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魔弓の民と陰陽師

「……何とも覇気のない男だな。」


「開口一番にそれ?失礼な人だなぁ。」


闘技場のステージで向き合った相手に対して、微妙そうな顔をしているルフマー。

そんなルフマーに苦言を呈しているのは、個性というものを削ぎ落としたような無表情の魔法使い。

怒っているような言葉とは裏腹に、青年の表情は少しも崩れていない。


「すまなかった。悪気はないんだ。」


「うん、何となくわかるよ。だからこそ、ナチュラルにディスられて困惑してるんだけど。」


「ディス…?どういう意味だ?」


「あぁ、ごめんね。何でもないんだ。僕、たまに変な事言うけど気にしないで。」


「そ、そうか。」


ルフマーは目の前の青年の持つ独特の雰囲気に戸惑っていた。




「本戦の第二戦、お前の戦いは観させてもらった。私はあまり魔法には詳しくないが、それでも大した実力だと感じた。」


「どうも。厳密には僕のは魔法ではないんだけどね。」


「む、そうなのか?しかしお前の情報を調べたら、ギルドでも魔法使いと認識されていたぞ。」


「僕が使ってるのは魔法とは異なるスキルなんだけど……周りにはなかなか理解してもらえないし、説明が面倒だから魔法って事にしてるんだ。まぁ、実際に魔法に似てる点も多いし、ちょっと特殊な魔法って認識で間違ってはいないんだけどね。」


「ふむ、そうだったのか。ちなみに、何という名のスキルなのだ?」


「え、それ聞いちゃうの?」


青年が首を傾げた。

自らのスキルの情報は、基本的には他人に軽々しく話すものではないからだ。



「試しに聞いてみただけだ。」


「ふぅん……僕のスキルは『陰陽師』って言うんだよ。陰陽術っていう魔法みたいな力を使えるんだ。」


青年の言葉に、ルフマーが目を丸くした。


「…何故話した?情けのつもりか?」


「聞いたのは君じゃないか。」


「それはそうだが……普通は言わないだろう。」


「理不尽だね。」


青年は肩をすくめた。



「説明が面倒ってだけで、別に隠してるわけじゃないんだよ。どうせ名前を聞いたって、どんな力かはわからないでしょ。」


「しかし、過去の記録を調査すれば、同じスキルを持った者が出てくるのではないか?そうすればお前の力を知る事だって可能だ。」


「あぁ、それはないよ。このスキルは僕だけのスキルだから。」


「……何故そう言える?」


あっさりと言う青年に、ルフマーは眉を顰めた。


「神様がそう言っていたからね。トラックに轢かれてチート貰うなんて漫画みたいな出来事で驚いたけど、もっと驚いたのはこの世界に天然チートが結構いた事だよ。お陰で思っていたほど俺Tueeeはできなかった。まぁ、別に良いんだけどね。」


「………??」


「ごめんごめん、君には何の事だかわからないよね。とにかく、僕のスキルはユニークなものだから、名前くらい知られたって構わないんだよ。」


「そう、か……よくわからんが、わかった。」


考えても無駄だと判断したルフマーが頷く。

そこで審判員の帝国騎士副団長が口を挟んだ。




「そろそろ始めても良いだろうか?」


「む、すまない。話が長くなってしまった。」


「ごめんなさい。準備オッケーです。」


「うむ、それでは両者、距離を取れ。」


副団長の指示に従い、ルフマーと陰陽師の青年が離れる。

互いに遠距離戦を得意とするという事もあり、結構な距離を開けた。

副団長もそれを承知している為、離れすぎなどとは指摘しない。


距離を取った二人が向き合う。

ルフマーは弓を構え、数本の矢を手に取った。

陰陽師は杖などは身につけず、片手にやや大きめの扇子を持っているだけだ。


「両者、構え………始め!」


試合開始の号令が響き、ルフマーは矢を番え、陰陽師は扇子を開いた。






「ふゅぅぅぅ……」


ルフマーが矢を番えたまま独特な呼吸法で呼吸し、矢を引き絞る。

陰陽師は扇子で口元を隠し、ブツブツと呪文のようなものを呟いていた。


「ふっ!」


ギギギ…と引かれた矢が放たれ、風を引き裂いて陰陽師へ向かった。

これまでの戦いで金属製の鎧や盾を貫いてきたその剛弓を前に、しかし陰陽師は焦る事なく扇子を前に突き出した。


「土塊。」


途端、陰陽師の眼前に土が固められて岩のような球体になったものが現れ、高速で発射された。

高密度に固められた土は飛んでくる矢にぶつかり、矢を破壊する。

土塊は矢に穿たれて罅が入りながらも前進するが、ルフマーが放った二射目に貫かれた。


互いに相手の攻撃を相殺。

単発の威力なら陰陽師の方が上だが、連射性はルフマーの方が上のようだった。




「ふむ…ならば、これならどうだ?」


ニヤリと好戦的な笑みを浮かべたルフマーが十本の矢を弓に番えた。

明らかに無謀な行為だが、ルフマーが目を閉じて念じると、十本の矢は薄紫色の淡い光を纏った。


「何だか嫌な予感のする技だね。なら僕も……」


陰陽師は対抗するように扇子で口元を隠し、口早に呟き始める。

そうしている間にも紫の光は収束していき、後に残ったのは、淡く明滅している一本の矢となった。


「ふゅぅぅぅ……喰らえっ!!」


今にも暴発しそうに明滅する矢をルフマーが斜め上に放つ。

その時、陰陽師も扇子を前に突きつけた。


「鬼火。」


青白い不気味な炎が浮かび上がり、明滅しながら飛ぶ矢を迎え撃つように飛び立った。

だが光の矢が頂点を迎えた瞬間、ルフマーが叫ぶ。


「弾けろ!」


その言葉と共に、明滅していた矢が紫色の強烈な光と共に無数の塊に分裂した。

観客達がその光景に驚愕の叫び声を上げた。

しかし、陰陽師はそれでも表情を崩す事なく、淡々と呟いた。


「散。」


瞬間、青白い炎がルフマーの矢と同じように分裂した。

薄紫の矢と青白い炎が連続してぶつかり、ステージの上空を炸裂音と眩い光が満たしていく。


暫し目を瞑っていた観客達がようやく目を開けた時、ステージには煙が立ち込めていた。

煙が晴れた時、そこには荒れたステージで相対する二人がいた。




「……まさかこの技を見抜かれるとは思わなかった。見事だ。」


陰陽師を鋭く睨むルフマーは、体のあちこちに焼け跡がついており、無傷では済まなかった事を示していた。


「ファンタジー系の漫画とかでは割とお馴染みの技だからね。予想より多かったから少し焦ったけど。」


相変わらず無表情の陰陽師だが、ルフマーと同じく体のあちこちに傷を負っており、彼の周辺には幾つもの矢が突き刺さっていた。


「焦ったようには見えなかったがな。流石はS級冒険者というところか。」


「そういう君はA級冒険者だっけ。どっかの王様の推薦さえあれば、すぐにでもS級になれそうだね。レベル詐欺だよ。ゲーマー達が怒って運営にクレームメッセージを送りまくっちゃうよ。」


「……すまない、何を言っているのかまるでわからない。」


「だろうね。」


陰陽師は肩をすくめ、扇子をパチンと閉じた。






「……さて、ゲームならここから互いに色んな技を出してHPを削り合ったり、アイテム使って自分を強化したり相手を弱化させたりするところだけど……あいにく、この世界はそこまで優しくない。」


陰陽師が扇子で掌をパチ…パチ…と叩く。


「技と技が飛び交う長期戦なんて滅多にあるもんじゃない。自分の持てる力を振り絞って、油断したら一瞬で殺されるような緊張感の中で、ギリギリの戦いをするんだ。」


「…何が言いたい?」


「つまりだね……君みたいに強い相手に、手加減をしている場合じゃないって事だよ。笹食ってる場合じゃねぇ!ってやつだね。」


「それの意味はわからんが……手加減、だと?」


ルフマーが眉を顰めた。


「お前は、これまでの戦いで手を抜いていた、と?」



「己の持つ技を全て出し切って勝利する事が全力だというのなら、僕は本気ではあっても全力では無かったという事になるね。」


「つまり、まだ隠し持っている技があるのか。」


「まぁね。これはできれば決勝まで取っておきたかったんだけど…どうやら僕にそんな格好をつける事は許されないらしい。下手に温存しておけば、今度こそ君の矢に射抜かれそうだからね。」


「……その技を使えば、私に勝てる自信があるのだな?」


ルフマーは不機嫌になるどころか、獰猛な笑みを浮かべた。

生まれながらにして戦士の彼女らしい笑みだった。



「君の隠している技が、僕のそれ以上でなければ…だけどね。」


「ふむ……何故私が技を隠していると?」


「能ある鷹を爪を隠す…これじゃ自分まで持ち上げちゃうかな。でも、強い人ほど何か隠し持ってるものだからね。」


「普通はそうかもしれないが、これは武闘祭の本戦だぞ。この期に及んで戦力を温存しているなど、考えにくいものだが。」


「うん、だからカマをかけたんだけど……いっその事何もなかったら良かったのになぁ。」


陰陽師は残念そうに天を仰いだ。

しかしその顔には、今まで見せなかった笑みがうっすらと浮かんでいた。




「誇って良いよ。僕がこの技を使うのは、死霊の王(リッチ)を討伐してS級冒険者になった時以来だ。」

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― 新着の感想 ―
[一言] 漫画ではよくある描写ですが、現実には矢を放ってから、呪文を唱える時間はありません。矢の切払いも、放ってから動き出しては間に合いません。
[良い点] さらっと転生者さんがいた件w
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