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これまでの歩み

俺とエレンは、王国のとある田舎の村で生まれた。

俺は村の商人の三男、エレンは村長の次女だった。

親同士の仲が良く、俺達は幼い頃からよく一緒に遊んでいた。


子どもの時から特に秀でた才能の無かった俺と違い、エレンは容姿に優れ運動も得意だった。

エレンは常に俺を引っ張り回したし、俺はいつもエレンの後を追っていた。

勝ち気で我儘なエレンは村の子ども達としょっちゅう喧嘩をしており、人付き合いだけエレンより上手かった俺はよく仲裁として奔走していた。



そんな俺達が冒険者に憧れるようになったのは10歳の時。

村の近くに現れた魔物を討伐してもらう為にギルドに依頼し、村に冒険者が派遣されたのだ。

冒険者達はあっという間に魔物を討伐してしまった。

いま思うと、あの時の魔物はそう大した相手じゃなかったのだが、当時の俺達にはその冒険者達が英雄のように輝いて見えた。


「アルト!アタシ達は冒険者になるわよ!いっちばん強い冒険者になって、困ってる人達を助けるの!!」


キラキラした瞳で語るエレンに俺は憧れた。

たぶん、俺が初めてエレンを女の子として意識した瞬間だと思う。



それから俺達は冒険者になる為に努力した。

俺もエレンも長男長女ではなく、親もそれほど反対しなかった。

成人したら好きに生きていけ、という事だ。


俺達は毎日体を鍛え、剣を振るった。

エレンほど運動が得意ではない俺は、彼女に置いていかれまいと必死に訓練した。

更に戦い以外でエレンの役に立とうと、冒険者の事や旅の仕方なども勉強して知識を身につけていった。






15歳で成人となり、俺達は村を出立した。

到着した街のギルドで冒険者登録をし、そこで正式に冒険者となった。

そして幾つかの街を転々としながら魔物を討伐し、依頼を達成し、コツコツ金を貯めていった。


18歳の頃、ようやく必要資金が貯まった俺達は、教会で『スキル授与の儀』を受けた。

これはスキルという特殊な力を神から授かる為の儀式であり、人によって授与されるスキルは異なる。

高位の神官しかできない儀式の為、教会への寄付金が多く必要なのだ。



冒険者として大成するならスキルは必要不可欠。

それを手に入れる為に、俺達は節約しながら日々頑張っていた。

そして、ついにスキルを手に入れたのだ。


俺に授けられたスキルは『魔力回復』『魔力譲渡』『空間収納』の三つ。

『魔力回復』は消費した魔力の自然回復力を増幅させるスキル。

『魔力譲渡』は自らの魔力を他者に譲渡する事で、対象の魔力を回復させるスキル。

『空間収納』は異空間に物質を保管する事ができるスキルで、その容量や機能はスキル所有者の保有魔力量によって変化する。


俺は愕然とした。

戦闘に使えるスキルが無いのだ。

どれだけ鍛えたとしても、戦闘スキルがなければ高位の魔物は倒せないというのが常識だ。

つまり、俺には一流の冒険者になる資格はないと言われているようなものだった。



それに対してエレンは凄かった。

エレンに授けられたスキルは『剣王』『獅子奮迅』『烈焔剣』の三つ。

『剣王』は溢れんばかりの剣の才能を発揮し、まるで手足のように剣を扱えるようになるスキル。

『獅子奮迅』は揺れ動く感情の振り幅によって身体能力を強化するという特に珍しいスキルだ。

喜び、楽しみ、怒り、それらの感情が高まる事で、エレンは一時的に強くなるのである。

『烈焔剣』は剣に燃え盛る炎を纏わせるスキルで、硬い魔物の体も綺麗に切り落とせるようになる。


エレンのスキルは見事に戦闘に役立つものばかりだった。

儀式を執り行った高位神官も目を剥いて驚き、教会の聖騎士にならないかと真面目に勧誘してきたほどだ。

しかしエレンは冒険者として強くなる為にそれを断り、それからも俺と冒険者を続けた。



スキルを授かってからというもの、俺とエレンの差は加速度的に広がっていった。

俺はエレンの荷物持ちになり、エレンはギルドから多大な賞賛を得るような功績を打ち出していったのだ。


ギルドからも周りの冒険者からも、俺は冷たい目で見られ続けた。

早くエレンから離れろと陰で脅された事もある。

しかし、俺はエレンから離れたくなかったし、エレンも俺を手放すつもりはないようだった。


エレンの足を引っ張るのが嫌だった……いや、エレンに見捨てられるのが怖かった俺は、エレンに内緒で自らを鍛えるようになった。

戦闘では使えないスキルも、使い方次第で何かしらの役には立つはずだと考えた。



俺のスキルはどれも魔力量が重要になるものだ。

だからまずは魔力量を増やす訓練をした。

簡単な話だ。

ただ魔力を極限まで消費し、それが回復するのを待つだけだった。


そうする事で魔力量を増加させられるのは冒険者なら誰もが知っている事だが、この方法を実行する者はほぼいない。

何故なら、魔力を極限まで消費すると回復するまでの間、全身に強烈な疲労感と虚脱感が襲いかかるからだ。


極限まで消費せずとも、普通に消費した分が回復するだけでも魔力量は増幅する。

だから大抵の人は消費魔力を調整して極限まで消費しないようにしているのだ。

しかし極限まで消費した時の方がずっと増幅しやすいのだ。

俺はエレンに置いていかれないようにする為に、日々の苦痛を覚悟でその訓練を始めた。



魔力量を増やす訓練は本当に苦しかった。

俺は『魔力回復』スキルのお陰で虚脱感からの解放も早かったが、それでも何度もやめてしまいたいと思った。


常にぐったりした様子の俺に、周りの奴らからは「やる気がない」とか「寄生虫」とか散々な言葉をかけられたが、エレンだけは心配してくれた。

だから俺は諦めずに頑張ってこれたのだろう。

20歳になる頃には、俺の魔力量は異常なほどに増幅されていた。





20歳になった年、俺達は拠点を王都に移し、そこでランスとフェイに出会った。

二人は俺達より幾つか歳下で、まだ冒険者になったばかりの新人だった。

新人育成の依頼で出会ったランスとフェイに才能を感じたエレンが二人を勧誘し、俺達はパーティーを作った。


既に一流の冒険者になっていたエレンは金に困らなくなっており、パーティーを組んですぐにランスとフェイに『スキル授与の儀』を受けさせた。

結果はやはり凄まじいものだった。



ランスのスキルは『英雄』『天才』の二つ。

『英雄』は魔力を消費して自らのあらゆる能力を格段に上げるスキル。

『天才』は様々な方面への才能を開花させるスキル。


神が与えた超万能型のスキルだった。

この瞬間、ランスは冒険者としての大成が約束されたものとなった。



フェイのスキルは『魔導師』『並列魔法』の二つ。

『魔導師』は多彩な魔法の才能を得るスキルで、魔法の効力を上げる効果もある。

『並列魔法』は複数の魔法を同時に行使する事ができるスキル。


『魔導師』だけでも一流の魔法使いになれるというのに、おまけの『並列魔法』である。

フェイは新人の内から強い魔物を簡単に討伐できるようになった。



ランスとフェイが冒険者に慣れる頃には、俺の立場は低いものになっていた。

魔法至上主義のフェイは最初から俺を毛嫌いしていたし、ランスもすぐにあからさまに俺を見下すようになった。

そして、信じたくなかった事だが、ずっと一緒にいたエレンでさえも、俺を見限ったような言動をする事が増えてきたのだ。






パーティーが四人になって約一年が経ち、ルースが仲間に加わった。

それまで教会に仕えていたらしいが、事情があって冒険者に転身したところを、ランスに勧誘されたのだ。


ルースは既にスキルを手に入れていた。

ルースのスキルは『回復魔法』『祈誓』の二つ。

『回復魔法』は回復魔法の才能を得るスキル。

『祈誓』は神に誓いを立てる事で、それが守られている間は神の加護を得るスキルだ。


ルースもすぐにパーティーにいなくてはならない存在になった。

そして俺はより貶されるようになっていった。






ルースが加入して二年が経ち、俺はついにパーティーを追放された。

仲間達の為に頑張ってきたつもりだったが、あいつらにはわかってもらえなかったようだ。

色々と教えようとしたのだが、あいつらは俺の言葉には耳も貸さず、あまりしつこく言うと喧嘩になる恐れがあった。


エレンは強力なスキルを多く持っているが、『烈焔剣』の消費魔力は実はとんでもないものだ。

『獅子奮迅』も自らを強化している間は常に魔力が消費される為、エレンはよく魔力が枯渇しそうになっていた。

正直な話、俺の魔力量とそれを活かした『魔力譲渡』が無ければ、エレンの継戦能力はかなり低い。


ランスの『英雄』スキルはそれ以上に消費する魔力が多い。

あのスキルは本当はあんなに簡単に使うものではなく、ここぞという時に解放するものなのだ。

今みたいに全力で使いまくっていたら、もって数分といったところだろうか。


フェイの『並列魔法』は、同時に行使する魔法が増えれば増えるほど、消費魔力はどんどん上がっていく。

発動すれば強力なスキルだが、これも本来であれば何度も発動できるものではない。


ルースの回復魔法は、一発だけ見ると特に消費魔力が多いという問題はない。

しかし、彼女はちょっとした傷でもすぐに回復しようとしすぎる。

結果として常に回復魔法を使っているようなもので、やはり消費される魔力は多くなってしまう。

普通はもっとシビアにタイミングを見据え、本当に回復が必要なのかどうかを的確に判断する力が必要なのだ。



そんなエレン達がこれからどうやって戦っていくのか。

俺は見る事はできないだろうが……まぁ、頑張ってくれ。

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