()つぞ。」


ルフマー鋭い視線が騰虵を狙う。

観客達が手を握り締めて見守る中、彼女はそれを解き放った。



「……ふぅっ!!」


「グギュルルァ!!」


ギリギリと引き絞った手を離し、紫の矢は一筋の光線のように飛ぶ。

対する騰虵は口から煌めく炎を放射した。

それらがぶつかった瞬間、眩い光と耳を劈く爆音がステージに響く。


「穿てぇ!!」


「グギュルルル!!」


ルフマーの叫び声に応じるように矢は勢いを増して炎を貫いて進み、騰虵も負けじと強く炎を吐き出した。

その豪炎が矢を燃え尽くすのが先か、矢が炎を貫いて蛇に届くのが先か。


轟々と音を立てる炎を矢が突き抜けていく甲高い音が響き、徐々にその音は大きくなっていった。

観客達は耳を塞ぎ目を細めながらも、目をそらさないよう必死に耐えていた。



光の矢はその勢いを徐々に落としながらも炎を裂いて飛び続け、やがて突き抜けた。

そのまま騰虵の喉元に突き刺さる。


「グギュァ…!?」


騰虵が甲高い叫び声を上げる。

その大きな体が矢の勢いでのけぞった。

勝負あったかと誰もが思った瞬間、騰虵はゆっくりと体勢を戻していく。

紫の光が脈打つ矢はしっかりと刺さっているが、貫通するには足りなかったようだ。


「……本当に素晴らしいよ。騰虵の炎を貫き、傷を負わせるなんてなかなかできるものじゃない。流石に勢いは落ちていたみたいだけど、仮に障害なしにそのまま刺さっていたら、騰虵の頭ごと吹き飛ばされていただろうね。」


陰陽師が感心したように言った。


「だけど、僕の勝ちだ。これくらいなら騰虵はまだ消えない。諦めて降参を………っ?」


陰陽師が困惑した様子で言葉を切る。

それは、ルフマーが口元に不敵な笑みを浮かべていたからだ。



「届いて…良かった……」


「何を……っ!?」


陰陽師は違和感を覚えた。

その違和感が何からくるものなのか、彼は理解した。

騰虵の喉元に突き立った矢が未だ消えず、紫の光が止まる事なく脈打っていたのだ。

陰陽師がついに表情を崩し、目を見開いた。


「爆ぜろっ!!」


ルフマーがそう叫んだ瞬間、矢が一層輝きだす。

そして、甲高い爆音と共に炸裂した。

眩い光と爆風がステージから飛び出し、観客達は堪らず目を覆った。


「グギュッ……」


一瞬だけ騰虵の叫び声が聞こえたものの、それもすぐに爆音に呑まれていく。

そして強烈な紫の光が収まった後、そこ騰虵の姿はなく、陥没したステージと緑黒い血痕が僅かに残っていた。




パチパチという音が静寂の中に響く。

陰陽師が無表情で拍手していた。


「見事だよ。まさか騰虵が木っ端微塵に消し飛ばされるとは、思ってもみなかった。」


「…私はお前ごと吹き飛ばすつもりだったのだがな。」


最後の瞬間、騰虵が爆発の衝撃を陰陽師の方へ届かせないように体を丸めた為、彼は無事であった。


「さて、僕の切り札はやられちゃったわけだけど……」


陰陽師は体力も魔力も消耗しているが、それはルフマーも同じである。

いや、むしろ彼女の方が疲弊の度合いは強かった。


「私は、諦めはしない。」


「僕も、ここまできたら負けたくないかなって。」


ルフマーが矢を番え、陰陽師が扇子をパッと開いた。







「そこまで!!」


副団長の声が響き渡る。

観客達は緊張から解放されて息を吐き、興奮した様子でザワザワと騒いでいた。

ステージでは一方が膝を付いて肩で息をしながらも意識を保っており、もう一方が他に伏していた。


「はぁ…はぁ…はぁ……くっ…」


苦しげに眉を顰めている勝者。

その左肩には、一本の矢が突き立っていた。


「いったいなぁ……これだから戦いは嫌いなんだ……」


勝ったのは、陰陽師であった。

ルフマーは魔力を枯渇しかけたところに風の陰陽術をくらって吹き飛ばされ、そのまま意識を失った。

だが最後の最後に放った矢が陰陽師の肩を穿っていたのだ。


「一応、勝ったは勝った…けど……」


陰陽師の方も魔力をかなり消費し、体力的にも底をつきかけている。

朦朧とする視界で医療班に運ばれていくルフマーを見て、自分自身も応急処置を受けながら呟いた。


「彼女に謝らないと…いけないな……」






その後、準決勝に進むはずだった陰陽師の棄権が決まった。

消耗の度合いから考えて、まともに戦う事はできないと判断した為であった。

ここでプライドやらを持ち出さないのはあの陰陽師らしく、観客達も多少の不満を抱えながらも、それだけの試合だったと納得した。


陰陽師が棄権した事で敗退したはずのルフマーに準決勝進出の打診がなされたが、彼女は即座に断った。

たとえその権利を与えられたとしても、敗れた自分が上に進むのはルフマーの矜持が許さなかったのだ。

翌日の準決勝は、エレンの不戦勝が決定した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 死霊の時のように長い間待つことになるのだろうか…… 大会編はホント鬼門すぎるなぁ、特に唐突に表れる強キャラとかで流れがw
[一言] 更新の日付から見て、この物語の最後の更新以降に書かれた新作が三〜四作ありますが、この物語はこれで打ち切りなのでしょうか?
[一言] この勝負と結果に不満な方もいるみたいだけど、自分は双方とも見栄で余裕ぶっていただけで、なんだかんだで次の戦いが出来ないくらい全力を振り絞ったという事で、良い勝負だったと思うけどな。ルフマーも…
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