武闘祭予選
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皆さんいつもありがとうございます。
武闘祭当日。
俺は出場者として、皇帝陛下や殿下より早く帝宮を出た。
「うわ…人多いな。」
武闘祭当日という事もあって、出場者や観戦する者、露店を開く者も多く、大通りは人波でごった返している。
途中まで何とか進んだところで、出場者専用ルートなる看板が見えた。
そちらに行って看板の近くに立っている騎士に話しかける。
「出場者はここから行けるのか?」
「はい、そうです。失礼ですが確認のため……あっ、アルト殿!」
看板近くの騎士は、何度か模擬戦で対峙した事のある男だった。
「失礼致しました。出場者の方々は混乱を避ける為、こちらを通っていただく事になっております。」
なるほど、人が多くて出場者が遅れるような事になったら大変だから、こうして抜け道を用意しているのか。
「それじゃ、通らせてもらうぞ。」
「はい。……御武運をお祈りします。」
「あぁ。」
深々と礼をする騎士を背に、俺は裏通りに踏み入った。
最短ルートで闘技場に辿り着き、出場者専用出入り口から中に入り、受付を済ませた。
武闘祭のエントリーには基本的に貴族等の推薦が必要だが、A級以上の冒険者は推薦なしでも参加できる。
だから俺は推薦なしでも出場資格はあるのだが、帝国の冒険者である事をアピールする為に、皇帝陛下からの推薦をいただいた。
案内役の騎士がおり、控室に通された。
中に入ると結構な広さがあり、15人ほどの出場者が待機していた。
各々武器の手入れをしたり、出場者同士で会話したり、隅の方で座って静かに瞑想したりしている。
「出場者数の関係上、最初はこちらのような大部屋を控室とさせていただいております。」
「あぁ、ありがとう。」
案内役の騎士が出ていき、辺りを見渡す。
帝都で活動している顔見知りの冒険者を見つけ、歩み寄った。
「よぉ、お前も出場するんだな。」
「アルトか。まぁ、これでも一応A級だからな。折角ここで武闘祭をやるってんなら、力試しくらいはしときてぇだろ。」
中背の俺と違ってデカくて筋骨隆々のこいつは、A級パーティーのリーダーをしているバルクだ。
何度か共同依頼をこなした事もある。
「パーティーからはバルクだけか?」
「いや、もう一人出るんだが、違う控室に案内されてった。この部屋割りにも何か意味があんのかもな。」
「初戦はここに集まった奴らでバトルロイヤルとかな。」
「おいおい、嫌な冗談言うんじゃねぇよ。それだといきなりアルトと戦わなくちゃいけねぇじゃねぇか。勘弁してくれ。」
俺の適当な予想にバルクが苦笑する。
だが、俺の冗談はどうやら現実となってしまったようだ。
俺達がそれを知るのは、一時間後の事であった。
「それでは、初戦はこちらにお集まりいただきました皆様で勝ち残り戦を行っていただきます。」
「……マジかよ。」
控室に30人ほどが揃った段階で案内役の騎士が来て、部屋にいた俺達はステージへと連れて行かれた。
円形の闘技場、天を覆うものは無く、青い空が広がっている。
観客席には所狭しと大勢の人が座っており、登場した出場者達に歓声を浴びせている。
「トーナメントへ進めるのは三人です。残り人数が3人となった瞬間、試合は終了致します。また、審判員達が戦闘不能と判断した者はそれ以上の戦闘行為を禁止します。戦闘不能者に対する攻撃を行った者は失格となりますので、ご注意下さい。」
ステージの周りに点々と立っている騎士が審判員だな。
「なお、優秀な回復魔法師が多数おりますので、骨折程度でしたら治療させていただきますが、四肢の欠損等に関してはその限りではございません。最後に……殺害行為は厳禁です。場合によっては失格となるだけでなく捕縛させていただく可能性もある為、お忘れなきようお願い致します。」
場合によっては、という事は失格だけで済む事もあるってわけだな。
つまり、故意でなければ罪には問わないが、絶対するなよ…という事だ。
「それでは、5分後より試合を開始させていただきます。それまで戦闘行為は禁止ですので、戦闘以外でご自由にお過ごし下さいませ。」
「……おいアルト。生き残れるのは三人だってよ。」
隣にいたバルクが鋭く周りを見回してそう言った。
「あぁ、そうだな。」
「組まねぇか?ぶっちゃけお前には俺の力なんざ必要ねぇだろうが……せめて俺以外の奴を狙ってくれたら助かる。」
共闘の提案だった。
勝ち残れるのは三人。
つまり、自分を含めて三人までなら共闘も可能というわけだ。
他にも同じように考える奴はいるようだった。
各々臨時パーティーを組んだりしながらステージ上にバラけている。
「……良いぜ。俺はお前を狙わない。」
「良かった。一番の懸念材料が晴れたぜ。」
バルクは安堵してニヤッと笑った。
「それじゃ、離れて陣取るか。互いに近くにいたら戦い辛いだろ。」
「おうよ。んじゃ、健闘を祈るぜ。」
俺とバルクは拳をコツンとぶつけ合い、移動を開始した。
「ただいまより、武闘祭予選第三戦を開始する。」
審判員長みたいな騎士が厳かに宣言する。
彼は帝国騎士団の副団長だったはずだ。
というか、これが第三戦という事は、既に同じような戦いが二回行われていたという事だな。
「総員、構えよ。」
出場者達が一斉に武器を構える。
俺もカレトヴルッフを抜き放つと、鞘が靄となって消えた。
魔剣が魔力を吸収して脈打つ。
「始め。」
副団長は静かに告げた。
戦の始まりである。
勝者が決まるのに時間はかからなかった。
試合開始直後、俺はカレトヴルッフに大量の魔力を流し込み、一気に活性化。
更に魔力を流して身体強化し、近くにいる敵から倒していった。
もちろん殺してはいない。
騎士達との模擬戦で身につけた技が役に立ったのだ。
カレトヴルッフは刃に魔力を流す事で切れ味を増したりできるが、イメージ次第で逆に切れ味を落とす事も可能である事が、訓練の中で判明したのだ。
刃に魔力を被せるようなイメージというか、鞘を纏わせる感覚に少し似ていた。
その状態ならば、剣の形をした鈍器のように扱う事ができた。
とはいえ、力加減を間違えれば頭を潰してしまうくらいには硬いのだが。
そこらへんも上手く調整した為、戦った相手は全員が骨折や打撲だけで済んでいる。
「そこまで。勝ち残った三名は中央へ。」
副団長の言葉で、勝ち残った三人が中央に集まる。
一人は俺、一人はバルク、そしてもう一人は異国風の格好をした魔法使いの男だった。
「無事に残れたみたいだな、バルク。」
顔や腕に数カ所の切り傷をつけたバルクにそう言うと、彼はニヤッと笑った。
「まぁな。どっかの誰かさんほど派手な活躍はしてねぇが。随分と暴れてたみたいじゃねぇか。」
「そうか?」
「お前一人で半分は倒しちまったんじゃねぇか。大したもんだ。」
「強力な相棒がいるからな。」
既に鞘を纏わせ、腰に佩いたカレトヴルッフをコツンと叩く。
「それにしても、アルトのお陰でずいぶん早く終わったな。」
「確かに、思ったより早くカタはついたな。」
「いや、それはお前が異常なだけだからな。出場者のレベルから考えると、普通はもっと時間がかかるだろ。」
「異常って何だよ。」
「大陸各地のA級S級の冒険者や名の知れた傭兵や騎士を相手に一人で圧倒できる奴なんてどこにいんだよ。観客も終始ひっくり返ってたぜ。」
その言葉に首を傾げながら観客を見渡す。
ザワザワ騒がしい音の中に「化け物だ」とか「今年の優勝は…」なんて言葉が聞こえた。
俺が見た方向に座っていた観客が顔を強張らせている。
「……皇帝陛下は喜びそうだな。」
ダンディな笑みでふんぞり返る皇帝陛下が鮮明に脳裏に浮かんだ。




